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広がる世界2  作者: HGCom
4/17

004 特典は裏世界

後半が設定集みたいになって申し訳ないです。

 なんだかんだとミゲルと話しつつも、すっかりハマってしまった俺は、すれ違い様に[剣で斬る]を使って、どんどんゴブリンを倒していった。

 ちなみに、レベル1だとマップにはゴブリンしか出ないゴブリンワールドだった。

 エンカウントも歩いていれば、1分に1度は遭遇できる程度で、サクサク進められた。


 順調に10匹目を倒した時に、キャラがレベル2になったんだ。

 レベルが上がると、自動で身体能力が少し上がるみたいだった。

 この辺は、ゲームとしてお決まりだよな。

 剣で斬る際の再攻撃時間も、コンマ0何秒という気づかない程度だけど早くなったらしい。


 モンスターを倒すと、ゲームの肝でもあるポイントを取得でき、そのポイントを消費して、以下の事ができるらしい。


 ------------------------------------------------------------

『スキル取得』……新しいスキルを取得できる。(取得できるスキルは、保持するポイントやレベル、それに現在のスキル構成に左右される)

『スキル強化』……既に取得しているスキルを強化できる。

『身体能力強化』……基本的なステータス(ちから、すばやさなど)を強化できる。

 ------------------------------------------------------------


 攻撃手段を増やすか、ステータスを上げるかって事だな。

 それで、さっそくどんなスキルが取得できるかと、ミゲルに聞いてみたんだ。

 [剣で斬る]一択だと、この先つらくなりそうだったからな。

 すると……。


「レベル2で取得できるスキルは無いぞ。ただ、[石を投げる]の石が、ポケットに4つ入るようになったぞ!」


 こう言ってサムズアップされた時は、街中で()えそうだった。

 自動で強化されたスキルだったから、ポイント消費はなかったけどさ。

 ……それでも「合計で4つかよ!」って感じだったし、「もう少し小さいサイズの石なら、倍は入るだろ!」とか、そもそも「詰めれば、まだまだ入るだろ!」って、色々とつっこみたかった。

 いや、実際ミゲルに突っ込んだけどさ。


「そういう仕様だぜ!!」


 などとイイ笑顔して、お決まりのサムズアップだ!

 サムズアップに関する事は、ヘルプには載って無かった。

 会話終わりのサムズアップを、それとなく止めて欲しいとミゲルに頼んだけど、例の「お客様の質問は、意味わからねぇ」という定型文が返ってきた。

 どうも、この設定は変更できないようだ。


 少し気落ちしたけど、めげずに剣でモンスターを倒して、レベル3になったんだ。

 今度こそという思いで、またミゲルに聞いてみる。


「新しく取得できるスキルはあるか?」


「おう、2つあるぜ!」


 神は我を見放さなかった!

 思わずサムズアップも許せる気分になってしまった。

 というか、見てて俺までやってしまった。


「マジで? そ、それで何があるの?」


「[剣技『スラッシュ』]と[変化球]だな!」


「おぉ、なんか今より役に立ちそうな響きがするな!」


 詳しく聞いてみると、それぞれ以下のようなスキルらしかった。


 ------------------------------------------------------------

[剣技『スラッシュ』]……斬撃(ざんげき)を飛ばす事ができる。射程距離は5メートル。威力は、直接剣で斬る際の90%。【必要ポイント60】

[変化球]……石を投げると、空中で一度少しだけ好きな方向に軌道を修正できる。【必要ポイント110】

 ------------------------------------------------------------


 レベル3になった時点でポイントが120あったから、どちらか一方なら取れるようだったので、迷わず[剣技『スラッシュ』]を取得した。

 どうやら最初は、再攻撃時間が1分もかかるらしい。

 しかも、一度の戦闘で一回しか使えず、距離も制限があるんだそうな。

 でも、さらにポイントをつぎ込んで『スキル強化』する事で、威力や距離も伸ばせるようだった。

 それに、強化しなくてもゴブリンなら、[剣で斬る]と同様に一撃で倒せた。


 [変化球]は、「また石かよ!」と思ったし、取得に110ポイントかかるって言われたから、あんまり魅力を感じなかったんだ。

 ヘッドショットできるほどの精度の変化球なのか、怪しい気もしたしな。


「よし、レベル3になったからには、初心者卒業だぜ! これからは、敵の視界に入ると先制攻撃されることもあるからな! モンスターも【グレイウルフ】と【スケルトン】が新たに出現するようになるぞ! 特に背中には注意するんだぜ!」


 最後だけ声色(こわいろ)変えて注意すんのか?


「何で、最後は俺を(おど)すんだよ!」


「……」


 そこ、反応しろよ! マジで脅したのかよ!

 そう思いつつも、その日は自宅に帰って行った。

 あんまり夜に外で遊んでいると、親に怒られそうだしな。

 家族に心配かけてまで、ハマるほどではないからな。


 ----------


「あ、お兄ちゃん帰ってきた! どこ行ってたの?」


 家に帰ってリビングに行くと、テレビ見てた妹の愛梨に質問されてしまった。

 ちょっと長い外出だったかな?


「ん? コンビニだよ?」


 そう言って、コンビニで買ってきたジュースを開けて飲みだす。


「ホント? ずいぶん遅かったのね?」


「そっか? 何か用事でもあったのか?」


「別に用はないけど、どうしてたのかなって思っただけよ! あ、そーいえば、部屋で見たアプリって何なの? 確か、……『広がる天界』だったっけ? 宗教?」


 何その宗教っぽい名前。

 流石に、そんなアプリを家族が入れてたら心配するよな。


「微妙にちげーよ。『広がる世界』ってーの!」


「そうそう、そんな感じだったかも。んで、その広がるって何?」


 広がるって、……雑だな。

 ま、遊ぶ前の俺なら、同じような反応だったかもしれないけどな。


「まー、ゲームアプリだな。さっき外で遊んできたし」


「それで遅かったのね。それで、どんなゲームなの? 私もできそう?」


「そうだなー……」


 俺と同時にスマホを手に入れた愛梨は、よく俺からアプリ情報を仕入れていく。

 特に協力プレイのゲームは、一緒にやらされることもあるし、今日みたいに俺が楽しそうに新しいゲームしていると大体聞いてくる。

 ……そういえば愛梨は俺がやらなくなったAR(拡張現実)ゲーム――ボール型の捕獲アイテムでモンスターをゲットするゲーム――も、未だにやってたよな?


「愛梨ってまだ『ポケ○ンDo』ってやってるの?」


「ん? やってるよ! 今、300種類くらいゲットしてるんだから!!」


「そ、そうか。結構やり込んでるんだな」


 まだスマホ手に入れて一ヶ月程度なのに、思った以上にやりこんでるな。

 ちなみに、リバイバルされる前はアルファベットがGoとかいうタイトルだったらしいけど、やってみようって事で、Doらしい。

 それってDo(どぅー)よ?


 ま、まぁタイトルはさておき、スマホゲットして一か月くらいしか()っていないのにすごいやりこみ具合だな。

 案外、友達とのトレードとかでゲットしてるのかもな。

 シリーズ合計で1000種類を超えるモンスターが出るらしく、それが街中でウジャウジャ出てくるし、トレードもできるるんだ。

 ……まさか、課金してないよな?


「俺がやってるゲームもARで、出てくるモンスターを自分のキャラで倒して、キャラを育てるってやつだったよ!」


「何それ、楽しそうっ! ちょっと待って、私もやりたーい!」


 もうやってきたし、待たないけどさ。

 愛梨が自分のスマホをいじって、早速ストアからアプリをダウンロードしようとしたみたいだ。

 少し操作してたけど、見つからなかったらしく聞いてきた。


「お兄ちゃん、タイトル何て言ったっけ? 『広がる世界』って言わなかった?」


「あぁ、タイトルは合ってるけど、まだ公開されていないゲームらしいぜ! 今は、テスターにベータ版が配られているだけみたいだけど、それも一昨日までだったみたいだしな!」


「えぇーー。お兄ちゃん、いつの間にそんなのに申し込んでたの? ずるいよ、やるなら教えてよ~」


「そうは言っても、俺も成り行きで入れただけだし……」


「じゃあ、それの正式版が公開されるのって、いつ頃になるの?」


「確か、今月末だったと思うぞ!」


 思わず、会話終わりにミゲルみたいなサムズアップをしたくなった。

 ヤバイな。愛梨にやったら絶対怒るだろうな。

 気を付けないとクセになりそうだ。


「はぁー。んじゃ、その時になったら一緒に外に行こうよ! んで、やり方教えて!」


「あー。ま、いいか。んじゃ、ゲーム公開されたらな!」


「わーーい。絶対だからね!」


「へいへい」


 そう言って、飲み終わったジュースの容器を捨てて、俺は自分の部屋に戻って行く。


 ----------


 自室に戻って、『広がる世界』について、ネットやSNSで詳しく調べてみた。

 どうやら、ゲーム情報雑誌では、発売前からそれなりに注目されているタイトルのようで、すぐに色々な情報が出てきた。


「……って、マジかよ!」


 聞いたことない会社の作ったこのゲームが、どうして発売前から注目されているのか。

 実際にゲームしてみても、モンスターの描画がハイクオリティで、ARジャンルではモンスターを捕獲する()()以来の、久々の()()()ゲームだからな。

 それだけでも、注目されておかしくないんだけど、どうやら注目される一番の要因は、ゲームでもらえる『特典』が関係しているみたいだ。

 公開3ヵ月後の夏休みに開かれるゲームのイベントで、上位10~20位――まだ、非公開情報で詳細ではないらしく、順位の情報はアバウトだった――までの人には、もれなく『裏世界』へ6泊7日で招待されるのだという。


『裏世界』


 今から半世紀程前に、時の政府から公表された驚愕の新事実。

 いわゆる行って戻れる「剣と魔法のファンタジー」な世界があるというのだ。

 獣人やエルフや魔族などの様々な種族の人間がいて、魔法が使えて、ダンジョンがあって、モンスターがいるもう一つの世界。

 その世界に行く事ができる『転移穴(通称:ホール)』と呼ばれる場所が、突如発見されたと報道されたのだ。


 政府が言うには、地球とほぼ同じ地形で、おそらくパラレルワールドみたいな世界ということで、『裏世界(The back world)』と呼称されたのだ。

 『裏世界』に対して、我々の住む世界は『表世界』と呼ばれている。

 ホールでつながるのは、表世界の日本と裏世界のムータリア国だという。


 ムータリア国は、その首都を太平洋に浮かぶムー大陸に置き、表世界の日本列島、朝鮮半島に、中国東部に、東経120度以東にあるほぼ全てのアジア・オセアニアの島(ニュージーランドを除く)にあたる地域を支配下においている。


挿絵(By みてみん)


「たかが、ゲームの特典で、『裏世界』旅行かよ!」


 ありえないってものじゃない!


 半世紀たった今では、裏世界の存在は常識だ。

 小学生の社会の教科書にも載ってるくらいの、当たり前な事なんだけど、誰でも自由に行けるわけじゃない。

 基本的に、国家資格を持っている人達でないと、厳重な警備に守られたホールを通る事はできないんだ。

 ホールは、地理的に日本の東京湾に浮かぶ猿島(さるしま)にあるんだけど、国連下部組織の裏世界管理運営委員会が管理しており、島は治外法権となっている。

 無資格者が勝手にホールで裏世界に行こうとすると、最悪射殺されても文句言えない場所なんだ。


 島には、表と裏の世界の人間が駐留している。

 周辺海域で事故があったりすると、ササっと警備担当の人魚族が助けてくれたりするから、不慮の事故を(よそお)って、海から上陸する事もできない。

 過去、実際にそんな事件が発生したらしいしな。

 空からもホールが陸上にある横穴だから、警備の目を潜り抜ける事はできない。


 そんなホールを利用するには、資格試験に受かる必要がある。

 数ある国家資格の中でも、医師免許や国家公務員試験などよりも難しい超難関の試験なんだ。

 学科試験に受かった上で、数週間の研修を通しての心理検査でも問題なしと判断されると、渡界資格――裏世界に渡る資格――を貰えるらしい。

 資格保持者は、だいたいが政府機関で働く人達だけど、中には一般人でも普通に取得者がいるようだ。


 20年くらい前は、将来なりたい職業ランキングで「トラベラー」――時空旅行者:Space-time travelerが語源で単なる旅行者の他に『裏世界に行ける人』という意味としてトラベラーという言葉が定着している――が一位になったらしいし、今でも『裏世界』は大人気だ。

 現地で日本食を出すために、トラベラーとなった料理人の話は、ドラマや映画に漫画化などもされたりして、日本で知らない人がいないくらい有名だ。

 資格試験は、定員数がないから受かれば誰でも行けるらしいんだ。

 政府が公表している人数だと、国内だけでも10万人以上いるらしい。

 これは国内の医者の数が21万人という数を考えても、狭き門ではあるが、絶対無理というほどでない事が言えるはずだ。


「ほんと、なんでゲームの特典で行けるんだろう?」


 でもチャンスだよな。

 裏世界の誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)など、偽情報を発信するだけでも刑事罰になるから、この情報は信用できる。

 嘘の情報で、『裏世界』に悪印象を与えようとした場合は、世界中のどこの国でも厳罰に処される。

 その辺りは、裏世界管理委員会の管轄らしく、全世界共通のルールらしい。


 向こうの住人が友好的だから交流ができるわけで、交流が絶たれると、あちらの世界の資源開発や文化交流ができなくなるので、多くの国が困るのだ。

 向こうでは、魔素と呼ばれる未知の元素だかがあり、それがあるから魔法が使えるらしい。

 表世界の研究者などは、魔素の研究に夢中だし、それが表世界でも作りだせれば大きな文化的発展を遂げる事は間違いない。

 下手すると電気エネルギーにとって代わる新たなエネルギー革命へとつながるかもしれないのだ。


 さらに、単純な武力の問題でも、こちらのような大量殺戮(さつりく)兵器はないけど、魔法がある。

 肉体の基本スペックでも、上位者は一人でバスを軽々と持ち上げたりできるんだ。

 日本でも地震に強い家のCMで、ドワーフに体当たりさせて壊れる家と比較する映像は毎日のようにテレビで見れる。

 現在の日本には、普通に裏世界人のテレビタレントもいるからな。

 そんなわけで、『裏世界』に関する偽情報の掲載は、厳重に取り締まられるんだ。


 150年くらい昔。

 世界的な大戦の後の時代は、ハワイ旅行が日本人の憧れだったらしいんだ。

 でも、現代での憧れの旅行地は完全に『裏世界』なんだよ。

 ハワイなんて、超音速ジェット便に乗れば、日本から4時間くらいで行けるし。

 3連休とかで遊びに行ったり、仕事なら日帰りだってあり得る距離だ。

 そんな場所に、憧れなんてさほど(いだ)かないんだ。


 テレビでも元政府高官とか言う肩書の人が、タレントみたいに裏世界話をする番組はよく見る。

 それによると、向こうに行けば、結構簡単に魔法も使えるようになるらしいんだ。

 多種多様な種族がいるリアルファンタジーな世界なんだ。

 千葉にあるネズミ―ランドなんて目じゃないくらいだよ!

 まぁ、ネズミ―ランドは何度行っても楽しいし、大好きだけどさ!


 そんな裏世界だけど、『ホール』の実物は俺も見た事がある。

 地上5メートルくらいある、ブラックホールみたいな見た目の横穴なんだ。

 国内の修学旅行の定番スポットで、東京湾の猿島にあるため、船で近付いて島を見るんだ。

 昔の修学旅行は、ネズミ―ランドや海外が人気だったらしいけどな。

 遠目に双眼鏡なんかで見るだけなんだけど、警備する獣人の視力が良いのか手をふってくれたりして、それだけでも盛り上がるんだ。

 行った日によって、毎回違う種族の警備員がいるから、船から島を見るだけなのに、人気のツアーだ。

 一応、横須賀から島に橋がかかっているが、こちらは渡界資格を持った人のみ利用できる。


「やべ、マジでゲーマーになるべきか悩む。これ絶対行きたい! ……っつったら、まずアイツを引き込まないとな!」


 俺も、周りと(たが)わず裏世界に行ってみたい。

 そりゃ、『裏世界』でしか使えないとしても、一度くらい自分で魔法を使ってみたいじゃん?

 何より一人だけじゃなく上位数名が行けるみたいだし、頼りになるアイツを誘わない手はない。

 話に乗ってくれると良いなー。

 乗ってくれるかな?

 そう思いつつ、アイツに連絡を取るのだった。


次回は8/10頃予定です。

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