風に吹かれて
夢でみた話がシリアス過ぎたので、書き上げました。文章めちゃくちゃですみません
俺は一般的な人物だ。ただ、人並み以上に音楽が好きで、グロッケン等の打楽器が得意だった。
隣に住む幼馴染みの村田は、昔から何をやらせても天才だった。楽器も全般できるが、ピアノが一番得意だった。
二人は特別仲がよかったわけではないが、お互い一目置いていた。俺にはそれが不思議でならなかった。
年月が過ぎ、二人はバンドを組むことになった。プロデューサーという人にスカウトをされて。他にもスカウトされた人たちと共に、バンド活動が始まった。
みんな仲が良く、みんな村田の天才的な才能を認めていた。
そこそこ売れ始めて大きな舞台に立てるようになったとき、俺の楽器は、村田がやったほうが良い音が鳴るとプロデューサーに言われた。
俺は悔しさがないわけではなかったが、流石村田だな、という思いの方が大きかった。
慣れないピアノも意外と楽しくて、不満はなかった。
かなり売れるようになり、固定のファンもついたころ、俺たちに転機が訪れた。
ずっと一緒にやってきたプロデューサーが、引退するそうだ。
プロデューサーは、村田にあとを継ぐようにといった。
お前たちなら、お前たちでなんとかやっていけるだろうから、と。
最初はうまくいっていたが、どこからか、歯車が狂い始めた。
村田のプロデュースに不満を感じ始めたのだ。
でかい音楽番組に出演する際、俺は些細なクーデターを起こした。
最新曲と、もうひとつ歌うことになっていた曲を変更したのだ。
観客にヤジを飛ばさせ、別の曲を歌わざるを得ない状況にした。
そっちの方が絶対盛り上がると思って。
案の定大歓声の嵐だった。
大満足だった。
けれど、他のメンバーにこう言われた。
「お前、村田の立場も考えろよ」
村田が考えたプロデュースを無視して、曲を演奏したのだ。村田を傷つけているに違いないだろ、と。
そういわれて、俺はふと気づく。
あの天才の村田が、何事にも怒らない村田が、傷つくはずがないと、ずっと思っていたことに。
それから、村田は壊れていった。
何でも演奏できた村田の音が、悪くなったのだ。
下手くそ、とヤジを飛ばされるほどに。
大得意であった筈のピアノでさえも、人並み程度にしか引けなかった。
あの、人を感動させる音はどこに行ったのだろうか。
村田の不調が1年続き、俺たちは当然のように解散することになった。
日本を揺るがすニュースにもなった。
俺は音楽活動を止めなかったが、村田はきっぱりと辞めた。
そんな生活が1年続いたころ、交流がほとんど途絶えていた村田から連絡が入った。
昔俺たちが通っていた小学校のグラウンドに来てほしいと。
俺はすぐさま向かった。
グラウンドには、バットとボールを持った村田がたっていた。
「野球しようぜ」
そういう村田は、昔のように笑っていた。
そういえば、村田の笑顔なんて舞台の上でしか見てなかった。
いつもいつも、難しい顔をしていた。
村田の提案に、意味がわからないながらも付き合うことにした。
「俺がお前からヒットとれたら、お前は俺のいうことなんでも聞くんだぞ!お前が俺からアウトを取れたら、世界は滅亡する!いいな!」
意味のわからない提案なのに、詳しく聞くことができなかった。
ボールを渡され、ピッチャー位置に立たれる。
キャッチャーのいないストライクゾーンに投げるが、村田は空振り。
「もう1球!」
野球なんて、もう何年もやっていないのに、体は覚えているもんなんだな。
そう思いながら、またストライクゾーンへと投げる。
カキンっ、と小気味良い音が響くとともに、村田が走り出した。
足元に転がってきたボールを拾い、必死に村田を追いかける。
一塁のベースギリギリで追い付き、村田にボールをつけた。
「あ、悪い。俺がアウトとったら世界滅亡するんだっけ?」
最初に出された条件を思いだし、とっさに謝るが、村田はふっと笑った。
「そうだよ。俺の世界も、お前の世界も……」
そういった村田はポケットから黒い何かを取りだし、こめかみに当てた。
それが拳銃だと認識できた瞬間、発砲音がグラウンドに響いた。
倒れる村田を咄嗟に支えるけれど、すでに意識はない。
慌てて救急車を呼んだけれど、村田が助かることはなかった。
警察からの取り調べが終わり、拳銃発砲事件は、村田の自殺ということで終わりを迎えた。
それは人気バンドマンの自殺、という大きなニュースとなり、お茶の間を賑わせることとなった。
後日、俺の家に警察が来た。村田の自殺の原因がわかったと。
1通の手紙が渡され、そこには俺の名前が書いてあった。
『お前は、昔から俺のことを天才だと言ってくれたな。他の馬鹿なクラスメイトが俺のことを頭の良すぎるバカだと罵ったときも、お前だけは俺のことを天才だと言ってくれた。俺にはそれが嬉しかった。お前が俺を天才だと思ってくれているだけで、俺は天才であろうと努力できたんだ。
俺にとってお前はヒーローだった。浮いてた俺に声をかけてくれて、毎日ではなかったけど、一緒に遊んでくれた。クラスで友達じゃないやつなんかいないくらい、お前は人気者だったんだ。俺にとってそれが眩しくてたまらなかった。自然と人を惹き付ける、それこそがお前の才能だと、俺は思ってたよ。だから、お前と一緒にバンドが組めて本当に嬉しかった。
けど、お前の遅咲きの才能が開花を始めたとき、俺たちの関係性は崩れ去ったよ。俺は、お前の才能は人を引き付けるヒーロー性にあると思ってた。けど違ったんだ。音楽が好きだと思う気持ちが、お前の音楽の才能を開花させた。音楽はあんまり好きじゃなかった俺の実力は、簡単に追い越された。けど、お前が俺を天才だと思ってくれているから、頑張れた。プロデューサーを任せられてから、俺のその頑張るエネルギーが足りなくなった。その頃から、お前の俺への想いが薄くなっていくのを感じた。
耐えられなかった。
俺の原動力はいつもお前で、そのお前が俺を信じなくなった時点で、俺は天才終わってたんだよ。
この手紙をお前が読んでるってことは、俺の世界は終わったんだろ?それでいい。
俺が勝ったときの条件、覚えてるか?こんなこと書いても、なんの意味もないことぐらいわかってるけど、気になってるだろうから書かせてくれ。
俺と付き合ってくれ。
こう言おうとしたんだ。俺はお前にずっと憧れてた。ずっと好きだった。だけど、こんなことをいうのは勇気が必要だった。失敗したら死ぬ、そう条件をつけたら、自然と勇気が湧いてきたよ。
ごめんな、天才の俺で居られなくて。願わくば、お前の記憶の中に、住まわせてほしい。永遠に……』
今まで気づくことができなかった村田の想いが、ありありと俺の中に注がれる。
村田の気持ちにカケラも気づかずに、俺は村田を傷つけていたのだ。
村田を殺したのは、俺か……。
そう気づいた途端、今まで流さなかった涙が溢れた。
ようやくわかった。
村田が目の前でいなくなったのに、何故何も感じなかったのか。
俺は、村田が死んだことを信じていなかったんだ。
特殊能力とかを使って、また帰ってくるのだと、頭のどこかで思ってた。
そうか、村田にはもう、会えないのか。
憧れていたのは俺の方だよって、言いたい。
俺の信じてた村田じゃなくなった現実から目を背けたくて、村田のことを見ないようにしてた。それがお前を傷つけていたなんて知らなかった。
ごめんな、村田……。
俺も、お前のことが好きだったよ。
起きたとき、なんともいえないくらい気分になりました。読んでくださった方も、同じ感想を抱いていただければ幸いです。