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マジックタイム  作者: nmb
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マジックタイム

 サクラの花びらがひらひら。

 川沿いに植えられた満開の桜を横目に、土手の上の歩道を歩いてた。


「終わっちゃったあ」

「卒業おめでとう」


 めでたくないよ!、とノンキな声の同級生へと振り向く。


「終わりだよ、制服学生期間の終わり、子供時代の終わり、無責任時代の終わり」

 気楽な時代の終わり。制服による無名性の終了。


「大人になんてなりたくなーい!」


 アホかとつぶやく声が聞こえた。


「なんで時間て止まらないの? 止まらないなら止めてしまおう、そうしよう」


 一歩、土手に近付く。


「やめろって」

「冗談だよ」

「笑えない」


 こんなところから落ちても死ぬわけないのに、なに心配しちゃってんの。いつもの遊びじゃん。


「こういう悪ふざけも、もう止めてもらえないんだねぇ」

「なんでだよ」


「だってもう一緒の学校じゃないし」

 別々の大学だもんね。


「あのさ、俺の彼女に」みなまで言うな「ズッ友でいようね!」うむ、それがいい。


「ヤダ」

「なんてワガママ!」

「どこがだよ」


 今までわたしと一緒にいてもカノジョいたくせに! 今さらかよ!


「だってお前にとって都合よかっただろ、カノジョ持ちのオトコ。

 だからわたしはコイツの彼女じゃありません、友達です。友情であって恋愛ではありません、ってさ」


 思ってたけどもさ。友達って気楽だもん。


「クラスの奴らはたいがい俺たちが付き合ってると思ってた」


 でも、付き合ってなかったじゃん。どこに出ても恥ずかしくない、仲良しでしかなかったよね。


「俺の『カノジョ』は違うクラスのやつだっただろ。付き合ってくれって言われて、好きな子がいるって伝えて、それでもっつったコだよ」

「つよい」


 あなたのカノジョって、つわものだったんだね。確かにこわくていつも逃げてたけど。だから、カノジョがいるときに近寄って来ないでって思ってたけど。


「カノジョはな、お前より自分の方がいいに決まってると思って挑んできてたんだぞ」

「うわあ」

 そこまで自分に自信あるってすごい。見習いたい。


「俺の気持ちを無視し続けたお前の方がよっぽどツヨイだろ」

「わたしがいつ」

「俺がおまえを好きなの知ってたろ?俺が甘やかしてたのも分かってたろ?俺が」


 ぎゃー!なに言い始めるだ!


「だって、はっきりさせなかったし!」

「まあな」

「ぬるま湯に突っ込ませたのはそっちじゃん」

「ふーん、ぬるま湯。俺は出にくい沼なわけ? ははっ。ざまあ」


 沼。沼って。

 …てゆーか、この話は終わりにしたい。終わろうよ。


「そのまま俺にはまって付き合っちゃえばいいじゃん」


 終われなかった。ぜつぼう。


 そしてとっさに口をついて出たのが

「だって、こわい」

 なに言ってるの、じぶん。


「俺のこと、好きじゃない?」


 反射的に好きだよって返そうとしたら、「友達としてとか言うなよ」と釘をさされた。


「一緒にいるの、すごく楽しくて、好きだよ」


「だろ?」


「好きだけど、好きだけどさあ。この煮え切らない時間がすごく楽しくってさあ。続けたかったの。だって、魔法みたいじゃん?」


 ぶはっ、と笑われた。

「魔法って。いきなりなんのファンタジーだよ」


 そうだけどさ!


「友達でもなく彼女でもない仲の良さって、なんか特別っぽくない? 関係性に名前もなくて。ふわんふわんしてて、魔法みたいじゃん。エクストラタイムじゃん。終わらないといいなって、ずっと思ってたよ」


「子供のままじゃいらんねーよ。それにそのマホー守ってんの、もしかして俺じゃねーか」

 そうだけど、そうだけどもさー!


「だって友達の距離感は分かるけど、そうじゃないのは分かんないよ!」

「俺だって分かんねーよ」


 ほらあ!ほらあ!そうでしょう?


「このままじゃダメなの?」

「俺に我慢しろっていうの?」

「我慢て?」

 にっこり笑って凄まれた。ひいい、なに怒ってんの、こわい。


「なあ、俺の『カノジョ』に妬いたりした?」

「した」思いっきり。

 うってかわって満面の笑み。妬かれてうれしい気持ちが分からない。


「そんだけハッキリ嫉妬って分かってて、なんで俺とオトモダチごっこしたいわけ?」

「恋愛ごっこより楽しそうだから」

 わかんね、って言ってケラケラ笑う。


「なあなあ」

 なによ。


「好きだよ」


 すごい。一瞬で沸騰した。顔が熱い。体も熱い。心臓がすごい勢いでバクバクして、うわあ、耳が超熱い。


「あー、すっきり。やっと言えた」


「ちょっと待って。深呼吸する。ちょっとこわい」

 おちつけー、おちつけ、わたしー。すーはー、すーはー。


「何がこわい?」

「わたし自身に決まってるじゃん!」

 ぶはっ、って。


 だからー、笑うところじゃないー。もー…、泣きそうだ。


 半べそになったら、ますます笑われた。

「そんな途方にくれた顔…っ」

 人の顔を腹抱えて笑うなあ!


「だからさあ、感情の振り幅が今まで経験したことのないところに行っちゃうのがさあ」

 こわいんだよ。

「なにをしでかすか、自分でわかんない」


「俺になら、何してもいいよ」

「じゃあ、丸坊主に…」

「しようか?」

「じょうだんです…」


「いいよ、おまえの好きにして。そんでさ、ぐっちゃぐちゃでドッロドロな感情、味わって」


 なにそれこわい。こわいこわいこわいよー。おまわりさーん。


「おまわりさんは民事介入せず」

「み、みんじ…」

 おっ、おまわりさーん。


「人の色恋にはキホン、手を出さないってことだよ」

「いろこい…」


 なんか、なんだかさ…


「話し方変わってない?」

「いやー、もう、テンション上がりまくってて」

「なんでさ!」

「おまえがかわいくて!!」


 今、わたし爆発した。ぼんって音した。


「なに、すっころんでんの」

 だいじょぶかよ、なんて手を伸ばしてくるから、後ずさりしちゃうでしょ。

「うしろ、あぶないって」

 そうだよ、土手だよ。わああああ。


 ごろごろと転げ落ちた。大した高さじゃないけど、後ろ向きに落ちると自重がかかって止められないものだったんだね。

 死ぬかと思った。


 頭だけは死守した。

 上半身…よし、起こせる。骨…だいじょぶだな。足…も、なんとかだいじょぶ。

 立てるかな?


「おい、あぶない」


 うわ、ぐらっとした。また転ぶところだった。ありがとう、壁。壁ってか、やっぱりオトコノコなんだね。壁ドンてか、胸ぐらドン。

 足、足がなんか、ちから入んないな。なんかこれ、めまい?


「ちょっと、座れって」


 草むらに腰をおろす。あ、靴、拾ってくれてありがとう。

「うわ、見て、手が震えてる」


「ちょっと触らせて」

 と言って、後頭部をさわられ、腕をなで、ひざ下をなで。

「折れてない、よな?」

 うん、たぶん。


「痛いところは?」

「特にない」すり傷くらい? わたし頑丈。


 社会的防護服、あるいは社会的迷彩服だった制服に、土がホコリが。彼がはたく。

「たぶん、あとで打ち身がくる。痛くなるよ」


 まだ動悸がする。

「一寸先は闇だった」


「まじだよ。こわかった。悪ノリしてゴメン」

 坊主でも何でもほんとやるし、って言われても、そんなの別にしてほしくないし。


 桜の花びらがひらひら。

 ちょっと体育座りで寝ていいですか。


「おい、大丈夫か?救急車呼ぶか?」

「呼ばなくていい。でも目の前が暗くなってきた」

「ダメじゃんか!」


 だめじゃないって。

「違う。ちょっと貧血。横になれば治る」たぶん。

「ここに寝んの?!」

 だってしょうがないじゃん。


「横にならないと意識飛ぶと思う」

 じゃあ、膝枕、って、頭がそんな高いところじゃ治らんわ。


 ぱたっ。


 スマホを持つ彼の手をつかんだ。

「だいじょぶ。数分で治る」はず。

 ちょっと待ってね、と目をつぶった。


 ああ、こんなところ人に見られたら…まあ、もう高校行かないし、クラスメイトに見られたところで何てことないか。


 桜の花びらが顔に飛んできた。


「願わくば、花の下にて春死なん、だねー」

「死ぬな、ばか」


 まぶた越しに、影が動くのが分かる。よかった、視力戻ってきた。


「なんで、目ぇ開けちゃうんだよ…」

 なんでこんな近くに顔があるんだよ、だよ。

「ぶっ倒れてる人間に手を出そうとするなんて、人としてどうかと思います」

 おい、そこ、舌打ちすんな。


「無防備さらされたら、手が出ちゃうだろーが」

 好きなんだから。

 って、おいー、やめろー。今、弱ってるんだぞ、つけこむな。


 血が下がったり上がったり。なんかなんか、殺しに来てる?

 両手で真っ赤な顔を隠す。いやそれよりも、そろそろ起きてもダイジョブっぽい。よいしょ。


 背中合わせに座るわたしたち。これなら赤い顔も見られまい。

「本当に大丈夫か?」

 うん。


 桜の花びらがわらわら降ってくる。桜ふぶきとボロボロのわたし。かっこわるーい。


「大学で運命の人に会っちゃうかも」

「そんなメルヘンは無い。俺にしとけ」


「そっちが会うかもだよ」

「そしたらごめん」

「ひど!」

 なんでそこは正直なの。笑う。


「まあ、3年待てたぐらいだし、大丈夫だろ」

「さんねん!? 長っ!」

「俺の優しさじゃねーか」

「正直、ちょっと気持ち悪いんですけど」

「俺の好意に甘えやまくったやつはどうなんだよ」


 おお。気持ち悪いっすね。自覚したくないわあ。


「で、でもさあ。でもでもさあ!」


「好かれてるみたいだって思ってても、カノジョなんか見せられたら分かんなくなるじゃん。自意識過剰なだけかって思うじゃん。ちょっと仲の良い友達枠なのかなって思うじゃん」

 わたしだけが悪いわけじゃないと思うの。


「だってな、学校行ってるときに好きだっつってたら、おまえ離れてきそうだったじゃん」

「うん」

 だってどう対応したらいいか分かんない。


 やっぱりなー、とため息をついたあと、

「俺がふられたあげく、俺よりうまくおまえに近付く奴があらわれて、そいつがうまいこと事を運んじまうのを見るくらいなら、友達ごっこで距離つめて、どこかで関係を変えられたらって思ってたのに」


 卒業まで友達のままってどういうことだよ、って怒らないでよううう。

 だいたい、わたしに他の誰かが近付いてきたりしないってえええ。


「だよな」

 ひどい。


「これは仮定なのですが。彼女となった場合、今までとどう変わるの?」

「具体的に?してみる?」


 隣に並ぶまで移動してきて、顔を近付けてきた。


「目、閉じて」

「…こんなこと、カノジョともしてたの?」

「するか、あほ」

「あほ…」

「好きでもないやつと、こんなことするわけないだろ」


「不誠実なんだか誠実なんだかワケ分かんないな」


「だーかーらー。相手の方がひどいんだ。俺はおまえを好きだっつってんのに、自分の方がおまえより良いって言ってんだぞ。おまえをバカにしたうえに、俺の気持ちも踏みにじってんだぞ。腹立つだろうが」

「めんどくさい仕返ししてたんだね」

「うっせー」


 頭かかえてる。


「予言するぞ。おまえなんかな、今、俺をふっても、数年後に俺のことが好きだったとか気付くんだぞ」

「やだそれ、ありそう」

 あはは。

「笑い事じゃねー」


「たのしいのに、友達ごっこ」

「彼女ごっこにバージョンアップしろ」

 大事にする、ってか、してるだろ、って。大事にされてるんだ?わたし。


 うーん。

「わたし、生々しい感情と対峙するのめんどくさいから、清らかなまま生きてこうかと思ってたんだよね」


「は?」


「ほら、清らかなまま中年を迎えると、魔法使いになれるって言うじゃない」

「……………それ、オトコじゃね?」

 そうだっけ?


「魔法使いになって、この楽しい高校時代を延々ループするとか、天国かも」

「やめて。俺的に地獄だから」

 ええ、そんなに辛い思いさせてた?


「甘酸っぱいのも楽しいけど、それだけじゃダメなんだ」

「ダメかー」

 そうかー。魔法使いにはなれないのかー。


「別れたくないなあ」

「だから何で別れる前提だよ」

「だってわたしたち、まだ子供だし。これから出会いいっぱいあるし」

「子供時代終了って言ってたじゃねーか」


「大学行って社会に出て、視野が広がって、沢山の人に出会ったりしたら、わたしのことなんか」

「おまえまで俺のことバカにすんの?」

 えっ、なんで?


「俺の気持ちはその程度って言ってるじゃねーか」


 あ。その通りだね。自分を落としてるつもりだったのに。そうか。


「俺の選択が誤りだ、みたいなことを言われたくない」


「ちなみに選択の理由は」

「好きだから」

 いやだからさ、好きの理由を聞いてるんだけど。


「犬っぽいとことか」

「動物かよ!」


 意味わかんないわー。


「そんなの明確にコレだってのがあるなら、俺が知りたい」

 分かってたら簡単な話なのに。

 ほんと、わたしが犬だったら「大好きー!」って距離を縮めたって何にも問題ないのにね。


「付き合ってないから、楽しいんじゃないかと思う」

「かもな」

「そう思っても、関係を変えたいんだ?」

「同じではいられないって分かるだろ」


 卒業しちゃったしね、放っといたら疎遠になっちゃうかもね。そんなのさみしいじゃん。

 ああやだ、さみしいなんて言語化したくない。すごくさみしいじゃん。


「毎日会えなくても、気持ちをキープできるのかなあ」

「毎日会いに行く」

「飽きたり…」

「ちゃんと餌もやるし、散歩もするから。ママ、おねがい」

「ペットじゃありません」


「俺が、他の誰かと付き合ってもいいの?」

「ヤダ」

 だからそのニヤケ顔は隠しなよ。きもいって。


「結論出てるのにめんどくせーの」

「ほんとにねー」


 このまま時間が止まればいいのに。無理だけど。


「あの…」

「待て。いま、殺し文句を考えてるから」


 ぶはっ。殺し文句って。なにそれカッコイイ。


「ううん、もう十分。殺し文句が最高に殺し文句。これからも殺し続けて」

 あはは。照れ隠しに笑う。笑ってごまかしてるのに。


「おまえ、それ本気? いいのか、後戻りできないぞ」

 なんか脅し文句が飛んできた。


「あたま」

「打ってない」


「落ちるあいだ、走馬灯みたいのが見えたよ。うわ、このまま終わっちゃうの、ちゃんとこたえてないよ。好きだってちゃんと言わなくちゃ」


 彼がうつむいてしまった。まっかだよ? あら、かわいい。


「いままで一緒にいてすごく楽しかったって、伝えなくちゃって思ったよ。もっと一緒にいたいって思ったよ。手も握ってないって。死んじゃったら何もできないなって恐くなった」


「死ぬなよ。いきなり飛ぶな」

「でもさ、死ぬのなんてホントに突然じゃん」

 恐いから言わないけど、あなたが死ぬのだっていつかなんて分からないんだから。


「生きてること自体が、魔法みたいな感じだね」

 死ぬことの絶対感と比べると。


「とつぜん生まれて、とつぜん死んじゃうの」


 マボロシみたいだなあ、と手をニギニギしてたら握られた。


「…いっ。いったいよ!」

 なんでそんな強く掴むー!


「マボロシなんかじゃない」

「いだだだだだだだ。分かったから、離して」


「不安にさせないで」


 きゅん。


 ちょ、待って。今、きゅん、て。きゅん、て。


「今、すっごくキタ。なにほんと。殺しに来てんの!?」

「は?」

「『不安にさせないで』って、すごい女子力。きゅんと来た!」

「女子じゃねー」

「やだもー!超かわいっ、たたたたたたたた。なんでなんで褒めてるのに!いたいたいた」

 いったん緩められたと思った手が、再びぎゅうううっと力を込めて握られた。


「痛いと生きてる気がするだろ」

 うわあ、サドっぽ。ひくわー。


 やっと離された手をさする。あーもー。


「何やってんだ、俺たち」

 ほんとだよ。さすさす。


「なあ、ブラシある?」

 あるあるある、あれ、ない…。ため息つかれた。

「あたま。ボサボサになってる」

 仕方ないので手でぐしぐしととかす。


 顔の前にハンカチを持った手が伸びてきたので、若干よけつつ聞いた。

「なに?」

「顔に土がついてる」

 うん…ええと…その手をはらうべきか、拭いてもらうべきか。。


「じょしりょく…」

「身だしなみな。普通な。ハンカチくらい持ってるからな」


 ごしごし。拭いてくれるのはいいんだけど、もうちょっと力加減を考えてほしいな。


「こういうのは友達にする?」

「しない」

 そうですか…。


「彼女って言うより、子供の世話みたいだね」

 手が止まった。

「残りは自分でやれ」

 うん。見えないけど、とりあえずふいてみるよ。うん。


「これ」

 洗って返すなんて、どこかで聞いたセリフみたいなことを言おうとしたら、

「やる」

 と言われたので、お返しにわたしのハンカチをあげた。未使用だから!キレイだから!


「これをどうしろって言うんだ」

「使ってよ」

「見るからに女物じゃねーか」

「え、ほら、じゃあ、女避けに使ってよ」


 はあ?とか言うな。


「他の女の子とあんまり仲良くしないでほしいなって、」

 こう、女物持ってたら、彼女いますよ的なさ…うん…いけてない案だった。


 そしたら大っきなため息をつかれた。がーん。

「ずうずうしかった?ごめん??」


「勘違いすんな」

 うわあ、きっつい。いきなり彼女ぶるなってか。いや、うん、そうだよね、さっきまでウダウダ言ってたくせにね。でも『勘違い』はキツイや。やっぱり彼女って距離感分かんない。やめてもいーい?


「うれしい」


 …勘違いからのうれしいって何?わっかんないよ!


「ずうずうしくなんかない」

「…勘違いが勘違い?」てこと?


 手で顔を半分隠すようにしながら、彼は言った。

「本当に、俺の彼女になってくれるってことでしょ?」


「う」のあとが声にならなくて、うんうんとうなずく。

 これ、いつか慣れるの?瞬時にこんな気分が上がったり下がったり。感情の起伏が激し過ぎるのはやだってばー、って心で叫ぶ。それでも。


 よろしくな、と手を伸ばされ、うん、と言って握手した。


 わたしたちの関係が変わった瞬間。

 不安の方がうれしいを上回って、うまくやってけるのかな?って思った。

 クラスメイトとか友達とか、制服でならごまかせたのに、これからは違うんだね。

 魔法仕掛けの制服という鎧がないと、どう付き合ったらいいか分かんないよ。


「そういう顔な」

 なにさ。


「おもしろい」

 彼のハンカチを顔めがけて投げつけた。


「やっぱりやめる!からかわれるのなんて全然楽しくない」

 じゃあね!、と捨て台詞を言って、帰るために立ち上がろうとした。


 おい、手を引くな。


「おねがい、見捨てないで」


 二度目かよ。きゅんとなんかしてないし。むかつくし。



 風が強く吹いて、桜吹雪。世界はピンク色だった。

きっと運の悪い同級生らが、あいつらここが他の生徒も使う通学路だってこと忘れてない?、って呆れながらのぞいてるんだと思われ。

なまぬるく彼らを見守ってきたクラスメイトたちが、ウザイ甘酸っぱいいいかげんにしろと思いながらなるべく離れて歩いてたら、いきなりごろごろ落ちてったので駆けつけかけ、だいじょぶなのか…?と土手の上から様子をうかがってたら、もうほんと、そういうことは見えないところでやれや!、と。


彼はきっとクラスの女子には嫌われ気味。好きな女がいるのに二股かよ、とか、告白もできないダメな男、とか思われて。

彼女もきっと、そういう煮え切らない態度が一番悪いんだからね、とか注意警告が飛んできてたと思う。


このあと彼は、じゃあ早速、明日デートしよう、なんて誘うんだけど、

「ごめん、クラスの女子と遊ぶ約束してるから」

「じゃあ、明後日」

「ごめん、その日も別の子と約束が」

「じゃあ、明々後日」

「かぞくりょこうに…」

「俺とも遊べよ!」

ってなるはず。がんばれー。

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