第7話 初めて見る魔法
先に向かっているクラスメイトに追いつき、運動場へ出る。
「ケイト!一緒に見ようよ!」
「うん!」
並び方は特に指示されなかったのでフェミリアと一緒に見学することにした。
「全員揃いましたね。」
全員が運動場に出たあと、ロザリー先生が確認してから俺たちの前に出る。それに続いて4人の先生たちもロザリー先生の隣に並ぶ。4人ともなにか布にくるまれた荷物を持っている。
「さっき説明しましたが今からザロア先生、テフシナ先生、ポミナ先生、ニミナ先生が魔法を実践して見学させてくださります。静かに見学し、自分たちの魔法の参考にしなさい。ではよろしくお願いします」
ロザリー先生は4人の先生たちに会釈をして生徒の後ろに立つ。
「うっし、じゃやるか!おまえらまばたきすんじゃねーぞ!」
ザロア先生は生徒たちに大声で叫んだあと持っていた荷物の布を取り払い、それを自らの腕に装着する。それはひじのあたりまであるガントレットで、手の甲には火炎龍2匹の紋章、その2匹の守られるように大きく炎のような光を放つ宝石がはめ込まれている。ガントレットは彼女の腕に装着されたとたん節々から炎を吹き出し始める。
「あらあら、張り切ってるわね」
テフシナ先生も微笑みながら荷物の布をとり、ザロア先生と違い足元にそっと置いた。布の中から出てきたのは先端と側面に海中から見上げた海面のような輝きを放つ宝石がちりばめられた指揮棒だ。彼女が何度かそれをふるうとその指揮棒がより強い光がはなたれ、波の音が聞こえる。
「え、えっとわ、私も、失礼して・・・うわぁ!」
ポミナ先生も続いて布を取り払おうとしたが、荷物が自分の背丈より大きかったためバランスを崩して荷物もろとも倒れてしまった。無事に布が取り払われ中から大きな金属でできたハンマーが出てくる。立ち上がったポミナ先生はそれを両手で支える。ハンマーのヘッドの部分には人の頭ほどもある黄色く輝く宝石がはめ込まれている。
「・・・ふん」
ニミナ先生は地面に布にくるまれたままの荷物を落とすと、布を足でけってどける。くるまれていたのはグリーブのようなものだ。ニミナ先生は吐いている靴を脱ぎ、取り出したグリーブの上に足を掲げる。するとグリーブがひとりでに動き、足に装着される。そのグリーブは外側と内側のくるぶし、足の甲に荒々しく吹きすさぶ暴風を内包したように緑の色が目まぐるしく入れ替わる宝石がはめ込まれている。
「皆さん、あの宝石が見えますね?あれがこの国の固有魔法『輝石魔法』を使うのに必要な『輝石』です。あなたたちが学ぶのもこの魔法です」
後ろからロザリー先生の説明が聞こえるが皆目の前で見せられている装備に目を奪われている。
「説明は終わったな!いっくぜええええ!!」
説明が終わった途端、ザロア先生は龍のような雄たけびを上げる。そして生徒たちが見ている方向へ右のこぶしを向ける。こぶしが輝いたかと思うと、爆発したような音が響き龍の形をした炎が地面を滑るようにはなたれた。少し遅れて俺の顔を熱気が撫でる。
「あっつ!」
「あはは!すっごいね!ケイト!」
俺が熱気に耐えているとフェミリアが満面の笑みで話しかけてくる。それを見たザロア先生がニヤリと笑う。
「まぁだいけるぜ!」
そういいながら今度は左のこぶしを突き出す。そのこぶしからもう1匹の龍が放たれる。
「うおおりゃああ!」
気合を込め両手が空へ掲げられる。2匹の龍は身をよじり、空へと登っていく。それはだんだん一体化していき、最後には巨大な火炎竜巻になった。
「もう、はしゃいじゃって」
テフシナ先生はそう言いながら優雅な手つきで指揮棒を小さくふるう。その指揮に従うように魔力で生み出された大質量の水が火炎竜巻を包み込む。水のベールで包まれた火炎竜巻はだんだんと勢いを失っていく。
「こんにゃろ!」
ザロア先生も負けじと魔力を込め、炎の勢いを増していく。火炎竜巻を包んでいる水のベールはだんだんと膨らんできた、どうやら中で水蒸気がたまっているようだ。そしてそれは膨らみ続けているが、2人は気づいていない。
「あわわ・・・え、えぇ~い」
水のベールがはちきれそうになったとき、今まで慌てふためいていたポミナ先生が意を決したようにハンマーを地面にたたきつける。すると少し遅れて体が跳ねるような振動と共に竜巻とベールがせめぎ合っている少し後ろの地面が盛り上がり、山のようになる。
「うんしょ・・・えい!」
ポミナ先生がもう一度ハンマーを振り下ろすと、その土の塊がうごめき何かの形を作りあげていく。
出来上がった形は超巨大な上半身だけの土の巨人だった。その巨人は竜巻とベールをまとめて掌に包み込む。
「あー!邪魔すんじゃねぇよ!」
「ひっご、ごめんなさい・・・」
ザロア先生は怒鳴りながらさらに魔力を込めているようだ。怒鳴られたポミナ先生は涙目になり、魔力を送るのをやめてしまう。魔力の供給が止まった巨人がボロボロと崩れ始める。そのとき膨らんだベールは限界を迎え、轟音を立てて破裂した。解放された水蒸気は巨人の手を吹き飛ばしあらゆる方向へ岩塊を吹き飛ばす。そのうちのいくつかが俺たちをめがけて飛んできている。それに気づいたクラスメイトは悲鳴を上げながら逃げ出そうとし、後ろにいたロザリー先生は逃げてくる生徒たちを横目に飛来する岩塊を見ている。俺はというとビビりすぎて口を開いてぽかんとしている。フェミリアが俺を引っ張って逃げようとした時、突風が通る。
「・・・ふん」
フェミリアと共に後ろを見るとそこには不満げな顔をしたニミナ先生が風を発生させ自身を浮かせていた。ニミナ先生は飛んでくる岩塊を蹴るように足を振る。すると足の軌跡に沿って岩塊が切り裂かれ、真っ二つに分かれる。一瞬風が強くなったかと思うと、ニミナ先生は消えていた。消えた直後こっちに飛んできている岩塊がすべて砕かれる。ニミナ先生がもう一度あらわれたとき、岩塊はすべて粉々になりこっちに飛んできているものはすべて排除されていた。ニミナ先生の腕の中には風に吹き飛ばされたのか、のびてしまっているポミナ先生が抱きかかえられている。
「わりぃな!ヒートアップしすぎたわ」
「すみません・・・」
満足したよう笑顔のザロア先生と申し訳なさそうな顔をしたテフシナ先生が謝罪してくる。
「まーいろいろあったけど俺たちの魔法はどうだった?」
ザロア先生が生徒たちに問いかけると、あちこちから「すごい!」や「かっこいい!」というような歓声が聞こえてくる。俺も魔法を目にして声を失うほどに感動している。
「そうかそうか」
ザロア先生はそれを聞いて満足そうに鼻を高くしている。その横にテフシナ先生が立つ。
「では最後に1つお小言を。魔法とは華やかでかっこいいものです。しかしそれと同時に危険なもの、という側面もあります。私が言えたことではないのですが。そういった魔法の良い面だけではなく危険な面も合わせて学んでいくことを覚えておいてください。私からは以上です」
テフシナ先生の話が終わった後ロザリー先生が前に出てくる。
「ありがとうございました。」
ロザリー先生は1人はのびてしまっているが4人の先生たちに向かって会釈をし、生徒のほうを向く。
「皆さん、今回の見学でそれぞれの意気込みが決まったことと思います。この後もいろいろな属性の見学に向かいますがまずは貴重な体験をさせてくださった先生方に礼をしましょう」
その言葉で皆ぞくぞくと立ち上がる。俺も少し遅れたが皆と同じように立ち上がる。
「礼」
ロザリー先生に続き頭を下げる。
「ありがとうございました」
息を大きく吸い込む。
そして皆に負けないよう、大きな声をだす。
「ありがとうございました!」
多分、いや絶対に俺はこの経験を忘れることはないだろう。