第4話 微妙な結果と最高の師匠
「大丈夫?」
「へ!?あっう、うん」
ミレイユの言葉で遠く離れていた俺の意識が引き戻される。
「早く着替えたほうがいいんじゃない?」
「そ、そうだね、着替えるよ」
「私先に行ってるから」
そういって彼女は部屋を出て行った。そうだ、早く着替えて運動場に行かなきゃいけないんだった。
必要なものバッグを開くと、運動着が丁寧に畳まれた状態で入っていた。
「おっこれは・・・」
運動着は長袖のジャージ、胸に大きく名前の書いてある白いTシャツ、そして今となっては珍しいブルマのセットだった。やはりブルマというものは男のロマンにロマンを感じさせる。まぁ俺は着る側なのだが。
「意外と食い込むなこれ・・・」
食い込むブルマに苦戦しながらもできるだけ早く着替え、運動場に移動する。幸い運動場は寮の目の前だ。
運動場に入ると、もう皆整列をして先生を待っている状態だった。整列しているみんなの前には人の頭ほどの大きさの透明な結晶が台に乗せられ置いてある。
「あ!ケイト!こっちこっち!」
フェミリアがこちらに手を振って俺を呼んでいる。俺はフェミリアの隣に座ることにした。
「遅かったねなにかあったの?」
「あはは・・・不慮の事故と言いますか・・・」
事情を説明しようとしていると、上下長いジャージを着たロザリー先生が運動場に入ってきた。
「皆さん揃っていますね?いまからやっていただくのは魔法の適性検査です」
(適性検査か、どんなことを検査するんだろう)
するとおそらく同じことを考えていたクラスメイトが手を挙げて質問をした。
「どんなことを検査するんですかー?」
「属性との親和性、魔力の最大量といったものです。ほかに質問がある方は?」
ほう、この検査でどんな魔法を使うかが決まるというわけか。俄然やる気が出てきた。
「ないようですね、それでは検査に入ります。前列左端の人から前に出なさい。前に出た人はこの結晶に掌を押し当て、結晶に映ったものを私に見せなさい。次の人は検査をしている人の横に立ってまつように」
検査が始まった。先生の指示通り、左端の人から前に出て結晶に掌を当てていく。検査自体は意外と早く終わるようで、個人差はあるようだが10秒から20秒ほどで終わるようだ。少し遅れてきたため、俺とその隣に座っているフェミリアは最後と最後から2番目になっている。
「なんだかあっさりした検査なんだね、もっと大がかりなものかと思ってた」
「でもそのおかげで結構速く順番が来そうだよ」
フェミリアは少し退屈そうだが俺は心の中ではものすごいハイテンションになっていた。この世界に来て初めての魔法要素だ、はしゃぐのも仕方ないと思う。
「あ、次私の番だ並んでくるね!」
「じゃあ私も最後だし一緒に並んでるよ」
フェミリアは前の人が検査を始めたのでその横に並びに行く。俺はできるだけ早くその検査をやりたかったのでフェミリアに便乗してさらにその横に並ぶことにした。フェミリアの前の人も15秒ほどで検査は終わり、フェミリアの順番がやってくる。
「じゃあやってくるね」
彼女は結晶の前に進み、掌を結晶に当てる。さっきは離れたところから見ていたから気づかなかったが、掌を当てている間結晶は弱く光りつづけているようだ。彼女の検査は少し長く30秒ほどかかった。そしてついに俺の番がやってきた。
「ふぅ・・・」
なぜか緊張してきたので息をはいて落ち着く。それから結晶の前に進み期待を胸に自分の掌を押し当てる、すると結晶は弱く光り始めた。俺はドキドキしながら結果を待つ。手汗で掌がぬるぬるする。だが待てども待てども移るはずの結果が映らない。今までは短くて10秒長くてもフェミリアの時で30秒ほどだった、けど体感時間ではもう1分間は経過しているはずだ。まぁ待ってればすぐに終わるだろう、と待つことにしたが、3分たっても5分たっても結果は映らない。
「あのー、大丈夫なんですかこれ?」
いい加減腕がつらくなってきたので先生に尋ねる。
「もう少し待ちなさい、掌を離してはいけませんよ」
先生に言われた通りもう少し待つことにした。それから1分ほどたったとき、掌を中心にしたなにか幾何学模様のようなものが結晶の表面に広がり始めた。
「掌を離してもいいですよ」
先生に言われ、掌を離す。先生は俺の結果を見ながら手に持っているバインダーに挟んだ紙になにかを書き込んでいる。今までの生徒の結果もそこに書いているのは見ていて気付いていたが、俺の結果に対してはかなりの時間をかけて書き込んでいるようだ。
「これで検査は終わりです。皆さんは寮の自室に戻り、制服に着替えてきてください。このあと教室で検査の結果を発表するので着替えたらすぐに教室にくるように」
結果を書き終わった先生は皆に指示を出した、みんなはそれを聞き寮に戻り始める。先生になんで俺の時だけ時間がかかったのか聞こうと思ったが、先生はすぐに校舎の中に入ってしまって聞くことができなかった。
「ケイト!なにやってるの?早く戻って着替えなきゃ!」
フェミリアに声をかけられ、俺も寮に戻り始める。少しの不安は残るが結果発表は楽しみなので急ぎ足で寮へと戻る。寮に入り、自室の前に来る。今度はさっきみたいな不慮の事故が起きないようにドアを少しだけあけて中の様子を伺う。よし、ミレイユはすでに着替えて教室へ向かったようだ。
俺は素早く着替え、一応バッグに入っていた大きめの立て鏡で服装を確認してから教室へ向かう。早く結果が見たいという気持ちでいっぱいだ。教室に入ると皆自分の席に座っているがどこか落ち着きのない感じだ。
「ねぇ!ケイトはどんな模様が映ったの?」
座るや否やフェミリアが話しかけてくる。
「なんかぐにゃぐにゃした変な形だったよ」
答えると同時くらいに教室の扉を開け、先生が入ってくる。俺とフェミリアはそれを見て話をやめ、黙って前を向く。
「おまたせしました、それでは結果を発表します。そのまえに、ケイト・ウェイカーさん前に来なさい」
「は、はい」
いきなり名指しで呼ばれ驚いてしまう。結果発表の前に呼ばれるということはやはり何か問題があったのだろうか。
「あなたの検査結果です。これを持って学園長室へ行きなさい」
「えっは、はい」
なんで学園長室に行かなければいけないんだろうか、まさか俺に魔法の才能が有りすぎるから学園長直々になにかお言葉でもいただけるんだろうか。学校案内の地図を思い出しながら学園長室へと向かう。二階から階段を上り、三階に上がり、一番端にある部屋を目指す。記憶が確かならそこが学園長室で間違いないはずだ。その部屋の前に着くと確かに扉に大きく学園長室と書かれている。
(そういえば入学式にも来てなかったし学園長の顔しらないんだよなぁ、うぅ緊張してきた。怖い人じゃなきゃいいけど)
「はいっていいよ~」
「うぇっ!?」
緊張しながらノックしようとする寸前、部屋の中から声をかけられる。なんでわかったんだろう、やっぱり魔法でこっちを透視したとかかな?
「失礼します」
挨拶しながら扉を開ける。部屋に入ると壁一面が本棚で、目の前に大きな机が一つ置いてありいかにも魔女っぽい部屋だった。机の向こう側には裏を向いた椅子がある。おそらくそこに学園長が座っている。
「よく来たね、まぁ近くにおいで」
声はしゃがれたおばあさんの声だ。その声に呼ばれ、机へと近づいていく。すると椅子がこちらに向けて回り始める。そして学園長の姿があらわになる・・・のだが。
「アタシがこの学園の学園長、グリミール・グリモアだよ」
「・・・ちっちゃい」
おもわず口に出してしまいあわてて口をおさえる。だが本当に小さいのだ、小人かと思うほどに小さい。
「カッカッカ別に気にしなくていいさね、皆最初はそういうからねぇ」
「すいません・・・」
「ロザリーちゃんに言われてきたんだろう?検査結果を見せておくれ」
「あ、はい。どうぞ」
学園長は俺の検査結果を受け取ると、メガネをかけ読み始めた。
「なるほどね、大体把握したよ」
それほど時間をかけずすぐに用紙を返してくれた。
「あのー、どこかおかしいところでもあったんでしょうか」
恐る恐る尋ねる。
「おかしくはないよ、ただめずらしいだけで」
「説明は私からしましょう」
学園長が答えてくれた時、ロザリー先生が部屋に入ってきた。やっとちゃんとした説明を受けさせてもらえるみたいだ。期待もするが、不安もかなり大きい。
「まずあなたの属性を簡潔に言えば、『全属性』です」
「へっ?」
それっていいことなんじゃないか?
という甘い考えはすぐに破り捨てられることになる。
「これはとても珍しいことです。本来人が持つ属性は3つ、多くても5つまでとされています、その限られた属性を極めていくのが普通です。しかし全属性を持つ魔法使いはすべての属性を使うことができますがそれぞれの属性の極地まで踏み込むことはできないのです」
ということは・・・
「まぁ悪く言えば器用貧乏だね」
学園長の言葉が胸に突き刺さる。
自分でも理解したがそれを人に言われると心へのダメージは倍以上だ。
「そんなに悲観するんじゃないよ、同族に失礼じゃないか」
すいません、と謝ろうとして気づく。同族といったのか?ってことは学園長も
「そうですよ、ここに来させたのはあなたを落ち込ませるためではありません。あなたに魔法を教えてくださる先生となる方の紹介に来たんです。」
その言葉に続くように、学園長は椅子の上に立ち上がる。
「この方は『万能』のグリミール・グリモア。この国、いや世界一の全属性魔法使いです」
「アタシがアンタを『器用貧乏』から『万能』まで育て上げてみせるよ」
優しい口調で言われたが、その言葉には何か信用させるものがあった。
そしてその体はさっきとは違ってすごく大きく見えた。
おどろきやらなんやらが混ざり合ってよくわからない気持ちになったが、一番強い気持ちが興奮だったのは確かだ。そして自分で意識せずに口から言葉が飛び出した。
「よろしくおねがいします!」