第3話 波乱の寮生活の幕開け
入学式が終わった。本来なら入学認定の後学園長式辞があったようだが、学園長が多忙のようで無しになった。学園長の顔を見てみたかったが仕方がない。さすがに入学式くらいスケジュールに入れておけよとは思うが。
「皆さん自分の教室に戻ってください」
担任の教師からの指示で来た時と同じように二列に並び会場から出ていく。皆緊張が解けたようで来る時よりも少し騒がしくなっている。
行きとは違い、戻る移動は早く感じられた。教室に戻ると皆会場へ向かう前の席に座り友達との談笑を始めた。
「長かったね~ケイトがおっきい声で返事するから驚いちゃったよ」
フェミリアが話しかけてくる。確かにあんな大きい声を出したのは小学生の入学式以来だ。
「静かに。皆さん自分の席についてください。」
担任の先生が皆を席に座らせ、話を始める。
「まずは自己紹介からさせてもらいます。私はあなたたちの担任のロザリー・デュアーです。あなたたちと同じこの学園に通っていました。これから一年間の間よろしくお願いします」
ロザリー・デュアーと名乗った俺たちの担任教師は背が高く、ツリ目でどこか厳しそうな雰囲気を感じさせる。
「早速ですがいまから寮のほうへ移動し、各自運動着に着替えて運動場に出てください」
言い終えると、先生はさっさと教室から去ってしまった。どうやらこの先生は必要なこと以外は話さないよ
うだ。
(寮・・・か)
たしかに知識の中にこの学園は全寮制だ、というのがある。当面の着替えや必要なものはゲートから持ってきた必要なものバッグに入っている。ここの寮は一人に一部屋与えられるらしいので安心だ、さすがに寝るときまで一緒にいたらばれる可能性が高くなる。
「なにしてるの?早くいかなきゃあの先生こわそうだし怒られちゃうよ!」
「あ、うん」
寮のことを考えていると声をかけてくれたフェミリア以外の周りのクラスメイト達はすでに教室から出て寮へと向かっていた。俺もフェミリアとともに急ぎ足で寮へと向かう。
「どんな部屋なのかなー楽しみだね!」
「寮生活は初めてだからちょっと不安だけどね」
これからの寮生活について話していると寮に着いた。中に入ると受付のカウンターらしきところに座っていた寮長と思われる人に声をかけられる。その人はかなりのご老人だがかわいらしさのあるおばあちゃんだった。
「新入生だね?名前を教えてね、部屋の番号を確認するからね」
「フェミリア・オザシルです!」
「ケイト・ウェイカーです」
寮長さんは俺たちの名前を聞くと手元の書類に目を通し始めた。
「フェミリアちゃんは206号室、ケイトちゃんは302号室ね」
おおう、ちゃん付けで呼ばれるのは初めてだがなかなかに嬉しい。けどフェミリアとは部屋が離れてしまったな。
「部屋離れちゃったけどまぁ一緒の寮なんだしすぐに会えるし遊びにも行けるよね!」
フェミリアはそのことをあまり気にしていないようだった。
「じゃあ私こっちみたいだから!あとでねー!」
言うだけ言うとフェミリアは走って自分の部屋に向かって行ってしまった。
俺もそろそろ部屋にいって着替えてこなければ、と部屋に向かい始めた。フェミリアの部屋とは反対の方向に300番台の部屋が並んでいる廊下がある。302番なのですぐに部屋の前に着いた。
(ここが俺の部屋かぁ、どんな部屋なんだろ)
若干にやけながらドアノブに手をかける。
期待を込め勢いよくドアを開けると、
「え?」
「あ」
下着姿で運動着を手に持った女性が立っていた。俺は混乱のあまり口を大きく開けたまま硬直してしまう。一人部屋ではなかったのか、まさか教える部屋を間違えられたのか。などと考えていたら相手が動いた。
「君・・・」
俺のことを呼びながら近づいてきた。
「ちょっちょっと!とりあえず運動着きてください!」
「あぁ・・そうだね」
この人は羞恥心はないのだろうか、それとも俺が知らないだけで女子同士はこんなことは気にしないのだろうか。とにかくはやく服を着てほしい、相手が気にしなくても俺にとっては目に毒だ。
「着たよ」
「あ、ありがとう」
着替え終えたようなので目を覆っていた手をどけ、相手を確認する。するとなぜか見覚えのある顔をしている。
「君・・・隣の席の人だよね?私、ミレイユ・キュオー」
「隣?ああ!」
相手に言われ思い出す。入学式の会場に移動する前に話しかけてきた人だ。そういえば名前を聞いていなかった。ミレイユは紫の髪をしていて、なんというか・・・ナイスバディだ。しかしどこか不思議な感じもする。
「私、ケイト・ウェイカー、えっとミレイユさんはなんでこの部屋にいるの?」
「なんでって・・・ここが私たちの部屋だからだよ」
彼女は不思議そうにくびを傾げながら答える。
「私たちって・・・この学園の寮は一人に一部屋でしょ?」
「あれ、知らないの?」
衝撃の事実が宣告される。
「今年の一年生から一部屋に二人で暮らすことになったんだよ」
この言葉を聞いた時の絶望感を俺は一生忘れはしないだろう。寮長さんを怨もうとも思ったが、あの優しい笑顔と声を怨むことなどできるわけもなく。
俺はこんどこそ完全に言葉を失い、硬直してしまった。