第2話 初めての友達と入学式
「んん・・・」
頬にあたる風で目を覚ました。
「あ、起きた?」
目を開けかけた時多分同世代くらいだと思われる女の子に声をかけられる。
(やっべ!声作らなきゃ!男だとばれるわけにはいかん!)
俺はとりあえず野太い声で答えるわけにもいかないので寝たふりをして声を確認する。
声の調整と初対面の人と話すことへの覚悟ができたので満を持して瞼を上げる。
「あっ起きたねよかったー死んじゃってるのかと思った」
「あはは・・・」
俺のことを覗きこんでいたその少女は明るい声で縁起でもないことを言う。
その子は薄い青色の髪で、顔つきからは同年代というよりもどこか子供感じられる。そして俺の着ている服と同じ服を着ている。
「その制服を着てるってことは同じ学校の生徒だよね?」
「へ?う、うん・・・今日入学なんだ」
「ほんと!?私も今日入学する新入生なんだ!よろしくね!」
この服は制服だったのか、たしかにこの世界に来る直前に送り込まれた知識の中にある。しかもその知識によると今日が入学式らしい。入学試験などはパスしたことになっているようだ。
「私、フェミリア・オザシル!フェミリアでいいよ!あなたは?」
「えっと・・・」
名前・・・名前か。たしかに知識の中にあるがなかなか名乗るのははずかしいな、なんだか自分がかいている小説のペンネームを教えるみたいだ。まぁ知識の中にあるってことはこの世界では珍しくもない名前なんだろう。
「私はケイト・ウェイカー、よろしくねフェミリアさん」
「よろしく、ケイト!あと『さん』はつけなくていいからね、これから同級生なんだし」
「う、うんわかったよ。フェミリア」
「よろしい!じゃあいこっか入学式から遅刻するわけにもいかないしね」
俺に名前で呼ばれ上機嫌になったらしい彼女、フェミリアは早足で学校へと向かい始めた。俺はそのあとを追っていく一応学校までの道は知識に入っているが誰かと一緒に登校するというのが夢でもあったからだ。
歩いている途中、いろいろなものが目に飛び込んでくる。中世のような街並み、水道を渡る舟、二色以上の鮮やかな色をした鳥たち、そしてなにより街の人たちが使っている魔法だ。ところどころに見える店も展示してあるのは魔法の道具ばかりだ。いまさらながら自分は異世界に飛んできたのだという実感がわいてきた、しかし同時に自分がとても興奮しているのにも気が付く。
(やっぱり想像してたのと実物じゃ天と地の差があるなぁ)
そんなことを考えて一人はしゃいでいると、
「そういえばなんであんなとこで寝てたの?」
とフェミリアが尋ねてきた。どうしようそんな質問への答えは用意してないぞ。知識の中にも言い訳はよういされていない、用意が悪いなあいつは。
「えっと・・・なんていうか・・・」
なんとか誤魔化そうとしていると目の前に俺とフェミリアが入学する学校が見えた。
「ほ、ほら!学校ついたよ!」
「ほんとだ!やっぱり友達と話してると着くのはやいなぁ」
「え?」
いまフェミリアは『友達』と言ったのか?俺のことを?
「もしかしていやだった?」
「ううん!そんなことない!むしろすごくうれしいよ!」
「そう?フフッじゃあこれからよろしくね!」
「うん!」
異世界に来て初日で友達ができるとは夢にも思わなかった。俺は今確かにこの世界にきてよかったと心の底から思い、感動している。
感動にひたっていると、学校のほうからチャイムが聞こえてきた。
「やばっいそご!」
「うん!」
俺とフェミリアは二人で走って校門へと入っていく。校内にはいると教師と思われる頭まで黒いローブでおおわれている人物に呼び止められた。
「そこの君たち、新入生だね?」
「はい、そうです」
俺がびっくりして固まっているとフェミリアが答えてくれた。
「そこの掲示板にクラス分けが書いてあるからそれを見て自分のクラスに行きなさい」
「はい!」
クラス分けかー、できればフェミリアと同じクラスがいいな。
そして指示通り掲示板に張ってあるクラス分けの用紙を見る。
「やった!私たち同じクラスだよ!ケイト!」
「ほんと!?やったー!」
自分でも確認すると2組と書かれた枠の中に俺とフェミリアの名前があった。書かれている文字は見たことのないこの世界の文字だったが、もらった知識のおかげで読むことができた。もしも読むことができなかったら、こんなにも感動することはなかったかもしれない。
(知識をくれたことだけは感謝しなくちゃな)
あの看板に対して感謝の気持ちがわくとは思ってなかった。
「教室いこ!早く早く!」
「わっまってよー!」
はしゃいでいる犬のようなフェミリアに置いて行かれそうになる。俺はフェミリアに追いすがり、ともに自分たちの教室へと向かう。学校案内によると俺たちの教室は四階あるうちの二階らしい。俺たちは息が上がったいるのも忘れて、階段を駆け上り、廊下を走り、中から明るい声が聞こえる教室のドアの前に立つ。
「いい?開けるよ?」
「う、うん」
ゴクリ、と生唾を飲む。この教室にいるクラスメイトは全員初対面なのだ、さすがに緊張してきた。それに女子校だからもちろん全員女子。そのなかで俺だけが女装男子なのだから緊張しないわけがない。
ガラッとフェミリアが勢いよくドアを開ける。クラスの視線がこちらに集まるが、すぐに皆友達との会話を再開する。こういうところは元いた世界とは変わらないようだ。
「あ、あそこあいてるよ!並んで座ろ!」
「うん!」
運よく二つ横並びで空いている席があったのでそこに座ることにした。
「ねぇ」
「わっ」
席に座ると隣のクラスメイトが話しかけてきた。そのクラスメイトは机に突っ伏して顔だけこちらに向けて話しかけていた。フェミリアに助けを求めようとしたが、彼女のほうでもとなりのクラスメイトと話していた。
「ねぇってば」
「は、はい・・・なんでしょう」
「君・・・」
彼女が何か言いかけた時教室のドアが開き、背が高く、スレンダーな女性が入ってきた。
「静かにー、いまから入学式の会場にむかいます。廊下に出て二列に並んでください。順番はいまから支持する順番でならんでください。」
その言葉に、新入生はぞろぞろと廊下に出ていく。俺もその人の波に乗って廊下に出る。
そして指示された場所に並び、隣になった人にはとりあえず会釈だけはしておいた。フェミリアと離れてしまってさびしかったがどうしようもないので耐えることにした。
「それでは移動します、私語はしないように。」
移動がはじまった。私語禁止のようだが、はなせる人が周りにいない俺にはまったく関係のないことだった。しばらく移動すると、他の教室から出てきた同級生たちと合流し列の後ろにまた列を作って並ぶという形になった。合流した後、階段を降り一階の長い廊下を歩く。移動の時間が長く感じるのは緊張しているからだろうか。
「会場に入ります。入った後はこの列のまま着席してください」
やっと会場に着いた。中に入るとかなり広い空間で、大聖堂と思えるほどのきらびやかな装飾が施してあり、すこしまぶしくすら感じる。他のクラスメイト達も皆感嘆の声が漏れている。そして指示通りに列のまま進み、自分の席に着席する。元の世界ではこのとき親が見に来るのが普通だが、この世界ではそうではないようだ。
「静粛に、これより第百四十七回国立トゥワラーン魔法女学園入学式を執り行います。」
いよいよ入学式が始まった。内容はいたって普通で、来賓紹介、来賓祝辞などだ。こういうのはうんざりするほど長く感じるのが定番だが、その定番はこの世界でも変わらなかった。眠くなりそうなほど長い来賓紹介が終わった。
「新入生、入学認定」
司会の指示により、1組の担任教師が生徒の名前を呼んでいく。呼ばれた生徒は大きな声で返事をする。これは元の世界でもあった行程だ。俺の所属するクラスは2組なので1組の入学認定が終わった後、また順番に呼ばれるはずだ。
(やっべー緊張するー!)
などと心の中で叫んでいると1組の入学認定が終わり、2組の入学認定が始まった。クラスメイトの名前が呼ばれ、それがだんだん席が近い人になっていく。しかし妙なことにさっきまで緊張として感じていたものはだんだん期待と興奮に変わっていた。
そうだ、俺はこれから3年間この学園で学び、青春するんだ。それを考えればなにを緊張する必要がある。
隣の席に座っていた人の名前が呼ばれる。
ついに次は俺だ。
「ケイト・ウェイカー」
「はい!」
俺が出した声は多分いままでの人生で一番明るい声だったと思う。
そしてこの日、この場所から俺の最高の学園生活が始まるのだ。