第1話 二度目の落下
「うう・・・ここは・・・?」
目を覚ますとどこかわからないところに倒れていた。
どうやら落下の最中にどこかに擦り付けてたらしく、着ている服はところどころ破れてしまっている。ウィッグに至っては行方不明だ。
「あぁ・・・一張羅なのに」
絶望しながらもとりあえず立ち上がると目の前に一本足のテーブルがあるのに気付いた。
その上には『ひつようなもの』と書いてあるおおきなリュックサックが置いてある。
「なんだこれ持っていったらいいのかな?」
なんとなく一人で呟いたとき床から看板が生えてきた。
そこには『そうだよ~』と書かれている。
「そっか~じゃあありがたくもらっていこうかな~・・・は?」
どう考えてもおかしい。現実逃避しようとしている思考を現実へ引き戻す。しかし、現実へと戻ってくる前に今度は床から箱と看板がセットで生えてきた。今度の看板には『これを着て行ってね』と書かれている。
「いやいやいや!おかしいだろ!看板が生えてくるのも箱が生えてくるのも!大体ここはどこなんd」
言い終える前に目の前に看板が生えてきた。それには『ここはゲートだよ』と書かれている。
「聞こえてんのかよ!」
『うん』
「ああもうなにがなんだかわかんねぇよ!」
『落ち着いて、とりあえずその箱のなかの服を着てよ』
「断る!ちゃんと説明してからにしろ!」
『着てくれないと説明する気もないしここから出さないよ』
その文字を見て俺はしぶしぶだが服を着てみることにした。箱を開けると中にはきれいな装飾の女性服が入っていた。それを見てすこしテンションが上がってきた。下着も入っていたのでまずはそれをつけることにした、ご丁寧にパッドもついていたので使わせてもらった。しかし服自体は見たこともない服なので着方がわからず困っているとわかりやすくイラストと文字で説明が書かれた看板が生えてきた。
「・・・見えてんの?」
『うん』
「はぁ・・・」
もう騒ぐ気力もなかった。その看板を見ながらその服をきていく、服はなかなかかわいくて俺好みのものだ。最後にブラウンロングヘアーのウィッグをつけて、着替えが終わると同時に今度は姿見が生えてきた。俺はその姿見の前でクルリとまわり、服の全体を確認する。
「へぇ、いいね。かわいいじゃん」
『もう驚かないの?』
「人間諦めるのははやいもんさ」
『着替え終えたことだしそろそろ説明をはじめようか』
約束通り看板は説明をしてくれるようだ。すると今度は棒の先に設置されたスピーカーのようなものが生えてきた。
「看板はやめるのか?」
「いまからする話はすこし長くなるからね」
聞こえた声は小さな女の子のような高い声だった。
「まずここは君たち人間の言う天国でも地獄でもないよ。強いて言うならばいろんなところに繋がっている三途の川ってとこかな。最初の君のここはどこなんだーっていう質問にゲートだよって答えたよね?」
「あぁ、言ってたなっていうか書いてたな」
「ここはそのいろんなとこの入り口となる場所なんだ」
「いろんなとこっていうのは?」
「異世界だね。君のいた世界とは次元が異なる世界のことだよ」
その入り口に連れてこられたってことは・・・
「俺はこれから異世界に送られるってことか?」
「そうだよ、でも安心してちゃんとクリア条件をクリアすれば帰れるようにしてあるから」
「本当か!?」
実をいうとまだ俺は現世に未練がある。まだ16年ほどしか生きていないのだ、まだまだこの先生きていれば友達を作るチャンスなんていくらでもあるはず。そのチャンスをすべて捨て、やる前から諦めるのだけは嫌だ。
「本当だよ。君のクリア条件は今から行く世界の学校で三年間過ごしてちゃんと卒業すること、ボーナスステージみたいなもんだよ。三年間青春して帰ってくればいいだけなんだから」
「三年間!?だめだだめだ!今俺高校生なんだぞ!高校まるまる三年間分留年なんてできるわけがないだろ!」
「安心してよ戻るときは穴に落ちるちょっと前の時間に戻してあげるからさ」
「そっか・・・ならいい、のか?」
すこし迷うがいい提案だ異世界とはいえ三年間の青春で友達を作る方法と友達づきあいを経験して帰ってくれば元の世界に戻った時にもその経験はいかせるはず。そしてついにボッチ卒業が達成できるはず!
「納得してもらえたみたいだね、じゃあ説明をはじめるよ。君に行ってもらう世界は魔法が存在する世界だよ。そして君が通うことになる学校でも魔法をおしえているんだ」
「魔法学校ってことか、いよいよファンタジーじみてきたな」
「そういうことだね、説明を続けるよ。その世界には・・・あーもう時間無いや、ちょっと失礼」
「ん?」
急に話をぶった切ったかと思うとスピーカーからコードのようなものを伸ばしてきた。そしてそれは素早く俺の頭に巻きついたかと思うと青く光り始める、と同時に床が突然揺れ始めた。
「うおっなんだいきなり!?」
「暴れないで!もうこのゲートが消滅しかかってる!いまから君の頭に直接必要最低限の知識を送り込むよ!それから先は君次第だ、頑張ってくれ!」
頭の中になにかが流れ込んでくる感覚に襲われ気分が悪くなってくる。
「いつまで、おぇっ続けるんだよ、おぇっ」
吐きそうになりながら訴える。もう立っていられないほどに揺れは強くなり、頭ももうはち切れそうな圧迫感を感じる。
「知識の送信完了!じゃあ異世界に送るよ!舌かまないように歯を食いしばっておいてね!」
頭になにかが流れ込んでくる感覚から解放されたと思ったらなにやら早口で忠告を受ける。
「あ、言い忘れてたけど君の入学する学校は女子校だから、男だとばれないように気を付けてね!」
「へ?」
ちょっと待てそれはききずてn
抗議の言葉をいう暇もなく浮遊感に包まれる。ゆっくりになる視界で足元をみるとここに来た時のような底の見えない大穴に落ちるところだった。
「また落ちるのかよおおおぉぉぉ!!!」
俺の叫びは穴の中の暗闇にむなしく吸い込まれていった。