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ジェムの秘密

外は日差しが強くなって歩道を照らしていた。

男の子はリビングや広い部屋を疾風のように走り回って遊んでいる。

今日は両親が魔術士の免許を更新する日で半日ほど家にいないのである。

両親がいるときは束縛されて好きな事すら自由にできないので今日ほど嬉しい日はなかった。

日頃できないような事をやってみようと思い、閃いたように父親の書斎のドアに近づく。

普段は立ち入ることを禁じられている書斎に入ろうと思いついたようだ。

ドアには顔に見える木目の模様があり父親に見られているような気がしたが迷わず重い真鍮のノブを回すとギギギッという悲鳴にも似たような音を鳴らしながらドアが開いた。

木の匂いと薬品が混ざり合った匂いがする。

見渡すと緑色の液体や見た事もない生き物の標本、難解な魔術士の本が並んであり、自分の家なのに別の場所にいるように思えた。

その中でも男の子が目を引いたのは二頭のペガサスの模様が刻まれている大きな箱である。

昔に両親と魔術教会に出向いた時に見た事がある模様と同じものだ。

父親がとても大切にしているであろうその箱を男の子は取り出し恐る恐る中身を見るが厳重な保管の仕方とペガサスの模様が刻まれている以外は汚い何の変哲もない無機質な壺だった。

その瞬間、外から女性の声が聞こえてきた。

ずっしりとした赤いカーテンの隙間から窓の外を見ると白のロングヘアの女性が家の鍵を取り出していてその後ろに気難しい顔をした黒髪の男が顔に手を当て日差しを避けていた。

男の子はなぜ両親がこんな早くに帰ってくるのか理解できず焦りながら壺を箱に戻そうとしたがガチャッという大きい音が聞こえた後に破片が部屋中に広がった。

バレてしまったのではないかという不安な気持ちを抑えながら花瓶の破片を素手で回収していった。

家のドアが開いて父親が書斎に近づいてくる。

父親は書斎の真鍮のノブを回すとそこはいつもの変わらぬ書斎であった。

男の子は自分の部屋に戻り、服の裾を伸ばしそこに割れた花瓶を包んでいた。

服を脱ぎその破片をすぐさまベットの下に隠して新しい服を着て、安堵のため息をつく。



30分後、靴音が自分の部屋に向かってくるのがわかった。

バレてしまったと思い恐怖で布団の中に大型の肉食動物に襲われる小動物のように縮こまる。

ガチャッとドアが開くと少年の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ジェム、今日の更新日はかなり空いていて早めに更新できたのよ。かなり早く帰ってきたから驚いたでしょう。もうすぐショートパスタができるわ。降りてきなさい。」

男の子はホっとした様子で「はい」と返事をした。

しばらく経ち下へ降りるとチーズとコーンのおいしそうな匂いがしてくる。

「遅かったじゃないか何かあったのか?」

食べかけのショートパスタの前に父親が座っている

「今日は勉強の為に初級の魔術の本を読んでいたんだ」

男の子は父親の顔を窺いながら嘘をついた。

「そうかお前が勉強とは関心だな」

父親は残っているショートパスタを平らげる。

男の子も父親の前の席に座りショートパスタを口に運んだ。



0時を回り下の階の電気はすべて消えていた。

外を見るといつもよりも暗闇が濃く感じられた。

男の子は布団の下にある服を引っ張り出してその中の割れた壺を確認する。

割れた壺を見るとまた不安な気持ちが襲ってくる。

バレてしまったらと考えると胸が打ち破られるほど心臓が鼓動を鳴らす。

学校で使った小さなシャベルを割れた壺を包んだ服の中へ入れ、不安な気持ちを抑えながら下の階へ向かう。

つま先で探るようにして慎重に歩くが階段の軋む音が響く。

両親が寝ている部屋の前を過ぎ玄関のサムターンを回しドアを開くと隙間からもの凄い風の悲鳴と足元がよろけるほどの風が男の子を包む。

無事に家から出て当たりを見渡すが庭はタイルで埋まっていて割れた壺を埋める場所がないように思える。

しかし男の子はすぐさまポストの奥の角の方向へ小走りで向かってタイルを持ち上げた。

昔に庭で遊んでいる時にタイルの一枚がしっかり張れていない事を知っていたからだ。

土の湿った匂いとダンゴ虫やゲジゲジといった虫の姿が見えたが父親に怒られる恐怖に比べたらだいぶましに思えて鳥肌を立てながらも割れた壺を埋めようとした。

その瞬間隣の家からとんがり帽子をつけた白髪で長い白ひげを垂らしたガタイが大きい老人が出てきて目が合ってしまったのだ。

男の子は焦りながら割れた壺をタイルの下に隠したが老人は興味深そうにこちらを見て去って行った。


隣の家で何かしらの事件があり目撃者を探しているという事だったが10歳のジェムは協力しなかった。


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