第3話 合流したらトラブル続き(後編)
佐竹三郎様の『三匹が!!!』
http://ncode.syosetu.com/n3992ch/11/
より、ヘルメスさん、ヴィシャスさん、エンクルマさんをお借りしております。台詞回し等オカシな所、不快な表現がありましたらご一報お願いします。
つドタバタと撤収して、幹部や古参、各隊長クラスのメンバーで今後の連絡網や脱退者達の受け入れ先についての話し合いや確認作業に追われて、キリーはreiとD. D.Dに行く事すら出来ず、黒剣騎士団のギルドハウスの割り当てられた部屋でreiを待たせることにした。
「rei悪いけど、この部屋で待って。後、まだ、混乱している人が居るから部屋から出るなよ」
「はーい、分かった」
本当に分かっているかどうかは不明だが、他に手立てがないので仕方なかった。
「ねぇ、お母さん。お風呂入りたい」
「お風呂?ギルドハウスに有ったかなぁ?すぐ、には無理だから待ってて」
唐突に言われて、困惑気味になりながら部屋を出て、臨時会議室代わりの食堂に居るメンバーにギルドハウスの風呂設備についてきいてみた。
「泥や汗、モンスターの体液で汚れてるから風呂に入りたいけど、どうなってる?」
「風呂か……有るには有るが使えないぞ」
シドが死神姿で漂いながら答える。
「有るのに使えないって、どういう事?」
「水が出ないから使えない」
「排水は大丈夫なのかな?」
「キリー女史は何をする気なのか?」
死神にマジマジと見つめられて、恐ろしく居心地悪い思いをしながら、
「ウンディーネで水浴び出来ないかな?と思ったんだけど……」
自信なさげに答えた。
「そいつは俺には出来ない相談だが、試しにやるのは悪くないな」
シドは楽しげに笑っている様なのだが、死神が笑うのが、こんなに気味悪いものとは思わなかった……。
人数に対して風呂設備がかなり小さいけど、ゲームだった時は只のオブジェだから気にしてなかった。
「クルス、ウンディーネを召喚して水を少し流して貰える?」
「姐さん、風呂場に水を流せばいいですか?」
「そうそう、排水が出来るか確認するためだから少しでいいよ」
ウンディーネを召喚出来る召喚術師のクルスに頼んで実験してみる。?水量のコントロールが出来るかも確認しようと考えていた。
彼ははウンディーネを召喚して
「ウンディーネ、水を風呂場に少し流して欲しいんだけど出来るかい?」
と頼んでると、
「マスターから話しかけてくれた~。嬉しいな、そんなのお安いご用ですよ」
甲高い声で答えるウンディーネ。
「(ふ〜ん、召喚した生物との意志疎通は可能なのか……)」
少量の水を流すときちんと排水しているようだ、ギルドチャットで下の階に水漏れしてないか確認する。
「問題ないです」
各階から連絡があり、排水は問題ないと思う。バスタブに水を溜めて、オブジェとしてあった洗面器が使えそうだから、水浴び位は出来そうだが……
「クルス、バスタブに水を入れておいて」
「分かりました。って、姐さんどちらに?」
「ドンとレザリックさんの所まで」
何の対策も無しに無防備に水浴びする気はないので、団長以外にギルドホームの設定を弄れる2人にお願いしなければならないのだ。因みに団長は会議室と化した食堂で石像になっている。話が纏まって落ち着いたらレザリックさんに回復してもらう予定にしている。
バックの中身を画面で見ながら、下着の代わりになりそうな水着を探す。自分の分は何着かあったが、reiの分が無いから、作って貰うしか無い。高レベルの裁縫師は……
多少、高くついても今の内に用意しないと順番待ちになるだろうし……。フレンドリストをスクロールして相手の名前を探し出して念話をかける。
「ヘルメスちゃん、ちょっとお願いがあるのだけど、今大丈夫?」
『キリ姉ぇ?えっとぉ~♪どんなぁ~お願いでしょうぅ??』
かなり困惑気味の返答に内心苦笑しながら
「大急ぎで男物の水着を数着作って欲しいのだけど……レシピある?」
『男物のぉですかぁ~???』
「息子のreiの下着の代わりが欲しくてね、頼まれてくれるかな?」
『!!あぁ~なぁる程ぉ~♪、5着程度ならぁ~直ぐに出来そうですよぉ~♪。キリー姉ぇの作ったぁ~♪麻痺毒(特殊レシピの)2本でぇ~どうでしょうぅ?』
「分かった。それでお願い、出来たら連絡ちょうだい」
思いっきり金の亡者のスイッチ入れた気もするが、遅かれ早かれ入るのは間違いないしな……。
かなり困惑気味の返答に内心苦笑しながら
副団長のドン・マスディとレザリックさんがちょうど一緒に居たので、内密の話として個室で制限掛けた状態で風呂場の制限をお願いする。入場制限する訳には行かないので、対処方法は……
途中でヘルメスちゃんから毒と交換で水着を受け取り、部屋にreiを迎えに行って風呂場に行くと、バスタブに入れられた水の中にサラマンダーが浸かっていた。
「なぁ、クルス。この火蜥蜴は何だ?」
「姐さん、おかえりなさい。水を温められないかなと思ったんですけど……駄目ですか?」
「駄目とか言う以前に火蜥蜴を水の中に入れて大丈夫なのか?」
バスタブの縁を掴んでる火蜥蜴は意外に気持ちよさそうにも見えるけど……素朴な疑問を聞いてみた。
「ウンディーネちゃんじゃ温める事が出来ないから、火蜥蜴君に温めてと言ったら水の中に飛び込んじゃって……」
「(自ら飛び込んだ!?)マジか?」
驚きと呆れた感じでバスタブの中に手を入れると水はぬるま湯位に暖まっていた。
「意外に暖まってるな……。流石に浸かると風邪ひきそうだけど」
「少しでも温まっているなら良かった。あのまま水浴びしたら流石に風引きそうだったんで」
「そういう気遣いは出来るんだな、クルス。下心丸出しで女の子に話しかけなければ、それなりにモテそうなのにな」
「姐さん、酷い」
そこら辺で突っ伏すクルスを無視して鞄の中から幾つかの瓶や短剣を取り出し、邪魔にならず直ぐ使える様な場所に置く。
「クルスは浴室から出て」
追い出す様に浴室から廊下に出し、バスタブの中に居る火蜥蜴の頭を撫でてから徐ろに適当な布で目隠しをしておく。
「悪いね。お前の主人が幻獣憑依で覗きした時の対処の為に目隠しするよ」
脱衣所に待たせていたreiに準備出来たから服を脱いで入るように促す。私が服のボタンを外そうとした時に複数の気配がした。
「ったく、下手な隠密やってんじゃないよっ!!」
怒気の篭った魔力に当てられ数人の男達の姿が顕になり、慌てる。
「「「「うわっっ」」」」
呆然とこちらを見てる彼らの前に立ち、
「さて、何しに来た!!」
笑顔で恫喝する。殺気に彩られた私の笑顔に怯えた男達は正座していた。
「「「「申し訳ありません。出来心で覗きに来ました」」」」
コメツキバッタの様に頭をペコペコ下げている男達を尻目にウィンドウを開き操作すると、彼らの全ての装備が強制解除されてパンツ一丁になる。鞄の中から二種類の毒を取り出し、彼らに振り掛けてから浴室に入室禁止にして追い出す。念話でドン・マスディに連絡して覗きに来た馬鹿どもを放り出したので処分をしてほしいと頼んでおく。服を脱いでバスタオルで身体を隠す。脱衣所に隠れていた奴らは叩き出したが、風呂場に逃げ込んだのも居るようだし油断は出来ない。
風呂場に入るとreiがお湯を頭からかぶっていた。
「お母さん、石鹸ない?」
「流石に持ってないよ。お湯をあびて、タオルで拭くだけでも大分違うんだから我慢して」
とタオルを投げ渡す。reiはタオルで顔を拭きながらPTチャットで
「3人かな?隠れてるよ」
狼牙族の種族特性で感知したのだろう。相手に聞こえない様にPTチャットを使うとは出来た息子だ。
周辺に自分の魔力を浸透させるようなイメージで隠れてる3人を探す。隠れてる場所が分かればやる事は……
手近な瓶を2本上空に投げる。瓶同士が空中でぶつかり割れ、中身と破片が隠れてる3人に向かって降り注ぎ、彼らは床に転がり、痛みのあまりのたうち回ってるが、無視して強制装備解除後、入室禁止して外に放り出す。
「まったく、どう仕様も無い連中だ」
呆れて呟きながら、バスタオルを外してお湯を頭から被り、髪についた汚れをすすぐ。ある程度自浄作用で綺麗になるとはいえ、大量の血液を浴びたのだから気分的にも、水浴び出来るのは助かった。
改めて、自分の身体を見ると、シミ一つもなく、二の腕やお腹に無駄な肉もない華奢な身体だが、全体的に細くなった為、胸の大きさがワンサイズダウンしているように感じる。
「お母さんの胸、小さくなったよね?」
ドストレートに聞かれたが、息子とはいえ、他から指摘されると凹みたくなった。
「全体的に肉が減った所為だろ」
やや不機嫌にな声になってしまうのは仕方が無いとして胸を見る。
形の良い円錐型でそれなりのボリュームはあり、左右対称になってるようだ。
お湯で埃や汚れを流しタオルで身体を拭き、脱衣所のかごの中に置いてた鞄から水着を出し身に付けていると、不意にドアが開きドレッドヘヤー男性が入ろうとする。
「なんか通路がつかえとうが、なんしょうと?あっ……。グホッ」
手近にあった篭手をドアの前の彼に向かって投げ付けると、見事に顔面にクリンヒットして、そのまま後ろに倒れ込み、ドアも閉まった。
「お母さん……それ僕の!!」
「あ〜、ごめん。後で返すから」
苦笑して返事しながらreiに着替えを渡す。ドロップ品の中で上等な衣服でそこそこ肌触りの良い物を渡す。普段着にはちょうど良いだろう。自分には青いサマードレスの様な軽鎧にショールを羽織るとreiの装備一式を預かり、脱衣所から廊下に出る。
出て来た私達を見て周囲が一瞬静かになった。
足元に落ちていた篭手を拾って鞄に入れ、顔に篭手の跡がある倒れてる武士を端に動かして周囲を見渡しながら怒鳴る。
「ここに集まる必要があるのか?通行の邪魔だから用の無い者は部屋にでも戻るか、毒で動けない連中を運ぶのを手伝ってくれ」
私の毒で動けない連中と先ほどノックアウトさせた武士はともかく、野次馬が多くて通りにくくなっている。
「レザリックさん、ドンの手を煩わせてしまって、すみません」
「いえいえ、キリーさんの読み通りでした。しかし、野次馬が予想以上に多くて困りましてね。彼らをここに置いて置くと邪魔ですので食堂に運びましょう」
「そうしましょう。rei運ぶの手伝って」
「このおじさん達を運べばいいの?」
「そうそう。ぱんつ一枚でいるのおじさん達を食堂まで連れて行って」
「はーい」
とreiは毒で動けない男の足をもって引きずって行った。
外野から
「おーい、その引きずり方はマズイ。見えてる、見えてる。(大爆笑)」
「だったら見るなよ」
と笑っている男達を睨むがパンツ一枚の姿で引きずられていては迫力に欠け笑いを誘うだけだった。
「青いサマードレス姿の女性って誰」
「普段は儀礼服だから判り難いけど、キリー姐さんだよ」
「あぁ」
とか
「誰?」
などと聞こえてくる。
「あ〜、新人達はあまり知らないか……黒剣騎士団で逆らったら後が怖い女傑の一人だから覚えておけよ」
と言ってるのが聞こえたが、いちいち目くじら立てても疲れるだけなので放っておく。
食堂に並んだ半裸で正座している男達を呆れた目で見ながらため息をつく。
「こんなんじゃ、数少ない女性たちが出て行っても仕方ないよなぁ~。」
「うぐっ・・・・・・」
「ごめんなさい」
「今晩はそのままの格好で反省しなさい」
と眠そうなreiを連れて部屋に戻った。彼らは女性たちから冷たい視線と心温まる言葉を一身に浴びたのだった。
割り当てられた部屋はそれなりに広いのだがセミダブルのベットが一つあるだけで他は何も無い部屋に戻るとreiは靴を脱いでベットに入り横になり、じっと私のほうを見る。その仕草に苦笑しながら私も隣に横になり添い寝をしてやると嬉しそうに抱きついてきて甘えてきた。軽く頭を撫でてやると手に擦り寄ってきた。そのまま黙って撫でてやると安心したかのように眠ってしまった。私も眠ろうと思ったのだが、午前中に斬った感覚がまだ残っていて眠れそうもないので、鞄の中から手頃な酒を見つけて飲んだのだが水のような味だけで酔えたのなら良かったのだが、身体が勝手にアルコールに抵抗してるようなので酔いたくても酔えないようだ。それでも何本か飲めば蓄積で酔って眠れるかと思ったのだが無理なようだ。
「はぁ~、食堂にある度数の強い酒を貰うかな・・・・・・」
reiを起こさないようにそっと部屋を出て、何気に食堂に出ると。パンツ一枚で雑魚寝してしまった連中を見て苦笑してしまう。そのまま彼らの前を通り過ぎ石像と化したアイザックを見て、鞄の中から万能薬を取り出しかけてやると、徐々に石化が解け、自由になった途端、怒りをぶつける様に詰寄って来た。
「この野郎何しやがるんだ」
「 アイザック、今は深夜で寝てる人が多いので出来れば静かに出来ませんか?」
私の普段の格好とは違うことと周囲が暗く彼方此方からいびきや寝言が聞こえてくるので、あれから時間がたったことが理解できたようだ。適当に席に座ると
「何故、俺を今戻したんだ?お前らの事だ脱落者を送り出してから戻す予定じゃなかったのか?」
「うん。本当ならそうしてた。でもね、今朝の感覚が忘れられなくて眠れそうもないし、他の誰かに愚痴を言うわけにもいかなので、団長一杯付き合ってもらえません?」
と先ほど部屋で飲んでいたものよりも度数の強い火酒を取り出し、グラスに注ぎアイザックに渡す。
「眠れないのは分かるが・・・・・・」
グラスを受け取り味のない酒を口にして、驚いて私の方を見る。
「おめぇ、こんな度数強い酒飲めないはずなんじゃ」
「そうですよねぇ。こんな強いアルコール飲んだらひっくり返ってそうですよね」
苦笑交じりに答えながら自分のグラスにも酒を注ぎ、一気に飲み干す。
「おいっ」
「大丈夫ですよ。何故かアルコールが効きにくくなってるんです。その所為で酔いつぶれて寝ることも出来ないんですよ」
慌てるアイザックに対し、投げやりな口調で答える。
「モンスターを斬ったり、柄で殴って頭蓋骨を割る感覚でさえ初めてで戸惑ったのに、襲われたとはいえ、人を斬って殺したんです。喉元に斬りつけた時、硬いものを斬った感覚がしたんです。吹き出す血のむせかえるような匂いが水で洗い流しても残っているようで……。血の匂いにはある程度慣れてるつもりだったんですけどね」
アイザックは黙って聞きながら私のグラスと自分の分に酒を注ぐ。
「それで、おめぇはもう戦えないって言いたいのかよ」
静かだが怒気のこもった言葉に私は苦笑する。
「やだな、団長。少しくらい弱音吐かせてくださいよ。reiのために頑張ると決めたんです。子供の前で何もしないなんて格好悪いことしませんよ」
流石に少し酔いが回ってきたのか少々饒舌になる私を呆れながら見ている団長は酒を飲みながら苦笑する。
「まぁ、あいつらが消える寸前に首が落ちたのには俺も驚いたがな。あぁ、チビには見えてないと思うぞ。後ろに庇っていたしマントで視界を遮ったからな」
「えっ、そんなことが・・・・・・。配慮してくれて、ありがとうございます」
「気にすんな。子供にゃ~刺激が強すぎる光景だからな」
戦闘中でそんなことまで見る余裕の無かったので、彼の気遣いには本当に助かった。本人にそれなりの覚悟があって見るのと不意に見るのではショックの差がありすぎるし、精神的外傷になってしまう可能性があったことに気づき愕然とする。
「そういった気遣い出来るくせに、どうしてあぁいう態度とるかねぇ〜?」
ため息まじりにぼやくと、ややふてくされた態度の団長はそっぽを向いた。
「うるせぇ、戦えない連中を全て庇えるほど俺は強くも懐もデカくねぇからよ。細かいフォローはレザやマスディ、お前らがやってくれるだろう?」
「わざと誤解させる様な言い方しなくてもよさそうなもんだけどねぇ。あんたらしいと言えばらしいけど」
呆れたように苦笑する私にアイザックは笑いながら背中を叩く。
「痛いんですけど」
ムッとして団長指差す右の人差し指の先に魔力を集中させる。すると周囲のマナが感応して集まりこぶし大の魔力球ができた。
「おいっ」
不意に魔力球を突きつけられた団長は少々驚く。それを見て溜飲が下がったので、魔力の集中を解くと集まったマナは霧散していく。
「ふっ。なかなか見れないものを見せてもらいました。このドレスのせいで魔力が上がっているとはいえ、威力なんてたかが知れてますけどね。」
女性であれば誰でも装備できる、ビジュアル重視の装備なので補正はそこまで良いわけではないが、初心者にとってはかなり重宝される品物である目的のために持っていたのだが……。
「驚かせやがって、なんでお前が魔法なんて使えるんだよ?」
「はぁ〜?あれは基本魔法攻撃なので誰でも使えるはずですが?」
団長の質問に呆れて返答する。武器職の連中が基本魔法攻撃を使えるかどうか試したヤツは居なかったんだな、黒剣騎士団《うちの連中》らしいけど……。
食堂の出入口の方を見て、苦笑する。
「レザリックさん、そんなところに突っ立ってないで、一緒に呑みませんか?」
「気配を消したつもりだったのですが、気付かれてしまいましたか」
「暗殺者の隠密ならいざ知らず、気配消しただけで気付かないわけないでしょう」
「それもそうですね。そこら辺に転がっている人達(ほとんど暗殺者)は隠密状態で入浴シーンを覗こうとしてキリーにあの様な姿されたんでしたね」
「あの惨状はお前が原因なのか?」
「肯定しかできませんね」
首をすくめて苦笑する。
私が黒剣騎士団に入団のきっかけになったのはレイド攻略の人数調整のために参加者の募集してたため参加したんだが、隠密状態のエネミーやプロップを探さない、プロップを漢解除(わざと引っかかり解除)する等とあまりの惨状についつい手を出したら独壇場になってしまっていた。黒剣騎士団に改名前とはいえ、所属メンバーからの口添えでもなかなか入団出来ないギルドだったので初期メンバーからの口添えと団長が
「ここまで活躍したヤツの入団を断るわけねぇだろうが」
カラカラと笑いながら言うので、レイド攻略後の達成感と爽快感で高揚していた私は喜んで入団したんだけど……。
時々、早まったかなと思うことがある……。
「キリーさん、今まで魔法攻撃なんて使ってなかったのに、どうしたんですか?」
レザリックさんの素朴な疑問にちょっと苦笑して答える。
「ただ単に、この世界で魔法が使えるのだから試してみたいと思っただけですよ。攻撃の威力はたいしたことはないですが、私の魔力でも周囲のマナに干渉することが出来るので、ちょっと応用で異常探知に使った結果があれですよ」
と転がっている男達を指す。
「そんな利用方法があるんですね」
と感心するレザリックさん。
「お前、昨日戻らなかったのはそんなんを試してたから?」
「他にもありますが、だいたいそうですね」
流石に目線の高さが違ってコケまくったから歩行訓練といろいろと技の動作確認をしたら(基本魔法攻撃でマナを集めたら周囲の敵愾心も集めたので)、モンスターに強襲されて戦闘しちゃったとは言えない。
しかも、帰還呪文は│意識を失う直前《モニターの前にいた時》に使ったのでリキャストタイムが表示されて使えなかった。
「あのちび助も戦闘できるのか?」
「ツインシールド型なので攻撃はほとんど出来ませんが、ヘイト調整や行動支援をメインになら……」
「あの歳で度胸あんな」
「そうですね、最初は怖がっていました。私がreiを庇い攻撃を受けながら戦ってたら、私を助ける様に行動支援特技を使うようになって、今では盾で攻撃を受け止めるまでになりました」
「ちび助なりに母親を守ろうとしたわけか、脱退者《臆病者》に爪の垢でも煎じて飲ませてぇくらいだな」
酔いのせいもあるが機嫌よく大笑いしている団長を複雑な心境で見ていた。正直、親としては出来れば戦闘なんてして欲しくないけど、この先何が起こるか分からない。PT戦闘ならどうにかなりそうだが、ソロだと……
「誰かさんみたく喧嘩慣れしてるわけじゃなし、急にモンスターと戦えと言われて出来る人のほうが少ないと思うけどねー」
嫌な考えを払拭するように揶揄ったのだが、それをからからと笑う団長《酔っ払い》
「お前は出来たじゃないか」
「私の場合すぐそばに守るべき子供が居たからですよ」
苦いものを飲んだような表情で団長を見る。reiが居なかったらパニック起こしてただろう。襲いかかるモンスターの大きさや臭いなどに惑い恐れ、低レベルのモンスターを倒すのに手こずった。現代人の意識では戦闘に慣れるには時間がかかるし、精神的なケアが必要になるのだが……
「あのー、キリーさん。酔いが回って眠そうというか寝そうな表情でまともに話されると凄い違和感があるんですが……」
「えっ?」
「あん?そういやそうだな」
レザリックさんに指摘されて時間のステータスを確認すると『泥酔』のバットステータスが付いていた。しかし、意識ははっきり……あぁ、ハーフアルヴの種族特技の『パラレルマインド』せいで身体の不調から思考を分離していたようだ。(酔ったのに気付かないのは酔った思考がすぐ寝てしまったからだろう)
「種族特技のせいみたいですね。この状態ならベットで横になれば眠れそうなので部屋に戻ります。おやすみなさい」
と立ち上がり歩き出すが、ふらふらしてまともに歩けないため壁に寄りかかり、ヨロヨロと進んでいく。
「なぁレザ、あいつを部屋まで運んでやれるか?」
「構いませんが、アイザック君が連れていかないんですか?」
「君付けすんなよ。あいつの部屋なんぞ知らないし俺もかなり酔ってるからな、頼んだ」
アイザックはしっかりとした足取りで食堂を出て行くのをレザリックは見送り、ヨロヨロと歩くキリーの方へ向かう。
「部屋まで送ります」
「すみませんレザリックさん。ありがとうございます」
レザリックさんの肩を借り部屋の前まで送って貰い、お礼を言って部屋に入りふらふらと歩きベットに倒れ込む(無論reiを下敷きにしないようにしている)とブーツを脱ぎ捨ててそのまま眠ってしまった。
いろいろ詰め込み過ぎて時間かかりました。