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3 ラスボス宣言

「ちょっと待って、話が全っ然解んない」

 ずんずん進んでいく話に、阿澄がストップをかけた。話にまったくついてこれないらしく、頭を抱えている。もっと解りやすく説明してやれよ、と丈が目線で邦子に訴えると、邦子はやれやれと肩を竦めた。

「要するに、私は桐島御影のお友達だったのよ。もうすぐ死にそうだから、自分が死んだ後はいろいろ助けてあげてねー、って十年来の友人に頼まれたら、断れないもんね」

「邦子さん、いったい歳いくつなんです? 丈のお母さんと友達って……」

「おっと、女性に歳を聞くなんて野暮天ね」

 唇の前に指を立て、「企業秘密」と邦子は悪戯っぽく微笑んだ。最初に会った時、四葉とは同級生だが同い年ではないというようなことを言っていたのは、そういう意味だったのだ。「もっと気楽にしていい」と言葉を続けたから、飛び級か何かをしただけでもっと若いということなのだと丈は勝手に思い込んだが、邦子がそう断言したことは一度もない。本当の意味は、もっと年上、ということだったのだ。母親と友達というくらいなのだから、結構な歳なのだろう。その割には高校生くらいにしか見えない外見をしているのは、胡散臭い魔法の道具が関わっているのだろう。

「では、解りやすーく説明するけど。御影は、自分が近いうちに死ぬことを予期していた。ちなみに、これは予知能力とかそういうんじゃなくて、単に末期癌だったって話ね。天才魔女も病魔には勝てなかったわけ。で、自分はもうすぐ死んでしまうけど、そのずっと先、自分の息子、つまり丈君が、ちょっとした問題にぶち当たることを予期していた。その問題の対策として、魔法の鍵を用意した、というわけ。酔ったふりして鍵についての情報をぽろっと漏らして、鍵狙いの魔女を呼び寄せたのも本人の計画」

「なんでそんな、危ないことを?」

 実際、巻き添えで危ない目に遭った阿澄は、釈然としない様子だった。

「いろいろと、御影には思惑があったわ。けど、そのせいであなたが巻き込まれることになるかもしれない、と御影は懸念していたわ。何かあったら謝っておいてと言われたから、私から謝っておきます」

 自分で仕組んでおいて、友人に謝罪を押しつけるとは。友人相手でも、随分と自分勝手なことをしていたらしい、と丈は少し呆れてしまう。

「御影は周到に計画をしたわ。でも。やっぱりいろいろ想定はしていても、死んだ後のことだからね、後々問題が起こるかもしれない。そのために、私がいた。困ったときに情報をくれる、頼りになる魔女、『いばら姫』がね。問題が起きた時に適切なアドバイスをくれる美少女魔女と、たまたま偶然コネがあるなんて、そんな都合のいい話があるわけないってコトよね」

「美少女、ねぇ」

「……都合の良すぎる出来事にもう少し疑問を持っていれば、もっと早く私の正体に気づいたかもね。ご都合主義も主人公補正も現実には存在しません――いい社会勉強でしょ?」

 「美少女」にいちゃもんをつけたのが気に入らなかったのか、邦子は手厳しいことを言った。

「まあ、そんな具合で、私は問題が起きるたびに、こそこそと暗躍してた。最初のうちは、私の出番なんかなかった。雑魚みたいな魔女がやってくるぶんには、丈君は口八丁手八丁で、なんとかしてた。でも、そうもいかなくなってきたのが、悪名高き『グリムの魔女』の襲撃あたりからね。私も、丈君が苦労するのは『グリムの魔女』相手の時くらいかなーって、予想はしてたから、情報を集めておいて、様子を見てそれを提示して、裏から魔女戦の難易度を操作した」

 白雪吹雪との戦いは、ゲームの内容と、白雪のイカサマに関する話を事前に知っていなければ、おそらく対応は不可能だっただろう。

 江良姫奈との戦いでは、攻略法のヒントを提示した。

 樫原真樹・美咲については、魔法の鍵について丈に考えさせ、さらに二人の問題も解決するよう仕向けた。

 織部蓮華との悶着では、勝負後に凶行に走ろうとしたのを直接手を下して止めた。

 これが、戸隠邦子の、一連の暗躍である。

「ここまで手の込んだことをして、御影はあなたに、鍵を用意した。お膳立てはそろってるから、あとはあなたが、使いたいときに、使えばいい」

「使いたいときって、いつだよ」

 使い道を知らないものを、使いたいと思うはずがない。

「どうしても困ったときよ。自分ではほんとにどうしようもないとき。『神様仏様!』って頼みたいとき」

「『神様仏様!』だったら、受験のときに頼んだがな」

「今度はもっと、深刻なときに神頼みするといいわ。そして、神頼みしても、神様が何もしてくれないときに、魔女にお願いすればいい。魔法で願いを叶えてください、ってね。魔女は神様と違って、信者じゃなくても願いをきいてくれる、良心的な存在です」

「願い、ねえ。神頼み、ならぬ魔女頼みしてまで叶えたいと思う願いなんて、そうそうないだろうに」

「そのうち解るよ」

 不意に邦子は、優しげな笑みを曇らせ、どこか切なそうな表情になって、呟いた。

「どうしても叶えたい願いが、きっとあなたにはあるはずよ。そして、鍵はその願いを、とある魔法で実現する。鍵にどんな魔法が込められているのか、どうやって使うのか、使えばどうなるのか……知りたくなったら、私に挑んでおいで。私に勝てたら、教えてあげる」

 最終的に、結論はそこに至る。

 戸隠邦子は、一番最後に丈の前に立ちはだかると、宣言したのだ。

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