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みくみく!  作者: 三毛猫
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「ひ、ひもじゃないですかっ!」

「遅いぞー!」

 講堂に入ろうとしたら、安住さんの声が飛んできました。

「お待たせして申し訳ありませんわ」

 穂乃香さんが胸の前で手を合わせてにっこりと微笑むと、安住さんは「まぁ、いいさ」となにやら紙の束を穂乃香さんに差し出しました。

「音あわせ始めるぞ」

「了解しましたわ。みくちゃんは、神野さんと衣装合わせをお願いしますわね」

 ちいさく微笑んで穂乃香さんは安住さんと一緒に壇上のピアノの方へ行ってしまいました。

 真魚ちゃんは、何やら機材のセッティングを始めて、わたしと恋川さんだけがぽつんと取り残された感じです。

「神野さん、は?」

 きょろきょろと見回しますが姿が見えません。

「お嬢ちゃん、こっちこっち」

 おじょうちゃん、って。わたしのことでしょうか?

 どこからか聞こえた声にもういちどぐるりと講堂を見回すと、舞台袖の控えの方で神野さんが手招きしているのが見えました。

 てくてくと舞台裏に歩いていくと、神野さんがにやりと微笑んで「いいのできたよ」と何やら風呂敷包みを持ち上げて見せました。

「ウチは洋裁部なんだけどね、ちょっと和風にしてみたよ」

「一晩で縫い上げるなんて、ちょっとすごいです」

「あはは、洋裁部総動員したからね」

 控え室の椅子に、鮮やかな緋色の巫女さんっぽい衣装が広げられました。なんというかアニメっぽいデザインです。わきの下とか開きまくりです。袴というかミニスカートになっています。腰の後ろには帯がまるでリボンのように結ばれて垂れ下がっています。

「な、なんか露出おおいのですね?」

 これだけ脇が開いていると横からおっぱい見えちゃいそうです。激しくうごいたら、ぽろりしちゃいそうです。いやぽろりとこぼれるほどの胸は無いのですけれど……。

「ほほう。これはまたなかなか良い趣味をしておられますなー」

「うわ恋川さん」

 黙ってついてきていたのですね。ちょっと驚きました。

「ああ、あなたが振り付け担当の。穂乃香から話は聞いているよ」

 神野さんが小さくお辞儀をして、恋川さんがなぜかピースサインで返します。

「みくちゃんは小柄だから、こういった袖とかリボンとか、服装で動きを大きく見せるのはいい案だよー。装飾過多なのに要所要所で露出が大きいところもまた良しですなー」

 恋川さん、よだれ垂れてます……。

「さっそく着て見せてくれないかなー。ほら脱ぐの手伝ったげるから」

「いやどさくさにまぎれてどこ触ってるんですかっ!」

「そうそう、これ下着も一緒になってるから、下には何もつけないで」

「は?」

 神野さん今なんとおっしゃいました?

「脇が開いているだろう? 和服でブラジャーの紐が見えるのはデザイン的に美しくないからね」

「え?」

「大丈夫、絆創膏を用意しておいたから。これを貼っておけばこすれても痛くないよ」

「いやいやいや。そういう問題じゃなくて」

 いやそういう問題なのでしょうか。

「一応、下の方に針金が入っていてちゃんとブラの役割は果たせるようになっているから安心して欲しい。それと、ぱんつはラインが出ないように専用の用意したからこれ穿いてね」

「ひ、ひもじゃないですかっ!」

 なぜか恋川さんが、神野さんと熱い握手を交わしました。

「よし、あたしが穿かせてあげようっ!」

「いや、やめてくださいコイカワさん」

「ここ更衣室とかないからそこの影で着替えちゃって」

 カーテンを指差す神野さん。

 そのとき、ぽろん、と講堂の方からピアノの音が響いてきました。

 音あわせが始まったようです。




 恋川さんを控え室から締め出して、しっかりと中からカギをかけました。

 普通の服と構造が違うので着方がわからず、神野さんに手伝ってもらって衣装を身につけました。恥ずかしいながらも、神野さんには昨日すみずみまで見られてしまったのであきらめの境地です。

 恋川さんと違ってそれほど身の危険を感じない分、神野さんはまだマシなのでしょう。こんな露出過多な布切れをわたしに着せて喜んでるところは同類なのかもしれませんが。

「あれ……?」

「どうしたのかな。どこか違和感でもあったかい?」

「意外に、しっかりしているのですね」

 びっくりです。脇とかがら空きなのに、どこでどういう構造になっているものやら不思議とからだにぴったりフィットしているのです。

 ぶんぶんとうでをふりまわしてみます。

 ぴょんぴょんと跳ねてみます。

 腰をひねってみても、ぽろりしそうにありません。

「かわいくて、動きやすいのを、とリクエストされたからね。洋裁部の全ての技術を結集して完璧にしあげたよ」

 腰のリボンの位置を直しながら、神野さんがいろんな方向からわたしを見つめます。

 いやしかし、いったいどこのどんな技術を使ったらこんな衣装をつくれるのでしょう。

 洋裁部恐るべしです。

「うん、いいかんじだね。微調整するから、ちょっと両手を水平に伸ばしてまっすぐ立ってもらえるかな?」

 言われたとおりにすると、神野さんは脇の紐をちょっと絞ってくれて、それからちょっと離れた所に立ってデジカメを構えました。

「何枚か写真を撮らせてもらうよ? うちの部の連中にみせてあげたいんだ」

「了解なのです」

 前後左右から何枚か写真をとると、神野さんは満足げに頷いてわたしに撮った画像を見せてくれました。

「おー」

 自分で言うのもなんですが、意外にいけてる気がしました。

 ……アイドルというよりはアニメのコスプレっぽい感じはしましたが。

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