表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みくみく!  作者: 三毛猫
5/6

「だ・め・で・す・わ」

 翌日の放課後、部室に行くと知らない女の子がいました。穂乃香ほのかさんが昨日最後に電話で話していた恋川こいかわさんという方でしょうか。とても背が高い人で、なんだかモデルさんみたいな感じです。きりりとしています。

「こんにちわです」って声をかけながら部室に入ったら、いきなりその背の高い人がわたしの方に駆け寄ってきて、ぎゅうとわたしに抱きついてきました。

「穂乃香、これもって帰っていい? いいでしょ?」

「だめですわ」

「じゃ、じゃあ、レンタルでいい! 一週間でいいから!」

「だめです」

「く、くぅ。じゃ、じゃあ、せめて……」

「だ・め・で・す・わ」

 ……どうでもいいですから、はやく離してほしい、です。い、息ができま……せ。

「みくを離せ!」

 窒息寸前で、真魚まなちゃんが魔の手から救い出してくれました。

「ぷはっ! ま、真魚ちゃん、ありがとで……」

「これ、あたしの! もっていっちゃだめ~っ!」

 いえ真魚ちゃん、あなたのものになった覚えもないのですけれど……。

「まぁまぁ、大人気ですわね? みくちゃん」

 穂乃香さんが胸の前で両手を合わせてにこにこと微笑みました。

「女の子にモテても、あんまり嬉しくないです」

「あらあら、まぁまぁ」

 穂乃香さんがまばたきをぱちぱちとして、それから小さく微笑みました。

「それは、男の子になら取り合いをされてみたいということかしら。……みくちゃんは、えっちですわね?」

「……えっちですか。この際えっちでいいので、このひとなんとかしてください」

 両手をわきわきとさせながら、じりじりとわたしの方に近づいてくる謎の女の子の方を指差すと、穂乃香さんが「しかたありませんわね」と胸の前で両手を合わせました。

「恋川さん、報酬に関しては昨日ちゃんとお渡ししたはずですわ。それ以上を求めるのでしたら、契約破棄ということになりますわよ?」

 ああ、やっぱりこの方が恋川さんなのですね。報酬とか契約という言葉がちょっと引っかかりますが。

「……しかたないな。うん、今は自制することにする」

 恋川さんが、ひとつため息を吐いて、両手のわきわきをやめました。

「では、落ち着いたところで講堂に参りましょう」

「え、穂乃香さん、講堂で何をするのでしょう?」

「あらあら。みくちゃんの動画を撮るに決まっていますでしょう? もう、他の方は先に向かっているはずですの。急ぎましょう」

 穂乃香さんが先頭に立って、どんどん歩いていきます。

 その後ろをわたしと真魚ちゃんが並んでついて行ったのですが、どうにもわたしたちの後からついて来る恋川さんの視線が気になってしょうがありません。

「あの、恋川、さん?」

「……なにかなー?」

「どうして、わたしのおしりばっかり見てるんですか?」

「昨日、穂乃香からビデオは見せてもらったけど、やっぱり目の前で動いてるのを見ると違うね……。うん、実にいい……」

「だからなんでわたしのおしりばっかり見るんですかっ?!」

 わたしは思わず、両手で自分のおしりを押さえました。

「そんなふうに、かわいいおしりをふりふりしながら歩くキミがいけない。わたしが男だったら今すぐそこらの空き教室に連れ込んで……。おっと、この先はお子様にはちょっと言えないかなー、うふふ……」

 恋川さんが頬を染めて微笑んだので、わたしは無言で壁に寄りました。

 ……だめだこの人。早く何とかしないと。

「わたしの前を歩いてください。オネガイシマス」

「えー?」

「えー、じゃなくて!」

 頬をふくらませて言うと、しぶしぶという感じではありましたが恋川さんが前に出ました。

「……しょうがないなー。んじゃ、あたしのおしりを見なさい」

「見ません」

「そう言わずに。キミならあたしを、後ろから襲ってもいいから」

「襲いません」

「ざんねんー」

 小さく笑って、恋川さんは穂乃香さんの隣に並んで歩き始めました。

 見なさいと言われてもまったく見る気はなかったのですが、流石に前を歩いている以上は嫌でも恋川さんの姿が目に入ります。

 何歩もあるかないうちに、おや、っと思いました。

 恋川さんの歩き方が妙に様になっているのです。

「……」

 別にモデル歩きというか、特別な歩き方をしているわけでもないのに、身体の軸がまったくぶれないその動きはどこか武道の達人の姿を思わせます。

 なんというか、隙がまったくないのです。後ろから襲っていいと言われましたけれど、ほんとにわたしが襲い掛かったとしても、かわされて逆に押さえ込まれそうな気がします。

 えっと、恋川さんってたしか、創作ダンス部でしたっけ? 昨日、穂乃香さんが電話でそう言っていた気がしますけれど、いったいナニモノなんでしょうこの方。

「どうだい、あたしのおしりは気に入ったかな?」

 前を向いたまま、恋川さんがくるんと腰をまわしました。

「……不本意ながら、とてもステキだと思ってしまいました」

「よーく見ておきなさい。見ただけで身につくものじゃないけどね」

 くるんくるんと楽しげに恋川さんが二回腰を回しました。

 なんとなく、わたしも真似して歩きながらくるんと腰をまわしてみました。

「ひゃうっ」

 ……バランスを崩して転びそうになって、真魚ちゃんに抱きとめられました。

 ううう、恥ずかしいです……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ