「ねぇ、ゆうちゃん。おねえちゃんがアイドルになったらどうする?」
おうちに帰ってシャワーを浴びて、すみずみまでしっかりと磨き上げました。玉のお肌なのです。ぴちぴちなのです。
湯上りにバスタオル一枚で腰に手を当てて牛乳を飲んでいると、妹がやってきて、隣に並んで同じように牛乳をごくごくと飲み始めました。
「ぷはー」
「ぷはー」
わたしが息を吐くと、妹もまねしてぷはーと息を吐きます。
「まねするなー」とわたし。
「まねするなー」と妹。
おねえちゃんをまねしたい年頃なのでしょうか。少々歳が離れた妹の優は、わたしが言うのもなんですが年齢のわりに子供っぽいところがあって、ときどき無性になでなでしたくなります。ぎゅーっと抱きしめたくなります。かわいーのです。
「いもうと、げっとだぜーっ!」って叫んで抱きついて頭をなでなでしたら、妹は「おねーちゃん、げっとだっ、ぜー!」って言って、きゅ、って抱きつき返してきました。
ああもう、かわいすぎます。
「ねぇ、ゆうちゃん。おねえちゃんがアイドルになったらどうする?」
抱きしめてなでなでしながら尋ねたら、妹はぷはっとわたしの胸から顔をあげました。
「……おねえちゃんはかわいいけど、いっぱんうけしないとおもう」
顔をふるふると、わたしの胸に押し付けてきます。
「おっぱいぺったんだし、背もちっこいし。なんか、オタクっぽい人たちにへんなにんき出そうでイヤかも?」
「おねえちゃん、アイドルに向いてないと思う?」
わたしの問いに、妹はわたしの胸に顔をうずめたまま、ふるふると首を左右に振って答えました。
「おねえちゃん、いもうとのあたしがいうのもなんだけど、なでなでしたくなるくらいかわいいもん」
言いながらちっちゃな手を伸ばしてきたので、頭の上にのせて上げると「なでなで」と口で言いながら頭をなでてくれました。
なんだか今日はなりゆきに任せたまま、ただ呆然と、なんとなく流されただけのような気がしていましたが、妹のおかげでなんだかやる気が出てきました。
「よし、ゆうちゃん。一緒に歌お!」
「うん。うたおー!」
テレビのリモコンをマイク代わりにして、二人で「にゃんころもちのうた」を熱唱していたら、帰って来たお父さんが「そんな格好で何をやってるんだ」と呆れた顔でつぶやきました。
「かわいい?」
リモコンマイク片手に、お父さんに向かってにゃんこのポーズをとったら頭に拳骨が落ちてきました。いたいです。
「お前も高校生なんだから、もうすこし慎みというものを覚えない」
「……はーい」
さすがにバスタオル一枚で歌って踊るのは、家の中とはいえ、ちょっとはしたなかったかなと思います。ごめんなさいお父さん。
お父さんは、拳骨の後にはやさしくなでなでしてくれました。
「いつまでも無邪気でかわいいままでいて欲しいとは思うが。普段から、もう少し人の目を意識するようにしなさい」
「は~い。気をつけます」
今日は穂乃香さんにも下着みせちゃいけません、って怒られちゃったし。気をつけないといけません。
着替えてくるね、と自分の部屋に行こうとしたら、妹がバスタオルの端っこを握っていたので、はらりとバスタオルが解けて。一糸まとわぬ、すっぽんぽんをお父さんの目の前にさらしてしまいました。
「……あ」固まるわたし。
「あー」まねする妹。
「……」無言のお父さん。
お父さんはわたしを一瞥して、それからテーブルの上に置きっぱなしになっていた牛乳パックから牛乳をコップに注いで、飲めとばかりにわたしに差し出してきました。
「……お父さんの、ばかぁ~っ!」
はだかのまま、自分の部屋に駆け込みました。
ちゃんと牛乳、飲んでるもん。大きくなったら、きっと、もう少し大きくなるんだもん。
……身長が十歳くらいからほとんど伸びてないことは、考えないことにしました。