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みくみく!  作者: 三毛猫
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「振り付けは音楽を聞いてからですわね」

 穂乃香ほのかさんの前で、カメラに下着が映らないように飛んだりはねたりの練習をしていると、

「邪魔するよ~」

と言いながら誰かが部室に入ってきました。

安住あずみさん、お待ちしていました」

 穂乃香さんがやって来た女の子を笑顔で迎えます。

「振り付けは音楽を聞いてからですわね」

 穂乃香さんが、わたしの方を向いて手招きしたので踊るのをやめました。

 くるくるまわりすぎて、ちょっとふらふらします。

 真魚まなちゃんがわたしの頭にばさりと、タオルをかぶせてくれて、そのときはじめてたっぷりと汗をかいていたことに気がつきました。意外にいい運動をしてしまったようです。

「曲くれってことだったけど、何すんの、穂乃香?」

 安住さんが、ポケットから携帯型の音楽プレーヤーを取り出しながら穂乃香さんに尋ねました。

「みくちゃんを、アイドルにしようと思いますの」

 穂乃香さんが、右手をわたしの方に向けながら、ニヤリといった感じで微笑みます。

「安住さんの曲に歌詞をつけて、この子に歌ってもらいます」

「ほー」

 安住さんが、わたしの顔をじろじろと見つめました。

「具体的には、某動画サイトに投稿しようと思っていますの。協力してくださる?」

 穂乃香さんが胸の前で手を合わせて微笑むと、安住さんは右手の親指をぐっと突き出して

「おっけーい」

と言ってひとつうなずきました。なんだかいい笑顔です。

「んじゃ、声を聞かせてくれるかな? アの音で、ドレミの音階」

 安住さんが両手の人差し指をわたしに向けて、指揮をするように軽く指を動かしました。

 なんだか恥ずかしいですね。

「あーあーあー」

「次、もう一度最初から、今度は高いドまで!」

「あーあーあーあーあーあーあーア~」

 むむ、最後音をはずしてしまいました。

「ふむ、素材は悪くない。が、手持ちの曲だと微妙に声質に合わないかな?」

 安住さんが、なにやら腕組みしながら首を傾げます。

「穂乃香、この曲をベースにして、この子に合わせてアレンジしようと思うんだが」

 安住さんが、イヤホンを片方、穂乃香さんに差し出しました。もう一方をわたしに差し出してきたので、左耳にあてます。

 静かなピアノの前奏が流れてきました。

 そこに突然、バイオリンが、どーんで、ぎゃぎゃーんで、わーおって感じになります。

 何を言っているのか自分でも良くわかりませんが、クラシックっぽい楽器のわりに、とってもポップで現代的です。

「気に入ってもらえたかな?」

 自然にリズムを取っていたわたしに気がついたらしく、安住さんが、ニヤリと微笑みました。

「ステキです!」

 素敵で無敵で、ノリノリで踊れそうです。

「ええ。でも、確かにみくちゃんに合わせる必要はありそうですわね? もう少しキーを上げた方がいいのではないかしら」

 穂乃香さんが、ちょっと首を斜めにしながら言いました。

「アレンジはまかせろ。録りは生音でやるだろ? ピアノはあたしがやるから、穂乃香はヴァイオリン頼む」

「了解しましたわ」

「じゃ、明日の放課後までには楽譜に落としとく。で、歌詞はどうすんの?」

 安住さんが穂乃香さんに尋ねると、穂乃香さんはにっこり微笑んでわたしを指差しました。

「歌詞は、歌う人が自分の言葉で綴らなければ、歌に魂がこもらないと思いますの」

「なんだ、そういうことなら、まず歌詞をよこせ。曲つくるよ」

「みくちゃん?」

 なんだか穂乃香さんが邪悪な笑みを浮かべました。

「……なんでしょう、穂乃香さん?」

「あの花柄模様のノート、お出しなさい」

「な、なんで知ってるんですか!?」

 わたしの乙女ノートの存在を、なぜ穂乃香さんが!?

 日記というか、日々思ったことなんかをちょこちょこと書いている、乙女の秘密ノートの存在は、絶対、誰にも、秘密なんですけれどっ!

「みく、部室でも時々広げてなんか書いてたじゃん」

 真魚ちゃんが、にしし、と笑いながら、わたしのカバンから乙女ノートを取り出しました。

 あわてるわたしをよそに、花柄の乙女ノートが安住さんの手に渡り、パラパラとめくられてしまいました。

「だめです。だめだめなのです! はずかしーので見ちゃだめなのです!」

 バタバタ両手を振って叫んでみたものの、穂乃香さんが人差し指をわたしの下唇に当てて、

「静かになさい、ね。みくちゃん」

と言ったので、口を閉じて無言で両手を振って抗議を続けました。

「……」

 ぶんぶん。

「ほー」

「……!」

 ぶんぶん。ぶんぶん。ちょっと疲れてきました。

「ふむ」

「……!!」

 ぶんぶん。ぶんぶん。ぶんぶん。

「なるほど」

 安住さんが、ノートから顔を上げてわたしの顔をちらりと見ました。

「悪くない。君は見た目も振る舞いも子供っぽいが、中身は意外にオトナなんだな」

「……」

 むむむ。そういう評価がくるとはちょっと想定外なのです。

「君の心を吐き出すにふさわしい曲を書いてやる。楽しみにしててよ」

 安住さんは、そういってわたしのノートを持ったまま部室を出て行ってしまいました。

「ええ、期待していますわ」

 穂乃香さんが小さく手を振って、安住さんを見送りました。



 安住さんが出て行ってしまうと、穂乃香さんはまた携帯電話を取り出してどこかへかけました。

「創作ダンス部の、恋川こいかわさんですわね。ちょっとお願いがありますの。ええ、終わってからでかまいませんから、こちらへ来ていただけませんか? はい、お待ちしております」

 電話を切ると、穂乃香さんはわたしと真魚ちゃんの方を向いて、

「今日のところは、これでおしまいですわね」

と言いました。

「今の電話の方を待たなくていいんですか?」

 わたしが尋ねると、穂乃香さんは胸の前で手を合わせて、

「安住さんが曲を作ってからじゃないと振り付けは難しいですから、今日はお願いだけするつもりですの。たぶん遅くなりますから、お二人は帰ってもいいですわよ」

と言いました。

 今日はたっぷり運動をしてしまいましたが、うちの部は運動部ではないのでシャワーとかもないし、早くおうちに帰ってさっぱりしたいと思いました。

「それじゃ、帰ります」

「おつかれっすー」

 わたしと真魚ちゃんは穂乃香さんに小さくお辞儀をして、部室を出ました。

 出る間際に、穂乃香さんがなんだかニヤリとしながら何かつぶやいたような気がしましたが、疲れていたのでたぶん気のせいだったんでしょう。というか聞こえなかったことにしました。

 みくちゃんには見せられませんものね……って聞こえた気がしましたけれど。


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