「さて、まずは音楽ですわね」
「さて、まずは音楽ですわね」
穂乃香さんが鞄から携帯電話を取り出しながら言いました。
左手で携帯を操作しながら、右手にはペンを持ってメモ帳になにやら書いています。
「室内楽部の安住さんですわね? 未発表のオリジナル曲があれば、一曲譲っていただけないかしら? ええ、ヴァイオリンとピアノの二重奏で結構です。ああ、現代音楽ではなくて、あなたが個人的に、趣味で作っているほうですわよ?」
ずいぶんとあっさり曲が決まってしまったようです。
わたしは何をすればいいのでしょう?
ぽーっと考えていると、穂乃香さんがまたどこか別のところへ電話をかけました。
「洋裁部の神野さんですわね? ちょっと作って頂きたいものがありますの。今すぐこちらへ来ていただけますか?」
相手の都合も聞かずに、来いとだけいう穂乃香さんはなかなか素敵です。
穂乃香さんが電話を切って二分もしないうちに、誰かがうちの部室に颯爽と飛び込んできました。
「穂乃香、何を作ればいい?」
おそらく先ほどの電話の相手の神野さんという方でしょう。
穂乃香さんは、わたしを指差して「この子に似合う、ステージ衣装を」とだけ言いました。
「ふむふむ」
神野さんは、わたしをじーっと見つめていましたが、いきなり手を伸ばしてわたしの胸に触れようとしてきたので、慌てて両手で胸をかばいました。
「あの、何を?」
わたしがおそるおそる尋ねると、神野さんは、
「下は腰まわりだけ調べればいいけれど、上は脱いでもらわないと採寸できない」
と言って、わたしの制服のスカーフを音もなく抜き取りました。
「え、え?」
「ほら、ばんざいして」
「えっと、脱がなきゃだめなんですか?」
無言でうなずく神野さん。
「制服じゃだめなんでしょうか?」
うちの学校の制服は、とてもかわいいいのです。このままでも良いと思うのですけれど。
助けを求めようと穂乃香さんを見つめましたが、穂乃香さんが小さく微笑んで、
「制服だと、学校に見つかったときに言い逃れできませんわよ?」
と言ったので観念することにしました。
……隅から隅まで採寸されてしまいました。っていうか、たぶん、わたしの一分の一フィギュアを作れるくらいに全身を測られてしまいました。もうお嫁にいけないかもしれません。
涙目で制服をもそもそと着直していると、なんだかすっきりとした笑顔で神野さんと穂乃香さんがヒソヒソとわたしの方を見ながらナイショ話をしていました。
何の話をしてるのでしょう?二人の方を見つめたら、ふと神野さんと目が合いました。
「君はどういう衣装で踊りたい?」
神野さんがわたしを見つめながら言いました。
わたしはちょっと考えて、
「かわいーのがいいです。でもって、思いっきり踊れるように動きやすいのをお願いします」
と答えました。
「明日の放課後には仕上げる」
神野さんはそう言って、穂乃香さんに向かってひとつうなずくと、来た時と同じように颯爽と部室を出て行きました。
神野さんが帰ったら、穂乃香さんが真魚ちゃんと二人でテーブルを部室の端のほうに寄せました。無言で促されて、出来たスペースにぽつんと一人で立ちます。
「さて、みくちゃんはどのくらい踊れるのかしら?」
穂乃香さんは何度か立ち位置を変えて、いくつもの方向からわたしを見つめました。
どうやら満足する角度と位置が決まったようで、鞄の中からデジタルのビデオカメラを取り出して構えました。なんでビデオカメラとか常備してるんでしょう……?
「では、軽く踊ってみてくださる?」
穂乃香さんに言われたので、とりあえず、ぴょんと跳ねてみたり、その場でくるくるまわってみたり、適当にフリをつけてポーズを取ってみます。
「だめよみくちゃん、下着を見せてはいけません!」
昨日見た動画のマネをして、片足を上げてくるりと一回転したところで穂乃香さんに怒られました。
「見えるかみえないか、ギリギリの感覚をしっかりと身につけて下さいね」
「チラリズムというやつなのですね」
わたしがなるほど、とうなずいていると
「みくちゃんが、見知らぬ男共の劣情の対象にされるのは我慢がなりませんの」
と穂乃香さんが言いました。
わたしのはいているお子様ぱんつを見てよからぬ妄想をするような人たちを想像して、頭の中で変態だーとつぶやきました。