「わたし、アイドルになろうと思います!」
「わたし、アイドルになろうと思います!」
部室のテーブルに両の手のひらをばん、と叩きつけて叫んだら、テーブルの上のケーキの皿と紅茶のカップが、一瞬、宙に浮いてカシャンと音を立てました。
思ったよりも大きな音がしたので、自分で机を叩いておきながらちょっとびっくりしていると、向かいに座っていた穂乃香さんが、わたしの顔を見て瞬きをぱちぱちとしてから、にっこりと微笑みました。
「みくちゃんは、今でもうちの部のアイドルですわよ?」
穂乃香さんはそう言って、手にした紅茶を音もなく一口すすりました。
「そうだねぇ。みくはちっちゃくてかわいいからねぇ」
わたしの隣に座っていた真魚ちゃんが、座ったままわたしの頭をなでなでするので、なんだか気持ちよくなってしまって、しばらくぽーっとしてしまいました。
たっぷり三分半もなでられてから我に返りました。
「そうじゃないのです!」
ぷるぷると首を左右に振って真魚ちゃんのおててを振り払ったら、真魚ちゃんがちょっと悲しそうな顔になったので、しょうがないので自分でもういちど真魚ちゃんの手をわたしの頭の上にのせました。
「みくがいると和むねぇ」
わたしの頭をなでながら真魚ちゃんが言いました。
「そうですわね」
穂乃香さんがまた手にした紅茶を音もなく一口すすります。
「それで、みくちゃんは、今度は何に影響されてしまったのかしら?」
穂乃香さんが紅茶のカップをソーサーの上において、胸の前で両手を合わせてちょっと首をかしげながら言いました。
「ネット上に、わたしと同じ名前のアイドルがいるらしいのです」
「あら、初音ミクのことかしら?」
「なんだか人気あるらしいので、わたしも歌って踊るのです!」
「本家みくみくー」
「あらあら、歌ってみた系の動画でも見たのかしら」
実はその通りなのです。
てへへと照れ笑いをしたら、穂乃香さんは小さくうなずいて、
「それでは、今日の部活動は、みくちゃんのアイドルデビューをプロデュースすることにいたしましょう」
と言って、胸の前で両手を合わせてにっこり微笑みました。
うちの部って、いつも紅茶とケーキでお茶会をしているだけだったのですけれど、たまに穂乃香さんの思いつきで変わったことをすることがあります。
「穂乃香さん、前から気になっていたんですけれど、うちって何部なんですか?」
穂乃香さんに尋ねると、穂乃香さんが、なんだかニヤリといった感じでわたしを見つめて微
笑みました。
「あらあら、みくちゃんは知らずに部活動に参加していたのかしら?」
「真魚ちゃんに、毎日お茶できる部があるって誘われて入ったのです」
「うちは、社交ソロリティのようなものですけれど、強いて言うなら有閑倶楽部かしら」
一条ゆかり先生の有名な少女マンガが頭に浮かびました。
……なんだか、とても不安になりました。