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act.2







     †



誰かに揺さぶられ、京輔は目を覚ました。

目を開けると、自分の寝室ではない見慣れぬ景色が広がっていた。

和室。京輔の住んでいるマンションには存在していないはずの部屋だった。

いや、そもそも誰かに起こされる、なんてこともあり得ない。

家族は誰もいないのだから。

「お早うございます。布団を片付けたいので早く起きてくれませんか?」

ぼうっと天井を眺めながら霧のかかった頭を働かせていると、上から声が聞こえた。


「あ―――、冴」

しばらく声の主を見上げた後、京輔は思い出したように声を上げた。

「さ、早くして下さい」

布団の端を握って急かす冴。

何故冴がいるのだろうか。

その前にここはどこなのか。

何故こんな場所で寝ていたのだろうか。

―そして自分は誰なのだろうか。

京輔の朦朧とする頭では思い出そうとしても、中々出てこない。ただ、目の前で自分の布団を剥ぎ取る女性が、冴であることだけは分かっていた。

「あー…えっと…」

以前にも冴にこうして起こされていた気がする。

ずっとずっと遥かな昔に、同じようにこんな和室で。

冴に―。

殆どデジャビュに近い、曖昧で根拠の無い記憶。

単なる思い込みかもしれない。

そう結論を出した京輔。

働かぬ頭のことはしばらく無視して、黙ってすばしこく動く冴を見ていた。

余程慣れているのだろう。軽やかに動き回り寝具を片付けていく。

無駄の無いその運動は一種の舞のようだった。

「少し待っていて下さい。今朝食を持ってきますから」

てきぱきと布団を片付けてしまった冴は、すぐに部屋を出ていく。

「待ってる」

またデジャビュ。頭の奥、中枢の更に根幹の部分で感じた。


何度も往復して朝食の用意をする冴。

京輔の目の前には膳が置かれた。その上には模範的とも定番ともいえる朝食が並びたてらている。

味噌汁、アジの開き、漬物、納豆、海苔、それと白米。久しぶりの和の朝食のフルコースだった。

それだけで京輔は嬉しくなる。

「いただきます」

感謝の念を存分に込めて手を合わせた。


「ところで、俺は昨日どうなったんだ?」

出されたものを全て平らげた後、京輔は尋ねた。

もう京輔の頭もはっきりしている。

昨日のことも質問以外のことは殆ど思い出していた。

「関ヶ原の毒気に当てられて気絶してしまいました」

情けない、と言わんばかりにため息を吐く冴。

「仕方ないだろ。あんな変な槍なんて手に取ったこともなかったんだから」

濡れたように真っ黒な槍。生きているかのように鼓動が鳴る槍。

京輔にとってはとにかく不気味なモノだった。

「変ですか?関ヶ原は美しい槍です。ただ、想いが凝縮されているだけです」

「想い?」

「怨みです、約三百年分の。でなければあんなに禍禍しい、それこそ美しいくらいに禍禍しい武器にはなりません」

冴はさも当然のことであるかのように平然と言い放った。

「……俺は本当に関ヶ原を扱わなきゃいかないのか?」

出来ることなら、もう二度と触れたくはなかった。

自分が自分でなくなるような気がしたのだ。

手に取ると現れる、自分を喰らおとしているのかと思うほど押し寄せる情報の群れ。

そして爆発的に上昇する脳を焼くような熱。

昨日の京輔はそれらに押し潰されてしまったのだった。

「ですが、関ヶ原でなければ吉継様が勝ち抜くことは出来ないでしょう」

京輔の不安をまるで無視するように、断言する冴。

その瞳は真っ直ぐに京輔を見つめていた。

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