リゼ4
輿入れ一行を見送ったリゼたちは王女宮へと踵を返した。
共にライナスを支えてきた仲間が隣国へと旅立った。
「さみしくなってしまったわね」
隣を歩くアンジーの呟きに、リゼは小さく息を吐いた。
「私も驚きました。最初にお話があった時はすぐに断っておられましたのに……」
部屋付きの先輩であったサーシャは、家業があるからとライナスからの打診をその場で断った。
しかしその後リゼがライナスに返答をした際、サーシャが突然「やはり同行させてほしい」と言い出したのだ。
みな何も訊ねなかったが、彼女の表情は固く、不本意な何らかの事態が起こったことを察した。
彼女が出国を決断した理由は想像すらつかないけれど、新天地で過ごす時間がサーシャの心を癒してくれるようにとリゼは祈った。
しんみりと歩いていると、後ろからリゼを呼ぶ声がする。
「おうい、リゼー。見つかって良かった。王女宮に戻る前に少し来てもらいたいんだ」
器用に人波を追い抜き、こちらへやって来たのはロランツだった。
ロランツはリゼの隣のアンジーにも声を掛ける。
「やあアンジーさん。いつもリゼがお世話になってありがとう。この度は突然のことで本当に驚いたよ。君たちはサーシャから何か聞いていたのかい?」
「いいえ、私たちも何も知らなくて。ローラさんなら理由を知っているかもしれません」
「そうだねえ。奥さんが帰宅したら聞いてみるけれど、いつになることやら。それはともかく、今から少しばかりリゼを借りても良いかい?」
「ええどうぞ。じゃあリゼさん、私は先に戻っているわね」
アンジーと別れ、ロランツと共に人波を逆方向へと進む。
「おじ様もいらしていたのですね。サーシャさんには会えましたか?」
「うん、大きな声で呼んだらこちらを見てくれたよ。笑っていて安心した。四ヶ月ほど前のリゼみたいだったらどうしようかと思ったよ」
「その頃のこと、おじ様は気づいていらしたのですか……?」
「当然だろう? 僕は君の後見人だよ。大事なお嬢さんを子爵からお預かりしているんだ。君の良い笑顔が最近やっと戻ってきたと思っていたら、まさか今度はサーシャがとはね」
業務や日常に支障をきたさないよう、いつもどおりを心がけていたつもりだった。
リゼは途端に恥ずかしさを覚えて俯いた。
「ああ、大丈夫だよ。君はうまく隠していたからきっと周囲は気づいていない。ギルベルトは隠しきれていなかったけどね。君たちは想い合っているんだろう?なのにどうして離れないといけないのかねえ」
拗ねた子どものようなロランツの表情に、リゼは思わず吹き出してしまう。
ずっと見守ってくれていた後見人に、リゼは別れの理由を話した。
自分が身の程知らずだった。
ギルベルトの政略結婚はリゼも覚悟していた。
誰のことも恨んでなどいない──と。
そして最後に小声で付け加えた。
「本当は、四男なんだから政略結婚じゃなくてもいいじゃないって、少しだけ思ってた」
「はははっ! リゼがそう思うのは当然だよ。ヴィンロード家はすでにじゅうぶん盤石だ。その本音、ぜひ本人に聞かせてやってくれ。
──おうい、ギルベルト。こんなところにいたのかい」
彼方を見つめ佇んでいた男が、ロランツの声に応じてゆっくりと振り返る。
その表情は寄る辺ない迷子のようだった。
──ああ、あなたはそんな表情もするのね
そう思ったのはほんの一瞬だった。
ギルベルトは駆け寄るやいなやリゼを掻き抱いた。
彼の表情は見えなくなってしまったが、いつまでも緩むことのない抱擁と震える腕に、ギルベルトの想いを痛いほどに知るのだった。
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