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食の記憶~食事は思い出と共に~

作者: 巻麸

「では、あなたが料理人を目指したきっかけを教えて下さい。」

職場を変えることの多い飲食業に身を置き、各地で何度も行った面接で必ず聞かれるこの台詞。

織部は、決まって少年時代の夕食に懐古するのであった。


日が暮れるのも早くなった、秋の夕暮れ時。

野球少年だった織部と1つ上の兄は、2人揃っていつも泥だらけで家に帰ってくるのだった。

廊下を砂まみれにして欲しくない母の注意も毎度の如く聞く耳を持たず、2人は帰ってくるなりいつもの問答を始めるのだった。


「今日はやさいいためかな!だって何も匂いしなかったよ!」

家の前を通る時に必ず換気扇から漂う匂いを頼りに夕食のおかずを当てるという遊びをする2人。

だが、兄の方が遥かに的中率がよかった。

弟のそんな推理に首を振った兄が続ける。

「いや、今日はハンバーグかな。だって……」

そう言った兄の視線を追って、弟も台所に視線をやる。

卓上には既に皿や一部の調味料が並べられており、その中には決まって必ず並ぶ【あの器】が置いてあるのだった。


母の怒声を無視し、弟はテーブルに一目散に向かい器の中を覗いた。


じゃがいも、きゅうりに玉ねぎ、人参、ハムも混ぜ込まれた、マヨネーズをふんだんに使ったポテトサラダ。

……の、隣に2つある、中身の同じ小さな小鉢。

その中には調理工程の途中で見るであろう状態の、マヨネーズを入れる前の具材たちが入っていた。


母の「風呂に入って」という注意を全く聞いていない2人だったが、まるで注意を受け入れたかのように一目散に風呂場へ向かうのであった。

そうこうしている間に父も帰宅し、待ちに待った夕食の時間となる。


父、母、2つ下の妹と食卓を囲む。

眼前には大好物のハンバーグ。

2人はいただきます、と共に決まって一目散に【マヨ抜きのポテトサラダ】にありつくのだった。

まだ温いじゃがいもと人参、塩もみされたきゅうりと玉ねぎ、ハムをまとめてほおばると、それぞれに感じる下味の微かな塩コショウと共にごろごろ、もこもことした食感が楽しい。

何故かこの薄味のポテトサラダがとてつもなく美味しいと感じる。

この各一人分の小さな器には、マヨ嫌いの息子達への最大限の母の愛が詰まっているのだった。


成人を迎え家を出た今では兄弟共にマヨネーズは克服しており、ポテトサラダも難なく食べる事が出来るのだが、帰省した際には決まってハンバーグと共に【マヨ抜きのポテトサラダ】が並ぶ。

大人になった今でも、この品の前ではあの頃に戻れるのだった。

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