想起②
次の日の放課後
生徒会室にて
黒雲「時間だね。それじゃあ、今日の仕事について説明するよ。」
私はそう言って生徒会活動を始めようとする。
彩姫「でも時雨来てないよ?」
黒雲「雨ちゃんはまあちょっとしたら来るでしょ。」
雨ちゃんはまだ来ていなかった。きっと、テストも近いから勉強しすぎているのかもしれない。
彩姫「確かにそうだね。」
黒雲「それで今回の仕事内容は、次の係会の内容確認だね。各自自分の担当している係の係長が提出したシナリオを読んで確認して練習したり、少し手を加えたりしてね。」
透真「りょうかい。」
弥一「まだ係長が提出してないんだけど。」
黒雲「それは弥一の方から係長か副係長に言って。」
弥一「わかった。行ってくる。」
そうして弥一が生徒会室から出ようとする。
黒雲「それなら、途中で雨ちゃん見つけたら呼んどいて。」
弥一「わかった。」
俺はそう言って生徒会室を出た。
弥一(確か係長は4組のはずだから、教室に行ってみるか。)
そんなことを考えながら階段を登る。
弥一(時雨がいつも勉強してるのは図書室だから、階段を登った時点でほぼ確実に会えないな。)
時雨は真面目だ。真面目だからこそ生徒会活動に遅れるなんて勉強をしているとき位だ。そのため、図書室をスルーして上の階に上がっている時点で会える可能性は殆ど無い。そう、思っていた。
弥一「あっ、時雨!」
階段を登りきって左に曲がるとすぐ前に時雨がいた。
時雨「あ、弥一先輩、どうしてここまで?生徒会活動があるはずじゃ。」
弥一「その生徒会活動で来たんだよ。そう言ってる時雨の方こそなんで生徒会活動に来てないんだよ。」
時雨「えっと、その、用事があって。」
弥一「それならそうと伝言でいいから残しといてくれ。」
時雨「ごめんなさい。」
弥一「まあ良いけどさ。それでその用事はもう終わったのか?」
時雨「はい。」
弥一「それなら早く来いよ。みんな待ってたから。」
時雨「あ、えっと、ごめんなさい。」
弥一「そういう時はごめんなさいじゃなくて、」
時雨「わ、わかりました。」
弥一「じゃあな。」
時雨「は、はい。」
弥一(はぁ、久しぶりだったな、今のくだり。初めて会ったときもあんな感じだったな。)
俺は初めて出会った頃、俺等が生徒会になる前のことを思い出す。
黒雲「これが二度目の文化祭だね。」
弥一「ああ、そうだな。」
彩姫「今回の文化祭も成功するといいね。」
俺等が二年生となり、黒雲からしたら初めて出会った彩姫との仲もそれなりに深まって
二度目の文化祭を迎えた。
黒雲「ねえ、あれ。」
そうして黒雲が指を指した先には、一人の少女が校舎裏に小走りで駆け出すのが見えた。
弥一「ただの一年生じゃねえか。」
黒雲「なんか焦ってたよ。」
弥一「友達と追いかけっこしてたとかそんな平和な理由か、あったとしても喧嘩したとかなんかだろ。」
彩姫「まあでも追いかけてみるに越したことはないんじゃない?」
黒雲「そうだね。なにかあったら大変だし。」
そう言って二人はその少女の後ろを追いかけ始めた。
弥一「はぁ、二人共心配性だな。」
そう言いながら俺もついていく。
裏庭
少し離れたところから覗いてみると先程走っていた少女が座り込んだ状態で校舎に寄りかかっていた。
「………」
黒雲「どうする?あの子。」
小さな声で黒雲は訪ねてきた。
彩姫「大人数で向かうのはあんまりよくなさそうでしょ。」
弥一「話しかけないのは?」
黒雲「NO」
彩姫「違うでしょ。」
弥一「そっか。」
盛大に否定されてしまった。
黒雲「私が行ってくるよ。一人でね。」
彩姫「それが良いかも。」
弥一「まあ、頑張れよ。」
黒雲「ねえ、あなた。」
「………」
黒雲「一緒に、お話しない?」
「……私に、言ってますか?」
黒雲「そう、あなた。」
「ごめんなさい。ここにいるのはだめでしたか?」
黒雲「私はそんなこと言ってないよ。ただ、あなたとお話がしたいだけ。」
「そうでしたか。私と話がしたいって言った人は大抵、私のことを邪魔だと思っている人だったので、聞き間違いかと思ってしまいました。ごめんなさい。」
黒雲「別に気にしなくていいよ。」
「それなら一つ聞かせてください。」
黒雲「なーに?」
「なんで私に話しかけてくれたんですか?」
黒雲「あなたが一人ぼっちだったから。」
「別に気を使わなくても大丈夫です。一人には慣れてますから。」
黒雲「別に私は気を使ってないよ。私がしたいからそうしてるだけ。あなたに話しかけたのもね。」
「そうだったんですね。あなたの優しい行動に裏がありそうで疑ってしまいました。ごめんなさい。」
黒雲「うーん、そうだね。あなたが私に謝りたいって気持ちがあるなら、私と友達になってほしいな。」
「良いんでしょうか?私なんかが友達になっても。」
黒雲「別に大丈夫だよ。むしろ、あなただから私は友達になりたいって思ったんだよ。」
「そう、ですか。」
黒雲「それで、友達としてお願いしたいことがあるの。」
「私にできることだったらなんでもやりますよ。」
黒雲「二つあるんだけど、」
「なんでしょう。」
黒雲「まずはあなたのお名前を教えて?」
「私の名前は、暁月時雨です。」
黒雲「私の名前は月影黒雲。よろしくね。」
時雨「はい。よろしくお願いします。」
黒雲「そしてあなたのその口調、絶対とは言わないけど友達ならもっと柔らかくしない?」
時雨「頑張ってはみますが、慣れでできないこともあるかもしれません。」
黒雲「その感じだと結構慣れるのに時間かかりそうだね。」
弥一「あいつは何とかなったっぽいな。」
彩姫「にしてもめちゃくちゃ謝ってたし、黒雲はそれに慌ててたし、やっぱりなんか事情がありそうだったよね。」
弥一「まああいつなら何とかできるだろ。」
彩姫「それもそうだね。それじゃあ私たちもしばらくしたら合流しよっか。」
弥一「ああ。」
弥一(あの頃はなんかあったらすぐに謝ってきて、申し訳なさがすごかったもんな。それに比べたら今は大分落ち着いてきたけど、さっきの時雨、あの頃に近かった気がするな。)
俺はそんなことを考えながら廊下を進む。すると、前から最近話題の人物が歩いてきた。
美羽「あっ、璃陽先輩。」
弥一「えーっと、編入生の綾瀬さんだっけ?」
美羽「はい。編入生の綾瀬美羽です。」
俺は透真に言われて調べた内容のことを思い浮かべる。
弥一(時雨と綾瀬さんは同じ中学校の出身だったのか。まあ、面識があるならそれが一番ありそうな線だったしな。そして中学校が同じだった、あいつらと同学年の生徒たちからの印象として挙げられてたのは、仲のいい友達。よくある関係だな。でも透真の話がやっぱり気になるな。)
弥一「それで綾瀬さんはどうして俺に声をかけたんだい?」
美羽「えっと、透真君の連絡先が知りたくて、同じ生徒会の璃陽先輩なら何か知ってるんじゃないかなと思って。」
弥一「まあ確かに連絡先は知ってるぞ。ただ、俺から勝手に伝えることはできないから自分で聞きに行ってくれ。」
美羽「そうですか。わかりました。迷惑をかけてしまってごめんなさい。」
弥一「別に構わないぞ。まあ、そういうことで。」
俺は綾瀬さんとの会話を切り上げて再び歩き始める。
弥一(今の感じだけだと、透真の話よりも俺が調べた内容の方が正しそうに感じるな。)
弥一「あっ、係長、そんなところに!」
俺は探していた係長を発見した。
係長「やべっ、バレた。にーげろー。」
弥一「校舎を走るなー!」
そんな他愛ない会話をしながら過ぎる日常を感じていた。