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再会と想起

私、暁月時雨は趣味の読書をしながら朝のホームルーム開始を待っていた。教室はいつも通り少し騒がしくて、それが日常となっている。


時雨(ふふ、今日の昼休みは生徒会の仕事もないし、図書室に行ってこれの続きを借りよう。)


透真「おはよう、時雨。」


時雨「あ、おはようございます、透真君。」


私は本から目を離して透真君に挨拶をする。

透真君は同じクラスだから一緒に話をすることがよくある。


時雨「ちゃんと勉強は続けていますか?」


透真「まあ、ぼちぼちな。」


時雨「続けるのは大切ですから、短い時間でもいいのでちゃんと続けてくださいよ。」


透真「ああ、ってもうホームルームの時間じゃん。」


透真君が時計を確認したと同時に教室に担任の先生が入ってくる。


先生「よーし、皆、席につけ。今日は朝のホームルームの前に話がある。」


その発言の瞬間、教室がざわつき始める。

怒られるのかもしれない、と不安になるもの。

なにか良いことがあるのではないかと期待をするもの。


先生「今日は皆に新しい仲間を紹介するぞ。」


「こんにちは。この学校に編入してきました。綾瀬美羽と言います。みんな、よろしくね。」


クラスメイト「かわいいー」


クラスメイト「どんな子なんだろう」


時雨(どうしよう、どうしようどうしよう。あの子だ。せっかくこの高校に来たのに。なんで、なんで!)


透真(時雨顔色悪くないか?さっき話してた時は普通だったのに。後で話しかけるか。)


先生「そうだなー、教室の後ろの方に空いてる席があるから綾瀬、そこに座ってくれ。」


美羽「はーい。」


その転校生、美羽が歩き始める。私は前の方の席だから、授業中は美羽と目を合わせることはない。それでもこの瞬間だけは目が合ってしまう。


美羽「久しぶりだね…時雨…」


時雨「お、お久しぶりです。」


どこか、含みを持たせた言い方で彼女は私に話しかけてくる。


先生「よーし綾瀬も席に着いたしいつも通りホームルームをするぞ。」


そうして、私の幸せな日常は崩れ去る。


数分後


先生「これで、ホームルームは終わりだ。それじゃあ皆、次の授業の準備をしておけよ。」


透真「時雨、顔色悪そうだけど、大丈夫か?」


時雨「う、うん。大丈夫だよ。」


透真「ならいいけど。」


透真君との会話を済ませ、美羽の方に目をやる。


クラスメイト「綾瀬ちゃんって、どこの高校から転校してきたの?」


美羽「細かく言うと転校じゃなくて編入なんだけど、それで私はすぐ近くにあるR高校から来たよ。」


クラスメイト「R高校?あそこからこっちって偏差値結構差あるよね?」


美羽「そうだよーR高校ってあんま偏差値高くないよね。実は私、中学の頃めっちゃ頭悪くてさ。家が近いからそのままR高校行ってたんだけど、いろいろあってこっちに編入してきたんだよ。」


クラスメイト「それなら勉強めっちゃ大変だったんだね。」


美羽「まあね。でもみんなとは違って中学校時代にあんま勉強してこなかったツケを払っただけだから。みんなと比べたら全然だよ。」


クラスメイト「ねえねえ綾瀬ちゃん、めっちゃ肌スベスベだったり髪ツヤツヤだけど、何かしてるの?」


美羽「それはね、~~~」


美羽はよくある転校生への質問攻めに遭っていた。


透真「さっきあの綾瀬って人に声かけられてたけど知り合い?」


時雨「昔の、ですけどね。」


透真「ふーん。」


そうして時間は過ぎていく。


昼休み


美羽「ねえ時雨。」


時雨「なっ何ですか、いきなり?」


美羽「放課後暇?」


時雨「いつもは生徒会の仕事がありますけど、今日は無いですね。」


美羽「そっか~、なら放課後一緒に遊ばない?」


時雨「え、えっと、」


美羽「遊ばない?」


時雨「い、良いですよ。」




透真「あ、弥一先輩、ちょうどいいところに。」


弥一「どうしたんだ?」


透真「編入生の件なんだけど、」


弥一「ああ、お前と時雨のクラスに来たあの、綾瀬美羽とか言ったか。」


透真「そう、なんか時雨が知り合いっぽくて、」


弥一「それでどうかしたのか?」


透真「あんまり仲良さそうな雰囲気がないどころか、なんだかヤバげな感じがする。」


弥一「まじかよ。一応中学校の頃を少し先生に教えてもらえないか相談してみる。」


透真「そうしてもらえると心配事が減っていいな。」


弥一「まあ、プライベートに踏み込みすぎないようにしないといけないがな。」


透真「それはもちろんだよ。」


弥一「それはそうとちゃんと勉強はしてるか?」


透真「やってるよ。」


弥一「そうか、なら、またな。」


透真「ああ。」


放課後


美羽「しーぐーれ、遊ぼ。」


時雨「は、はい。でもどこに行くんですか?」


美羽「カラオケ行こ、カラオケ。」


時雨「わ、わかりました。」


そうして私は美羽と一緒に校門から学校の外に出てカラオケへと向かう。


弥一「あれ?時雨と件の編入生、並んで帰ってるな。透真の勘違いか?」




美羽「ねえねえここ、私の行きつけなんだ。」


時雨「そうだったんですね。」


美羽「なに、声暗いじゃん。もしかして、嫌だった?そんなことないよね?」


時雨「は、はい。もちろんうれしいに決まってるじゃないですか。」


美羽「だよね。」


そうして私は美羽と、繁華街にあるカラオケに入る。


美羽「それじゃあ、歌うね。」


2時間後


美羽「いやー、楽しかった。ね、時雨?」


時雨「はい、楽しかった、です。美羽が歌ってるのも聞けて。」


美羽「やっぱりそうだよね!」


時雨「はい。」


美羽「それじゃあ、解散で。」


時雨「わかりました。」


そうして私は美羽と別れ、家へと帰る。


数十分後


時雨「ただいまー」


家には誰もいない。きっとお母さんは今も働いているのだろう。


時雨「今日の晩御飯はーっと。」


そう言って私は机の上に準備されていたお弁当を見る。


時雨「のり弁か。」


そんないつも通りの行動を取りながら自分の部屋へと向かう。


時雨「何も、何も変わらなかったらいいな。」


ベッドの上に寝転がりながらそんなことを呟く。それと同時に私の思考は闇に落ちていく。


美羽「ねえねえ、こいつ、いっつもしゃべんないよね。」


美羽の取り巻き「そうだよね、何考えてるかもわかんないし、ぶっきみー」


美羽「こいつ、しゃべれないんじゃない?」


美羽の取り巻き「まっさかー、化け物じゃあるまいし。」


美羽「でも、しゃべんない限りはわかんないよ?ほら、しゃべってみて。」


時雨「………」


美羽「ほら、やっぱり化け物なんだよ。」


美羽の取り巻き「それなら、人間が集まるこんな場所になんで紛れ込んでるの?化・け・物?」


時雨「………」


ちょっとしたいじり、そんなことから始まった。

それは徐々にエスカレートしていった。

そのいじりが罵倒へと変化して

「なんで来てんの?」

「帰れよ化け物」

「化け物なんていなくなればいい」


「死ねよ」


ある時は校舎裏に呼び出され

ドカッ、バシッ

ストレス発散のおもちゃとして美羽たち殴られ、

ある時は遊びに誘われ、

何も体験することもなく全て自分がお金を払い、

そんな日々が過ぎていく。

私は別に何も感じなかった。

当時の私にとって人から殴られるのも自分の何かが奪われてしまうことも、酷いことを言われることも、

当然のことで私が「暁月時雨」だからされているのだと思った。


そんな記憶が私の中をめぐる。


ガバッ


私は目を覚まし、時計に目を向けた。時計の短針は1時を指していて、私が家に帰ってきてからおよそ7時間が経過していた。


時雨「この夢、久しぶりに見た。」


小学校高学年のころから美羽から受けていたいじめ、それが一気に景色として流れてくる夢。

一回のいじめを切り取って見ることもあるが、今回は一気に流れていった。


時雨「久しぶりに会ったからかな。」


昔は毎日のように見ていたが、徐々に頻度は減っていって最近はほとんど見ていなかった。

それなのに今日、再びこの夢を見た。


時雨「にしても、お腹空いたな。晩御飯たべよ。」


そうして、いつも通りの時間を少し過ごして明日の学校の準備をする。

日常が少し変化し始めたが、結局日常の範疇なので気にしないことにしようと決めて再びベッドに潜る。

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