プロローグ
呟きとペンの音だけが響く生徒会室にて、3人の生徒が仕事をこなしていた。
一人の少女は資料に埋もれ文句を述べながらも仕事をしていた。
一人の少女はその隣で高速で資料を処理していた。
一人の青年は資料の運搬などの雑務をしていた。
「いやだー働きたくないよー。」
誰もが持っている感情をわざわざ吐き出しているのは月影黒雲。働きたくないけど生徒会長になって、仕事に追われながらぶつぶつと文句を言う哀れな3年生だ。ちなみに私である。
「あきらめて仕事をしなさい会長。」
黒雲「なんでこんなに働かないといけないんだよー。」
「生徒会長なのにごねるんですか。そんなこと言っても何も変わりませんよ。」
私の叫びを容赦ない正論で返しながら私の隣で高速で仕事を処理しているのは月乃彩姫。まじめな3年副会長である。
黒雲「でもさーこんな量はさすがにひどいと思うんだよ。」
「そもそも、あんたが生徒会選挙で言った内容が原因だろ。」
そういって彩姫に同調しながら資料を運んだり前回の話し合いの内容を確認したりするのが璃陽弥一。私の幼馴染で笑顔で容赦なく私に現実を押し付けてくる鬼畜な3年生書記だ。
黒雲「これなら生徒会なんてなるんじゃなかった。」
弥一「俺はなんだかんだ生徒会好きだけどな。」
彩姫「そんなこと言うなら黒雲はそもそもなんで生徒会長になんかなったの?」
黒雲「だって~生徒会長になればめんどくさい校則をなくせると思ったから~」
弥一「でもあんたがやりたかった校則撤廃は何一つできなかったと。」
彩姫「それに生徒会選挙で言った内容を実現させるために仕事量がさらに増えていると。」
生徒会選挙で私が言ったこと、それは
黒雲「私が生徒会長になった暁には全生徒の要望を集め、一人一人の要望に対し校則を変えたり、代替案を提案したり、できない場合にはその理由を説明したりすることで全員が納得できる学校づくりを行います。」
だ。そんなことを言ったせいで、毎日おんなじような質問が来るし、その内容もゲームの持ち込みや授業をサボれるような要因の設定など、学校としての機能を壊すようなものばかりで、いくら何でも通すようなことができないものばかりだ。
彩姫「それでもちゃんと言ったとおりの仕事はしてるのよね。常時活動はしないけど。」
黒雲「しょうがないじゃん。言っちゃったんだから。」
弥一「約束はちゃんと守るんだな。」
黒雲「おばあちゃんから約束と友達と法律はちゃんと守りなさいって言われてたから、やっぱり」
ガラガラー
「よっ」
生徒会室の扉を勢い良く開けながら、一人の青年が入ってくる。
黒雲「びっくりした~」
「よっすー。まだ仕事終わってない感じ?」
彩姫「透真、集合時間過ぎてる。」
「悪い悪い。」
この遅刻してきて人を待たせていたくせに反省の色がないやつは2年生の影縫透真。なんだかんだ良い奴だが正直不真面目な奴でため口で私たちに敬意がない。私と同じく何で生徒会に入ったのかわからないやつだ。
彩姫「時間はきちんと守るようにね。」
透真「はい。」
弥一「後は時雨だけだな。」
透真「それなら仕事は何が残ってる?早く帰って遊びたいんだけど、」
弥一「後は黒雲のお悩み相談だけだな。」
透真「じゃあもう帰っていいか?時雨にもそう伝えるけど。」
確かに資料を処理するのは私と彩姫だし、弥一の仕事もあんまり多くないから透真の仕事は何も残っていなさそうに見える。だからといって帰っていいとは限らないと思うけど。
弥一「だめだ。」
透真「なんで?」
弥一「夏休みの過ごし方に関するプリント製作がある。」
透真「でもさっきお悩み相談だけって、」
弥一「時雨が来たら始めるから、まだ手を付けてないんだよ。なんせ原案だから大人数で話し合った方がいい。」
黒雲「そういやあったね、そんなプリントも。」
今は6月上旬。夏休みのことをそろそろ考え始める時期である。
彩姫「もしかして黒雲、忘れてた?」
黒雲「そ、ソンナコトナイヨ。」
彩姫「カタコトじゃん。それと透真、そういうことだから諦めてね。」
透真「わかったよ。でもまじめな時雨が遅刻するなんて珍しいな。」
彩姫「あんたはよくしてるけどね。」
透真「ひどいくらいの正論だ。」
ガラガラー
生徒会室の扉が開く
黒雲「あ、やっと来た。」
生徒会の扉を開いて本を抱えた一人の少女が入ってくる。
「遅れてごめん。ちょっと先生にわかんないところ聞いてて。」
彩姫「ならしょうがないか。」
彩姫からも信頼されているまじめな子は時雨。生徒会でも特にまじめな2年生で彩姫と仲がいい。ちなみにピアノが得意だ。
透真「俺と時雨で扱いの差がひどくないか?」
彩姫「どうせどっかでサボってたどこかの誰かさんとは違って時雨はまじめだからね。」
黒雲「先輩への敬意もちゃんとある。まあ私は気にしてないけど。」
透真「何も言い返せねえ。」
弥一「そういやもうすぐ期末テストか。生徒会たるもの、成績が良い必要があるもんな。その点、時雨は毎回順位が高いよな。」
時雨「そっ、そうですかね?」
話題はプリントの話ではなくテストの話だ。正直私はテストがあんまり好きじゃないし、点数も低いからその話題を出されると少々困ってしまう。
彩姫「そうだよ。私と弥一も時雨ほどじゃ無いけどまあまあ高いけど、どこかの誰かさんは毎回赤点すれすれだったり、」
黒雲「うげっ」
彩姫「高確率で赤点を取ってくる人がいるからね。」
透真「うっ」
時雨「そうだったんですか!?」
黒雲「いやー勉強がめんどくさくてね。」
透真「そうそう。テストは実力を測るものだから、勉強すべきじゃないんだよ。」
彩姫「はあ、まったく。今度勉強会でもする?」
弥一「そりゃいいな。黒雲と透真のためになるし、時雨の勉強方法も知りたいからな。」
時雨「勉強会自体はいいんですけど、私が役立てることってありますかね?」
黒雲「雨ちゃんはもうちょい自信もって良いと思うよ。」
時雨「そ、そうですかね?」
黒雲「まあそろそろ夏休みの方を話し合おうか。」
弥一「その前に黒雲はお悩み相談が残ってるからな。」
透真「会長どんまい。」
彩姫「まあこんな感じで良いかな。」
黒雲「何とか終わったね。」
生徒会活動を行うこと1時間、お悩み相談と資料の整理、そしてプリントの原案の作成も終わり、今日の仕事は以上である。
透真「会長が早いタイミングから参加してくれたらもう少し早く帰れたんだけどなー」
黒雲「毎日毎日送られてくる要望の解決策を考え続けるこの仕事、透真もやってみる?」
透真「あ、遠慮しておきます。」
弥一「ま、もう結構時間たってるし、もう帰ろうか。」
黒雲「そうだね。じゃ、かいさーん。」
彩姫「弥一、ちょっと相談があるんだけどいい?」
弥一「わざわざ他のメンバーが帰った後に一体どんな相談をするんだ?」
彩姫「実は、私好きな人がいるの。」
弥一「そう来たか。でもな、生憎俺は恋愛経験がないんだよ。だからそういった相談は透真にした方がいいと思うぞ。」
彩姫「それが、ちょっと透真には相談し辛くて。」
弥一「つまり、そういうことか?」
彩姫「いや違うよ。その、相手が、」
弥一「相手が?」
彩姫「女の子だから。」
弥一「そうか。それで誰なんだ?」
彩姫「その、黒雲なの。」
弥一「そうか。」
彩姫「変とか思わないの?女の子が女の子を好きになるなんて。」
弥一「今のご時世その考えの方が変だと思うぞ。多分あいつらもおんなじ考えだと思う。」
彩姫「そうなんだ。」
弥一「で、俺は手伝いでもしたらいいか?」
彩姫「うん。そう。」
弥一「できる範囲で頑張るよ。あとどこまで広めていい?」
彩姫「うーん、生徒会内だけかな。」
弥一「わかった。」
彩姫「ありがと。」
生徒会の日常は続いていく