第43話 一般入場の日がやってまいりましたぁ!
なんか暑い……。
うっすらとした思考の中、目覚めた。
枕元で目覚ましが鳴る。
もう起きる時間か。
徐々に覚醒し始める。が、身体が動かない……。
両側から何かに抑えられているような感じがする。
目を開けると、俺から何かを引き剥がそうとしている成瀬さんが見えた。
「あ、起きた?」
目が合い、目覚めの挨拶をする。
……何してるんだ?
いや、感触で薄々分かってはいるんだが。
「お、おはよう……」
とりあえず挨拶を返し、かろうじて動く首を左右に動かした。
左には涼さんが、右には遥がいた。
……またかぁ。
「あはは……私も起きて気づいてね。うらや……ゴホンッ、暑苦しいし邪魔だろうから離れさせようと思ってたんだけどなかなかできなくて……ごめんね」
「成瀬さんが謝ることじゃないよ」
起き上がるのは不可能と感じ、徐々に下がりつつ下から脱出した。
「ふぅ」
「お、出れた? じゃあ後の二人は私が起こしておくから着替えてきていいよー」
「分かった、ありがとう」
◆◆◆
それから二人が起床し準備を整え、会場へと向かう。
「やっぱり会場へ向かう道はどこも混んでますね」
「ですね〜」
歩道を進む人々。
昨日も見た光景だ。
「あ、そうだ。これを渡しておきます」
そう言って成瀬さんからA4サイズくらいの分厚い本を受け取る。
「なになに……サークルカタログ?」
「そう、サークルカタログ。今回のイベントで出店してるサークルの一覧とか、机の配置、ジャンルごとに分かれた建物の場所とかが書いてるんだ」
「へぇ〜、それにしても分厚っ!」
「ほんとだ。専門書とか画集くらいの厚さはあるよこれ」
遥も驚いた様子でカタログを見ながら言う。
「そうか?」
「年々参加されるサークルが増えていますからね。最近は抽選になったりしてるそうですよ」
そうこう話していると駐車場へ到着し、俺たちは降りて一般入場口へと向かった。
「わっ!」
「男性ッ!?」
「え、うそっ! なんでここにいるの?」
「だよね? 普通、サークルの売り子とかでしか参加しないのに」
と、すれ違う人々の声が次々と聞こえてくる。
「一般参加する男は珍しい……のか?」
「うん、滅多に見ないね」
「大体はサークルメンバーに買ってきてもらうか通販で買ってたりするって聞きますね〜」
成瀬さんと涼さんから肯定の返事が返ってくる。
そうなのか……マジで二人から離れないようにしないとやばいかもなぁ。
頭の片隅に昨日の出来事が蘇る。
「腕を上げてリストバンドを見えるようにしてくださーい!」
拡声器を使った声が聞こえてきた。
運営スタッフか。
確か、リストバンドがチケット代わりになるんだったよな。
指示に従い俺も腕を上げ、手首に巻いたリストバンドを見える位置に持ってくる。
それにしても直射日光はあっつい……。
半袖で来てるから幾分かマシだけど、逆に防ぐものがないからちくちくする。
冷却グッズもっと必要だったかもしれないな。
人波に従い、入口を通り過ぎる。
「……脇見えてんだけど……えっっっろ」
おいそこ、ボソッといったつもりだろうが、がっつり声に出てるぞ! なんなら聞こえてるぞ。
遥も聞こえていたようでこちらをチラッと見た後、スッと自然な動作で俺の後ろから右横に来た。
「チッ……」
舌打ちが聞こえてきた。
残念でしたァ!
へっ、俺の脇を見るなんて100年はやいんだ。そんな見たいもんとは思えないがな。
……こっわ。
遥の目つきが鋭くなり誰がやったか探すようにキョロキョロしている。
しかし、見つけることはできなかった。
そんなこともありつつ、無事建物内に入ることができた。
「そういえば、さっき何かあったの? やけにキョロキョロしてたけど」
「いや、不届者がいた気がしてさ」
「そう? 気が付かなかったけど」
成瀬さんがキョトンとして言った。
「じゃ、私たちはB棟に行くから終了の放送が鳴る17時にここ集合でいい?」
「おっけー」
成瀬さんと涼さんが人混みに消えていっ……消えて……頭ひとつ抜きでてるからよく見えるね。
あ、ちょっと際どいポスターを貼ってるサークルの前で止まった。
……早速楽しんでるね。
「俺たちも見てまわろうか!」
「そうですね」
「だね! どこから行く?」
「とりあえず、一通り回ってみる?」
「それでは全て見切れませんよ。私が回り方を伝授しましょう」
柊さんがそういうと、どこから出したのかメガネをすちゃっとかけた。
「まずこのイベントでは島サークル、壁サークル、シャッター前、お誕生日席などがあります。ここを踏まえつつ、初めてであれば大手や人気サークルが多い壁から回るのがいいでしょう。まぁ、壁サークルは部数も多く用意してる場合があるため、後回しでいい時もありますが」
「な、なるほど?」
「つまり壁際から見て回ればいいのか?」
「ええ、しかし、人気サークルが多いこともあり、人も増えますので要相談ですね」
「ふむ……」
「どうしましょう?」
「壁から回ろう。見た感じ、今は少なそうだから」
「では行きましょうか」
柊さん先導で俺たちは回り始めた。
それにしてもいろんなコスプレをした人たちがいるなぁ。
キャラクターだったり概念だったり……。男装してる人もいるんだ。
お、あれは警察のコスプレ?
「ほら、離れないで」
遥にぐいっと寄せられ、それ以上は見えなくなってしまった。
◆◆◆
「それにしてもこのイベントも久しぶりだね」
「そうだな。ところでこれ似合ってる?」
「似合ってるよ? どうしたの」
「いや、これなら着慣れた服の方が良かったんじゃないかと思ってよ」
「あれは本職の服なんですから使えるわけないでしょ……」
そうため息を吐くのは警察官のコスプレをした女性————橘だった。
もう一人も少し不満を漏らしつつ、だが、しっかりと服を着る女性————山口。
どちらも阿宮がこの世界に転移してまもない頃に世話になった人であった。