第42話 帰路、そして明日の一般参加へ向けて
会場全体に1日目終了のアナウンスが響き、どこからともなく拍手が聞こえる。
それに合わせて俺も拍手をした。
「ふぅ……ついに終わりか」
なんだかんだ色々あったが、楽しかったな。
だけど、こうして一日が終わるとやはりどっと疲れが押し寄せてくるものだ。
疲れをほぐすように腕を上に伸ばす。
「お疲れ様でした。途中、アクシデントもあったけど無事終わって良かったよ。阿宮くん、売り子ありがとうね!」
成瀬さんがみんなを見渡して言った。
「ああ、俺も結構楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
「ちなみに明日もあるけど私たちは出店しないんだ、どうする? 見て回る?」
「確かに、二日間あるって言ってたね。うーん、興味もあるし見て回ろうかな。遥と柊さんもいい?」
「……先ほどの女性と出会わないかが心配ですが……」
「そうだね……あれは危険。ボクたちと常に行動してくれるなら、かな?」
いつもとは違い慎重な意見を出す二人。
そりゃそうか。
俺も流石にあの人は怖かった。
うん、危機感持とうと思ったよ。
「分かった、絶対に一人で行かない。どこに向かうにも報告してから向かう」
「それなら大丈夫です」
「だね、ボクたちも一緒に回るからね?」
「もちろん。みんなで一緒に回ろう」
俺がそう言うと、柊さんも安心したように微笑んだ。
「じゃ、この後パーっと食べに行こうぜ!」
「何を言っているの? 今日の売上金持ってるんだから行けるわけないじゃない。それに通販サイトに本の委託もしないといけないし、食べに行くなら明日にして」
元気良く言った涼さんに成瀬さんがツッコミを入れた。
大金持って店に食べに行くのは怖いな。
忘れた時の絶望感は想像できないよ。
「あっ、忘れてた……。よし、なら明日行こうか! おすすめの店、いくつかリストアップしておくから楽しみにしててくれよ!」
「それじゃ、今日は帰りに何か買ってホテルで食べますか?」
「そうしよう。みんなもそれでいい?」
「はい」
「いいよー」
「賛成」
成瀬さんの問いかけに俺たちは肯定した。
「じゃあ、近くのコンビニかスーパーに寄って、それぞれ食べたいものを買って行こうか」
成瀬さんが提案すると、俺たちはその案に従って荷物をまとめ始めた。
周りのサークルも徐々に撤収の準備を始めている。
机の上に並んでいたポスターや本、売り上げた商品の残りを丁寧に片付けてダンボールに詰める。
みんなで協力して片付けることで、すぐに終わらせることができ、朝の状態に戻すことができた。
「よし、これでオーケーだね。忘れ物は無い?」
「無いよ」
そして俺たちは会場の出口へと向かった。
外はもう暗くなりつつあり、冷たい風が心地よく感じられた。
昼間の熱気と騒がしさが嘘のように静かな夜の空気が、疲れた体に染み渡る。
この間も遥と柊さんは離れることなく、警護官として任務をこなしていた。
「警戒していましたが、現れませんでしたね」
「そうだね。まぁ、出なくて良かったよ」
「ですね」
と、そんな会話が聞こえてきた。
えっ、来る可能性あったの!? あの女の人。
「向かう途中にコンビニあるからそこ寄ろうか」
「そうだね」
スマホを見てチェックしていた成瀬さんが提案してくれる。
しばらく歩くとコンビニの明かりが見えてきた。
店内に入り、吟味する。
「さて、何にしようかな……」
涼さんはもうすでにお弁当も手に取っていた。
成瀬さんはサラダと軽めの食べ物をカゴに入れ、遥はデザートのプリンを真剣に選んでいる。柊さんも弁当をどれにしようか迷っている様子だ。
「海は何か食べたいものある?」
遥が近づいてきて、俺に聞いてきた。
「うーん、そうだな……。お腹も減ったし、ガッツリ食べれるものにしようかな」
そう返答し、俺は唐揚げ弁当にした。
それからみんなも次々と食べ物を選び終え、レジに並ぶ。
成瀬さんが一足早く支払いを済ませ、外で待っている間に、俺たちもそれぞれの買い物を終えた。
「みんな、揃ったね。じゃあ、ホテルに向かおうか」
成瀬さんが先導し、俺たちは再びホテルへと向かう。
にしても、こういうイベントの初参加がサークル側になるとはなぁ。
明日は見て回れるし、今から楽しみだ。
「そういえば、明日はどのブースを見たい? 何か気になるところある?」
「私は友人のサークルを見て回りますよ」
「私たちは阿宮くんと一緒に回りますので特に考えていませんね」
遥の方を見て柊さんが言った。
「そうなの?」
「はい、今回は通販で予約済みですし」
……すでに予約済みだったか。
「俺は……何があるかもわからないから、とりあえず一通り見ていきたいかな」
「うん、それもいいよね。せっかくのイベントだし、いろんなジャンルのブースを見て回るのも楽しいと思うよ」
俺の意見に遥が笑顔で頷く。
しばらくしてホテルに到着し、部屋へと向かう。
夜ご飯を食べ、お風呂へ入り、就寝の準備を整える。
「阿宮くん、初めての売り子どうだった?」
成瀬さんが尋ねてくる。
その質問に、俺は少し考えてから答えた。
「最初は緊張したけど、楽しかったよ。お客さんと話すのも新鮮だったし、途中は……うん、あれもクレーマーと一緒だと思えば」
「嫌なことは寝て忘れるに限るよ。もちろん、完全に忘れて気の抜けた行動はしないで欲しいけどね」
遥が横から言ってくる。
「分かってるよ。流石に実感しちゃったからねぇ」
前はナンパだったし、本格的な変態には出会ったことなかったからなぁ。
うん、気をつけよう。
「そうね。あ、あと阿宮くんは対応も上手だったよ。お客さんたちも喜んでくれたし」
「そう? それなら良かった」
成瀬さんの言葉に、少し照れくさくなりながらも嬉しい気持ちになった。
そんなことを話しつつ、俺たちは眠りについた。