第34話 和菓子と笑顔と小さな幸せ
階段を降り、店が並ぶ道へと来た。
元気良く、観光を楽しむ涼たち。
涼の手にはいつの間に買ったのか、木刀が握られている。
いつの間に買ったんだ……?
「それどうしたの?」
俺は気になり、聞いてみることにした。
「これ? いやー、旅行といったらこれじゃない? 修学旅行では買えなかったし」
修学旅行中の男子みたいだと思った。
「面倒な絡まれ方されたら言ってくれよ! これ貸すからよ!」
ウインクしつつそういう涼さん。
それでぶちのめして良いんですか!?
そう考えていると、
「あそこの和菓子屋に行きませんか?」
成瀬さんが俺の裾を引いて提案してきた。
「いいね」
「そうですね」
「確かに、小腹も空いてきたし」
みんなも承諾し、和菓子屋へ向かうことに。
和菓子屋に入ると、甘い香りが鼻をくすぐる。店内には美しく並べられた和菓子が所狭しと並び、その鮮やかな色彩が目を引く。
ふとレジ側に目を向けると、驚いた様子で固まっている店員さんがいた。
気絶してないか……? 大丈夫なのか、あれは……。
そんな感情が湧き上がってきた。
「必死で声を出さないようにしてるんだよ。観光地なこともあるから、男性が来ることもあるでしょ? だから、過度に騒がないようにって決まってたりするよ」
遥がコソッと教えてくれた。
そうなのか……。
正直、困惑の感情が勝って淡白な反応しかできなかった。
そのうち、ショーケースを見ていたみんなの声が聞こえてきた。
「わぁ、どれも美味しそう」
成瀬さんが目を輝かせながら、ショーケースを覗き込む。その様子に、涼さんも興味津々で近づく。
「どれにしようかな……」
みんなで選ぶのも楽しいが、何にするか迷ってしまう。
ここは無難に羊羹か? いや、大福も捨てがたい。お、いちご大福もあるのか!
ショーケースを見ながら悩む。
みんなもそれぞれ目移りして悩んでいるようだ。
「いちご大福、美味しそうだね。私はそれにしようかな」
成瀬さんが微笑みながらいちご大福を指差す。俺もそれに影響されて、同じものを選ぶことにする。
「じゃあ、俺もいちご大福にしようかな」
他のメンバーもそれぞれ好きな和菓子を選び、店員さんに注文を伝える。
それらを受け取り、店奥のテーブル席へと向かう。
「「「「「いただきます!」」」」
両手を合わせ、言う。
一斉に和菓子に手を伸ばし、それぞれが選んだお菓子を一口食べる。
いちご大福の甘酸っぱいいちごと、柔らかなお餅、甘いあんこが絶妙にマッチしている。
「うーん、美味しい!」
成瀬さんが満足げに微笑む。涼も抹茶大福を食べながら、嬉しそうにうなずく。
「和菓子って、本当に素晴らしいよね。こうやってみんなで食べると、さらに美味しい」
俺も同意しながら、もう一口いちご大福をかじる。甘さが口いっぱいに広がった。
柊さんはみたらし団子にしたようで幸せそうに頬張っていた。
「本当にそうですね」
と柊さんが食べつつ、微笑みながら答える。
「ねぇねぇ、柊さん。それ一口貰えない?」
たまには攻めてみることにした。
でも、柊さんのことだし取り分けてくれるんじゃないかな?
あんまり串ごと渡してくることはなさそう。真面目だし。
「ああ、良いですよ。取り分けますからちょっと待ってくださいね」
予想通り。
あれ、なんか遥が耳打ちしてる……?
柊さんがみたらし団子を串から取ろうとしている手を止めた。
おっと、流れが変わってきましたよぉ〜?
そして、微笑みながら串ごと差し出してくれた。
「取り分けるのもいいですけど、そのままどうぞ」
一瞬ドキッとしながらも、俺は感謝の気持ちを込めて言う。
「ありがとう」
そう言って、柊さんから差し出されたみたらし団子を串ごと受け取り、一口かじる。
甘辛いタレが口の中に広がり、美味しさが増す。
まさか、柊さんまでしてくるとは。
それにしてもこれ、美味いな。
視線を柊さんに向けると何やら微笑んでいた。
「和菓子って、小さな幸せが詰まっている感じがしますね」
「確かに」
「この甘さは幸せだったのか!」
遥が笑いながら呟きつつ、どら焼きを口に運んでいた。
しばらくみんなで和菓子を堪能し、和やかな時間を過ごす。和菓子の甘さと、みんなの笑顔が相まって、心が満たされる。
「この後はどうする?」
涼が尋ねる。
「時間的に一通り見たら帰るにはちょうど良い時間になりそうですね」
腕時計を見てそう呟く柊さん。
「確かに、今14時か」
「じゃ、そうしましょうか!」
その後も抹茶ドリンクを買い、また別の和菓子を買って食べながら散策した。
もちろん土産物屋も見た。10個入りの和菓子や、ご当地のゆるキャラっぽいキーホルダーを購入した。
ちょっと悩んだけど剣のキーホルダーは買わなかったよ。
そして日はオレンジ色になり、ぼちぼち帰り始める人が増える頃。
俺たちは駐車場へと戻り、帰宅することにした。
「じゃ、涼か遥は助手席ね。私、後部座席座るから」
「そしたら遥、運転できますよね? 私と交代しませんか?」
席争いが開幕した。
とは言っても初めに乗っていた手前、特に逆らうことなく明け渡していた。
渋々な雰囲気は出していたが。
なお、俺は変わらず真ん中である。
「じゃ、出発するよー」
遥が声をかけ、エンジンを入れた。
柊さんはピタッと遠慮がちにくっつく感じだが、成瀬さんはがっつりきますね〜。
そんなことを考えつつ帰路についた。