第33話 参拝
車が動き出し、みんなは楽しみな気持ちで次の目的地について話し始める。
最初に訪れるのは、有名な神社らしい。
「やっぱり、観光といえばまずは神社じゃない?」
と提案したのは涼さんだ。
みんなもその提案に賛成し、車は神社へと向かった。
俺はこれから向かう神社に期待感を膨らませていた。ただ、同時にどれも一緒だろうと思う自分もいる。
「そういえば、今から行く神社ってどんなのなの?」
俺はふと気になり聞いてみた。
「確か創建は数百年前だって。建物もかなり古くて立派らしいよ」
と成瀬さんが答える。
へぇ。
俺は元の世界、修学旅行で見た清水寺を思い浮かべた。
「楽しみだね。古い建物って、なんか心が落ち着かない?」
隣で話を聞いていた遥が問いかけてくる。
「確かに、実家のような安心感があります」
柊さんが前を向きながら、視線だけバックミラーに向けて答えた。
バックミラー越しに目が合う。
ニコッと微笑んだ。
柊さんの微笑みに、俺も自然と微笑み返した。和やかな雰囲気の中、車は順調に神社へと向かっていた。
目的地に近づくにつれ、ビルが減り、人通りが増え、古風な建物が見えてくる。
やがて、立派な山門が見えてきた。
「わぁ、すごい!あれが入口だね」
と涼さんが興奮気味に声を上げる。
手前で止まり、車を駐車場に停め、みんなで山門へと向かった。
「後でこの辺りの店にも行こう」
「そうしよう! 確か、名産品とかあったはず」
話しつつ鳥居をくぐると、目の前には長く続く石段が広がっていた。
石段の両側には緑が生い茂り、だが綺麗に整えられたそれは、まるで自然のトンネルのようだった。
自然の、森の匂いが鼻の奥へ入ってくる。
「これはちょっとした運動になりそうだね」
と成瀬さんが苦笑しながら言う。
「確かに。けど、こういうところを歩くのもまた風情があっていいよね」
と涼さんが答える。
「じゃあ、行こうか!」
俺が先頭に立って石段を登り始めた。両隣には遥と柊さんが、警護官としての職務を全うするように、歩幅を合わせて歩く。
すれ違う全ての人が振り返る。観光地ともなると人が多く、視線も相対的に多くなる。
そうだった……忘れてた。
一生慣れることはなさそうな、好奇の、たまに情欲を抱いたような視線が突き刺さる。
それを躱しつつ、階段を登り切る。
「着いたぁ!」
みんなでゆっくりと石段を登りながら、途中で休憩を挟む。上りきった先には、広々とした境内と立派な拝殿が待っていた。
「よーし、早速、参拝しに行こー! ここの神様って恋愛成就や安産祈願、子宝など、縁結びの神様なんだって」
「へぇ、そうだったんだ。ちょうどいいね」
俺へ視線を向けて成瀬さんが言う。
一体、なんだろうなぁ。
「あっ、ちょっと待って! まずは礼をしないと」
「そうなの?」
そうだったんだ。
「あと真ん中は通ったらだめだよ。正中って言って神様の通り道だからね。まぁ、よほど混んでる時はいいみたいだけど」
周りを見渡す。今日は平日ということもあるのか、そこまで人は居ない。
体感、下の店辺りの方が多いだろうか。
「なるほど、よく知ってるなぁ」
「昔っから、おばあちゃんに口酸っぱく言われてきたからねぇ」
遥が昔を思い出すような遠い目で言う。
そして、言う通り、礼を済ませ、真ん中を
「じゃ、まずは手水を取ろう」
みんなで手水舎へ向かい、手を清める。成瀬さんが器用に柄杓を使いながら説明する。
「まずは左手、次に右手、そして口をすすぐんだよ」
成瀬さんの動作を真似て、俺たちも手と口を清める。手水の冷たい水が心地よく感じられた。
「よし、これで準備完了だね。さあ、参拝しよう」
涼さんが元気に声をかけ、みんなで拝殿まで向かう。
拝殿の前に立つと、その壮麗な建物が目に飛び込んできた。
高い天井と彫刻が施された柱が威厳を放ち、周囲の自然と調和している。
屋根の瓦は年月を経た風合いがあり、歴史の重みを感じさせる。そして賽銭箱の周りには、参拝者が祈りを捧げるための空間が広がっていた。
「本当に立派だな」
本当に、そんな感想しか出てこないほど、圧倒されていた。
俺が感心して言うと、柊さんが頷く。
「うん、すごく落ち着く場所ですね。参拝の仕方は知っていますか?」
「確か、二礼二拍手一礼だったよね? あとお賽銭を」
「そうです」
みんなで揃って賽銭箱に向かい、小銭を投げ入れる。
コインが箱の中で軽やかな音を立てる。目を閉じ、静かにお辞儀をしてから、手を合わせて祈りを捧げる。パンッと軽い音を二回鳴らす。
心の中で願い事を唱えながら、二礼二拍手一礼をきちんと行った。