第31話 オレには秘策がある!
「早く起きて! チェックアウトに遅れちゃう!」
急かすような声が聞こえ、目覚めた。
まだ眠い目を擦り周囲を見ると、すでに全員起きており、帰るための準備を進めていた。
それを見て、一気に意識が覚醒する。
「うそっ、マジで!?」
俺は慌てて布団から飛び起きる。そして急いで着替え、準備を始めようとした。
「あ、ちょ、ちょっと。ボクたちも居ること忘れてるでしょ! 着替え終わるまで出てるからちょっと待って」
手で目を覆い、そう言った。
慌てすぎて、前の世界の調子で着替えをしようとした。
忘れてた、てへっ。
「あっ」
「慌てすぎだよ」
涼さんもそう言って、四人は少しの間、別の部屋に移ってくれた。
なるべく待たせないよう、早めに着替えて合図を送る。
「もう大丈夫だよー、ありがとう」
「りょーかい!」
ドアの向こうから遥の声が聞こえる。
そして戻ってきた。
「さ、急いで準備をするよー!」
そう、着替えるときに時間を確認したんだ。
何時かというと10時半だった。
チェックアウトは11時、帰宅の準備は何もできていない。30分はあれどギリギリな気がしている。
まぁ、これも俺が寝坊したのもあるだろうが……。
昨夜の枕投げの余韻がまだ残っていて、少し体がだるかったが、そんなことを言っている場合ではないため、テキパキと荷物をまとめる。
周りを見ると、成瀬さんは既にきちんとした服装で荷物を整理しているし、柊さんも手際よく片付けている。遥も元気そうに準備を進めていて、涼さんは……。
「涼さんもさっき起きたの?」
「うん、起こされた……ちょっとねむい……」
涼さんは目をこすりながら、まだ半分夢の中のようだった。それでも何とか荷物をまとめ、全員が準備を終えた。
「よし、全員準備オッケーかな? じゃあ、チェックアウトしに行こう」
成瀬さんの言葉に全員がうなずき、部屋を出た。
時間は10時50分。
ギリギリセーフ……。
ホテルの廊下を通り、エレベーターでフロント階へ降りる。
チェックアウトを済ませ、外に出ると、清々しい朝の空気が迎えてくれた。
「いやぁ、昨夜は楽しかったな。こんなに笑ったのは久しぶりだよ」
涼さんが笑いながら言うと、みんなも同意して笑った。
「本当にね。今日は何するの?」
遥が尋ねると、成瀬さんがスマホを取り出しながら答える。
「とりあえず朝食を食べに行こう。その後は、近くの観光スポットをいくつか回るのはどう?」
「それいいね。お腹も空いたし、行こう!」
全員が朝食を楽しみにして、駐車場へ向かう。
「あ、オレ達バスで来たんだけど、同じ車に乗れそう?」
「ええ、五人乗りだから大丈夫ですよ。荷物はトランクに入れましょうか」
車のトランクに荷物を積み込む。
「さて、どこに座るよ」
「私は運転しますので、運転席に」
「お、ありがと! それじゃ、阿宮くんだよな」
「助手席と後部座席、どっちがいい?」
これは……後部座席に座ると戦争が起きるやつでは?
そう思い、助手席を選択することにした。
いや、後部座席もありだよな。多分真ん中に座ることになりそうだし……。
うーむ。
「私としては、安全面も考えて後部座席に座ってもらえると助かります」
そうなのか。あれか? 助手席だと外から見えるし、追いかけてくる車があったりするのかな?
「それじゃ、後部座席にしようかな」
「おお! 後ろに座るのか! それなら……」
涼さんはそう呟き、遥と成瀬さんに視線を向けた。
「じゃんけん……ですね」
「だね。負けないよ」
誰が後部座席に座るか、勝ち抜けでじゃんけんをすることになった。
「じゃーんけーん……ぽんっ!」
1回目の結果。
涼さんがパーを出し、成瀬さんがグー、遥がチョキを出した。
あいこだ。
ということで2回目に移る。
「じゃんけんっ————ぽんっ!」
2回戦目もそれぞれがグーチョキパーを出し、あいこだった。
「うーん……」
「あいこかぁ」
「よーし、あれを使うか」
涼さんはそう呟くと、両腕を捻って組み合わせ、前に出す。そのまま下から胸を通って頭の上に持ってくる。
そして、組み合わせた手の中を覗いていた。
「よーし、オッケー」
「何やってるのよ……」
「あれ、知らない? オレが小、中学生の時流行ってたやつなんだけど。この覗いた先にある穴の形で何出すか決めるんだよ」
やってたなぁ。
懐かしい、中学生の頃を思い出す。
「そんなの初めて聞いたよ」
と成瀬さんが興味深げに言った。
「確かに見たことないかも」
遥も首をかしげる。
「えっ?」
思わず声を上げた。
あれ、この世界だとそんな一般的じゃないのか?
「海知ってるの?」
「知ってるよ、めっちゃ使ってたし」
「だよなだよな!」
仲間を見つけ、嬉しそうに言う涼さん。
「地域差……かもしれないね」
考えつつ成瀬さんが呟いた。
「まあ、とにかくこれで決めるからね。じゃあ、もう一回いくよ!」
涼さんが準備を整え、掛け声を上げる。
「じゃーんけーん……ぽんっ!」
三回目の勝負。
涼さんがパー、成瀬さんと遥がグーを出した。
「よっしゃ!」
涼さんが笑顔でガッツポーズをする。
「じゃあ、残り一枠か」
「そうだね」
遥と成瀬さんが見合う。
そして————。
「じゃーんけーん、ぽんっ!」
最後の勝負。
成瀬さんがパー、遥がチョキを出した。
「やった! ボクの勝ち!」
遥が勢いよくガッツポーズをした。よっぽど嬉しいようだ。
「うーん、負けたかぁ……。じゃあ私は助手席に座るね」
と成瀬さんが微笑む。
大人だぁ。
そして涼さんが先に入り、俺が続いて乗り込む。最後に遥が乗り込み、成瀬さんは助手席へ。
出発の準備がようやく整った。
五人乗りだけど、なんか異様にくっついてきてない?
両腕が動かないんだけど。
俺は視線を左右に向ける。そこには俺にもたれかかり、くっつく二人の姿があった。
まぁ、こうなるよね。
予測できた結果だ。
「じゃあ、出発しますね」
柊さんの言葉と共に、車はスムーズに駐車場を出発した。
外の景色が流れていく中、みんなの話し声が車内に響く。
「朝ごはんどこに食べに行きましょうか」
「そうですね。もう11時ですし、がっつり食べてもいい気がしますね」
成瀬さんの言葉に、みんなが頷いた。
「だね、お腹ぺこぺこだよ〜」
「どうしましょうか、ファミレスにしますか? 個室のあるファミレスが、近くにあるようなので」
「いいんじゃない?」
「そこにしよ!」
それにしても、今ではファミレスでも個室があるのか……。
男が安心して食事できるようにってやつか?
「じゃあ、そのファミレスにしよう!」
「では、向かいます」
それからしばらくして外の景色も変わり、だんだんとファミレスが近づいてきた。
「さぁ、もうすぐ到着かな?」
「そうですね。あそこです」
柊さんが前を見ていう。
目的地のファミレスに到着する。
駐車場に車を停め、みんなで店に向かって歩いていく。
外観はザ、ファミレスって感じだな。大きくて高い看板が立っていて、ガラス張りでテーブル席が見えている。
柊さんと遥が先に入り、男が居ることを説明してくれる。そして呼ばれると、個室へ案内された。
「おー、すごい! 個室って思ったより広いんだね」
遥が部屋の広さに驚くと、成瀬さんがにっこりと微笑んだ。
「だね。ここなら、ゆっくり食事ができそう」
みんなが席に着き、メニューを開いた。
何食べようかなぁ?
俺たちはメニューを広げ、吟味し始めた。