第24話 in 水族館
ということで俺たちは今、水族館に来ている。
「ここ、イルカショーもやってるらしいぞ?」
「そうなの?」
「ああ、パンフレットに書いてあった」
涼さんがチケット売り場で貰ったであろうパンフレットを出しながら言った。
それにしても大きい水族館だなぁ。
外観は4階建てくらい、横にも広い形状をしていた。
「どこから回る?」
涼さんがパンフレットを広げて眺めている。それをみんなで覗き込み、どこに何があるのか確認する。
「うーん、どこも面白そうだけど、せっかくだから一階の深海エリアから行かない? 深海生物ってなかなか見られないしさ」
遥がそう提案する。
深海か、いいね。
「いいんじゃない?」
「うん、順番通りに見ていくのが安定だよね」
「そうですね」
みんなの同意も得たところでまずは深海エリアに行くことに。
「あっち?」
方向を確認するように、指差す成瀬さん。
「うん、物販エリアの奥にあるみたいだね」
涼さんの広げるマップを見て、俺は返事をした。
「よーし、それじゃ、レッツゴー!」
ウッキウキで先頭を進む遥。
私たちは入口を通り抜け、一階の深海ゾーンへと向かった。
館内は薄暗く、神秘的な雰囲気が漂っている。巨大な水槽には、アンコウや巨大イカなどが静かに泳いでいた。
薄暗い照明が彼らの不気味な姿を浮かび上がらせ、まるで別世界に迷い込んだかのよう感覚になる。
その中でも一際目を引くのは、大きな水槽に入れられたタカアシガニの群れだ。
「うわ、これがタカアシガニか。思ったより大きいな…」
涼さんが驚いたように水槽に顔を近づける。
タカアシガニの長い脚がゆっくりと動き、その威圧的な姿に皆が圧倒される。
「結構、大きいんだね」
俺も見るのは修学旅行以来だなぁ。
「ほんとだね。こんなのが海の底で暮らしているなんて、すごく神秘的だな」
成瀬さんも感嘆の声を漏らす。
柊さんも目を輝かせながら水槽を見つめている。
「おおー!! こっちにダイオウグソクムシがいるぞ!」
先に進んでいた涼さんが驚きと喜びが混じったような声を上げる。
「ダイオウグソクムシって、あの巨大なダンゴムシみたいなやつ?」
柊さんが興味津々で涼さんの元へ駆け寄る。
「そうそう、深海に生息するんだけど、こんなに大きいのはやっぱり圧巻だな」
涼さんが指差す先には、巨大な甲殻類、ダイオウグソクムシがゆっくりと動いていた。
その姿はまさにダンゴムシを巨大化させたような不思議な生き物だった
「わっ、すごい、なんかモゾモゾ動いてる……」
水槽を見て驚いた成瀬さんは「見ててなんかゾワゾワするよ」と言った。
「そう? かっこよくない?」
俺はダイオウグソクムシを見てそう感じた。
「ほら、なんか鎧みたいな感じがしてさ」
「うーん……」
微妙な反応だ……。そっか……。
「それにしても深海生物って、本当に奥が深いね。未知の世界が広がってる感じがする」
他の水槽を見ながら呟く涼さん。
「そうですね、目が退化していたり、変わった形をしていたりと不思議です」
柊さんも同意するように言う。
しばらく進み、世界の少し変わった生き物を展示していたり、タコやエビが展示されていた。
そして、何やら人が集まっているスペースがある。
「ん? なんだろう」
「何かあるのかな」
「珍しいのがあるのかもね。行ってみよう」
私たちは人が集まっているスペースへと向かった。そこには、大きな展示パネルと共に、巨大なアクリルケースが設置されていた。近づくと、パネルに書かれた説明が目に入る。
デカデカと書かれたシーラカンスの文字が見える。
「シーラカンス!?」
「シーラカンスって、あの絶滅したと思われていた魚だよね?」
柊さんが目を丸くして言った。
「そうそう、古代魚で、現存する化石みたいなものだよ」
アクリルケースの中には冷凍保存されたシーラカンスが展示されている。
成瀬さんも目を輝かせながら、じっとシーラカンスを見つめていた。
「シーラカンスって、何億年も前からほとんど変わらない姿なんだって」
涼さんが説明を読みながら言った。
「だからこそ、生きた化石と呼ばれているんだね」
柊さんも感心したように頷く。
先に進むと階段が現れ、別のエリアへの案内板があった。
これで、深海エリアは終わりのようだ。
「さて、次はサンゴ礁エリアだってさ」
遥が案内板を見て言った。
「楽しみだね」
みんなで階段に登り、二階へと行く。
階段を上がると、一気に明るくなった館内が広がり、サンゴ礁エリアの入口が見えてくる。
大きな水槽には、色とりどりの熱帯魚が泳ぎ回り、サンゴの美しい景観が広がっていた。
「わぁ、すごい綺麗だね」
成瀬さんが目を輝かせながら言った。彼女の視線の先には、鮮やかな色彩のサンゴと、それを舞うように泳ぐカラフルな魚たちが見えていた。
「ほんとだね。まるで絵画みたいです」
柊さんも感心したように水槽に近づく。
「サンゴ礁って、こんなにたくさんの生き物が集まる場所なんだな」
涼さんが説明パネルを読みながら言った。
「そうみたいだね。サンゴ礁は海の中のオアシスみたいなもので、多様な生物が集まるんだって」
「お、あれ見て! クマノミがいる!」
成瀬さんが指差す方向には、オレンジと白の縞模様を持つクマノミがサンゴの間を泳いでいた。
俺たちはしばらく、サンゴ礁エリアを見て周り、次のエリアへ行くことに。
「ん? ちょっと待って。あそこで触れ合えるみたいだぞ、行ってみないか?」
涼さんが何かを見つけたようで、提案してくる。
触れ合える……魚と?
示す方向へと向かい、何があるのか見てみた。そこには円形の水槽があり、中にヒトデやエイ、ナマコがいた。
なるほど、触れても問題のない生物がいるのね。
柊さんがおずおずと水槽へ近づいていく。
成瀬さんもその後に続き、ヒトデを手に取った。
「ヒトデってこんな感じなんだ……」
成瀬さんがヒトデを軽く触れながら呟いた。
俺も触れてみる。
ヒトデの表面はザラザラしていて、少し冷たい感触がした。
結構硬いんだ。
水中で持ち上げても、星形を保っている。てっきりだらんとなるかと思ったんだけど……知らなかったな、これは。
「ナマコもいるぞ。触ってみるか?」
涼さんがナマコを指差す。
俺は少し戸惑いながらもナマコを触ってみた。
ブニブニ、ザラザラって感じの触覚だ……。何だろう、この不思議な触覚は。例えが思いつかない。
「ほんとだね、面白い感触だな」
成瀬さんも同じようにナマコを触って楽しんでいた。
みんながそれぞれの生物と触れ合いながら、楽しい時間を過ごす。
一方、柊さんは触れようとして指先が触れると、それに驚いて手を引っ込める。を繰り返していた。
「柊さん、襲ってこないからそんな怯えなくていいですよ〜」
俺は「硬い触覚のから試してみたらどうです?」とヒトデを提案してみた。
「そ、そうですね!」
そうしてヒトデに触れていた。
「お、おおー」
驚いているなぁ。
そうして触れていると、近くをエイが泳いできた。
これはチャンスだと思い、タイミングを合わせ、触ることに成功した。
これはッ……ヌルッとしているだと!?
俺の想像よりもヌルッとしていた。もっと硬くてザラザラしているものかと……。
「どうだった?」
「ヌルッとしてたよ。想像と違った」
「そうなの? てっきり違う感じかと」
そう言いつつ、遥もエイに触れてみていた。
「わっ、確かにヌルッてしてる!」
「でしょ」
こうして触れ合いコーナーで楽しみ、手を洗ってその場を離れた。
「いやー、滅多にできない体験だったね〜」
「ですね」
「だね。感触がまだ手に残ってるよ」
「奇妙な感触でした……」
「楽しかったなぁ」
みんなで話しつつ、次のエリアへと進むことに。




