第八話 危険
第八話
それからしばらく歩いたが、魔物の姿は見ていない。
その状況を見てか、ノア姉が口を開いた。
「私の言いつけを守ってるんだったら…魔物を見たのは初めてだったよね?」
「はい!もちろんです。」
僕はすかさず答えた。
「じゃあ…魔物について簡単に説明するね。」
ノア姉は引き続き周囲を警戒しながらそう言った。
「はい。お願いします。」
魔物。ゲームに出てくるような前世での認識とは違うんだろうか。
…それと。
僕が考えなきゃいけないのは…なぜアイルがこの世界に魔物を作ったのか、だ。
忘れていたわけではなく、普段はあまり深く考えないようにしている。
真剣な話だし、他人とは共有できない話なので、できるだけ1人でいるときに考えたい、と。
「魔物には…」
それからの話をまとめるとこんな感じだった。
魔物にはたくさんの種類がいる。さっきのだとゴブリン、他にもオークや、強いものだとドラゴンとか。
ただどの魔物も森から出ることはないのだと言う。これには少し驚いた。森にいなければならない理由が何かあるんだろうか。
それと、魔物は倒すと魔水晶がドロップする。さっきノア姉が拾ったのもそれで、色々な動力源になるので高く売れるそうだ。
他にもいろいろなことを教えてもらったが、特に気になったのは…ここの森の魔物は弱い方だということだ。
外に出る許可ももらったことだし、これから強くなるにはまずこの森で練習を積むのが良いのだろう。
これからの当面の目標はゼータにもらったスキルを使いこなせるようになることと…個人的には音魔法の可能性も追究したい。
もちろん、ゼータからの使命も果たさなくてはならないのだが…
「シア、近くに寄って。」
「は、はい!」
ノア姉のいつもとは違った声色に思わず緊張が走る。
「近い。ゴブリンが7匹。」
ノア姉がゆっくりと剣を抜いた。
「私の後ろを離れないで。」
そう言った次の瞬間。
とてつもない衝撃と共にノア姉が地面を蹴った。
あっという間に遠くにいたはずのゴブリンのもとへ移動し、鋼鉄の刃を振るってその先を赤く染めていく。
1体目。
は、速い…。
ゴブリンたちは、動揺しながらも意を決して向かっていくが、なす術もなく散っていく。
2、3体目。
新たなゴブリンが死角から飛びかかるが、ノア姉は瞬時に身を翻して一閃。
4体目。
すかさず2匹のゴブリンがノア姉を挟むように飛びかかるも、一歩引いてその攻撃を交わし一太刀。
5、6た…
「シア!!」
そう大声で叫びむかってくるノア姉の声を聞き、後ろを振り返ると、空中から飛びかかるゴブリンの姿があった。
しまっ…
死ぬ。直感的にそう思った。
気づけばとっさに手を出し、口に出していた。
「〝火球“!」
途端に突き出した手から赤々と燃える炎が湧き上がり、ゴブリンの体を焦がしたが、炎は手を離れることなく小さくなっていった。
それを見てすかさずノア姉が剣で突き刺し、息の根を断つ。
これで7体目。
直前の驚きと魔法の使用からか、思わず息が上がる。
あのとき。反射的に体が動いていなかったら死んでいた…。動けたのは良かった。
だが、火球は出な…かった。やはり…か。
「シアすごい!炎魔法が使えるの!?」
ノア姉はゴブリンが死んだのを確認すると、目を輝かせながら振り向いた。
「はい。庭で少し練習してたんです。」
そう言って僕は息を整え、ノア姉の方を見上げた。
そう。これがゼータにもらった1つ目のスキル、〝炎の魔術師〟だ。
家にあった本を読んだときから、このスキルが1番基本的で使いやすそうだと思っていた。
「そうだったんだ!さすが私の弟!…にしても今、詠唱ってしてた?」
「はい、してました!ノア姉がゴブリンと戦っている
間に、僕も危険に備えてたんです。」
嘘だ。詠唱なんてしていない。
魔法はイメージ、その言葉を常に頭においてやっていたら詠唱なしで魔法が使えるようにはなった。
ただ、ゼータが言っていたようにこの世界で目立つことにメリットはない。
もちろん、何も制約がなければ目立ちたいのだが、目立たない男が実は強い、なんてのも憧れる。
「火球!とか言っちゃって!」
ノア姉は「このこの〜!」と肘をしきりに当ててくる。
何この人めっちゃいじってくるんだけど。
とはいえ。まずは、魔法に関する問題をどうにかしなくてはならない。
さっきもそうだったが庭での練習でも僕はまだ魔法を完全に打てたことがない。炎までは出るのだが、手から離れない、発射されないのだ。
イメージが足りないんだろうか…まだまだだな。
魔物との戦いの中で気を抜いた、魔法は上手く出ない、努力が足りないんだ。
遊んでる暇はないな。
ノア姉はゴブリンたちからドロップした魔水晶を拾い終えると「さ、行こ!」と言い、再び歩き始めた。
シアもそれに続きその場を去ったのだった。
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初心者で拙い部分もありますが応援していただけると嬉しいです!