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第三話 情報収集①

第三話


 それから約1ヶ月が経った。


1ヶ月も経てば身の回りのことは自ずと色々わかってくる。


僕は今、エルフのコスプレをしていると言った母さんの家で暮らしているのだが、まず第一に、彼女はおそらく本物のエルフだ。


この1か月の間、母さんはずっとあの姿だ。それに、最近分かったのだが、あの長い耳は母さんの機嫌に応じて動く。


あれはれっきとした体の一部だった。


エルフがいる、ということは…ここは元いた世界とは違う…おそらく異世界なんだろう。


彼女は日本語を話していたが…。いや、それについてはまた後で話そう。


そして…僕が生まれ変わった、いや、転生した、というのも紛れもない事実だ。


この赤ちゃんの体は夢でも妄想でもない。


そのことが1ヶ月の時を経てようやく完全に飲み込めたような気がする。



…30代半ばで半強制的に転生。


普通の人ならこんな状況、決して喜ばしいものではないだろう。


「まだやり残したことが…」とか、「家族に別れを告げられてない!」なんてことを言う人がほとんどのはずだ。


ただ僕の場合はその限りではない。


前世に未練はない。


家族への別れ?言い残したことがあったのなら自殺しようとなんてしていない。


あのまま生きていたってまず希望はなかった。


「人生をやり直せたら」


そんなこと毎晩考えた。死ぬほど願った。


その願いがようやく届いたんだ。


ここでならまた1から人生をやり直せるのかもしれない。


ここがどこで自分が誰なのかなんて関係ない。


少なくとも前世の100倍マシだ。


偶然にも与えられたこのチャンスを無駄にはしたくない。


きっと悔いのない人生にしてみせる。


これが、現状把握をした上での僕の考えだ。





さて、話は移るが1ヶ月経ったという具体的な月日がなぜ分かったか、それは単に僕が一日一日数えていたから、というわけではない。


驚くべきことに、この異世界では「太陽暦」と同じものが使われていたのだ。


つまり、元いた世界と同じように1年が12ヶ月、365日で構成されていた、ということだ。


それに基づいて作られた「カレンダー」のようなものが僕がいつも寝かされている赤ちゃん用ベッドの向かい側の壁にかけられていて、僕はそれを見て今が何月何日なのかを確認していた。

ちなみに今は11月30日。この世界にも四季があるのかはわからないが、心なしか最近肌寒くなってきたような気がする。


さらに僕が驚いたのはそのカレンダーについてだ。

そのカレンダーは確かに()()()書かれていたのだ。〇〇月、〇〇日、〇曜日。そのどれもが見間違いようもない漢字で書かれていた。


となると、彼女は本当に日本語を話していたらしい。

僕からしたら新しい言語を覚える必要がないのでありがたいが、これはまた変な話だ。


別の世界でできた言語が偶然日本語と全く同じだった、なんてことはまずないはずだ。


なぜこうなっているのかは不思議でたまらないが、考えても答えは出なさそうだったのでこれに関しては1週間ほど経ったところで考えるのをやめた。



次に僕が考え始めたのは、不思議な力について、だ。


カレンダーを見てこの世界で日本語が使われているのを知った僕は、まず一度ここが本当に異世界なのかを疑った。

しかし、現実にエルフが存在してるんだ。彼女を見ているうちにそんな疑念はすぐにどこかへ過ぎ去った。


そこで思い出したのがこの世界に来る直前のことだった。


ここに来る前、元の世界にいた僕は楽しそうな人々の声に吐き気を覚え、周りが静かになることを願った。


すると不思議なことが起こった。

聞こえていた音が、本当に全て消えてしまったのだ。


意識が朦朧とし始め、気づいた時にはこの異世界にいた。

今思えば、あれがここへの転生のトリガーだったのかもしれない。



僕が静かになるよう願った途端、音が消えた…

もし僕の願いとあの現象に因果関係があったのであれば、僕は不思議な力を使えたことになる。

言うなれば魔法のような…。


あの時のような不思議な力がこの異世界でも僕には備わっているのかもしれない。

ならば試してみる価値はあるだろう。


そんなことを考え始めたのが約3週間前。それから今日までこの不思議な力について色々な検証を進めてきた。


わかったことは大きく分けて2つだ。


まず1つ目、僕には実際に音を消すことができる力が備わっていた。

原理は全くわからないが、頭の中で願うだけで簡単に消えてしまう。


ならば他にも、と思い、「開け、ゴマ!」や、「ラーメン召喚!」なんて願ってみたが、叶うことはなかった。


今のところは音を消すことだけというかなり限定的でなんの役に立つかもわからない能力のようで、少しがっかりだ。


ああ、肝心の音の戻し方だが、これも簡単、ただ願うだけ。

ゲームなどの中だと、能力を使うには技名を言わなければならない、などというのがあったりするが、それは無さそうだ。


ここから察するに、この力を使うのに必要なのは言葉ではなく、イメージなのかもしれない。



次に2つ目。この能力には特に使用回数に制限はなさそうだということだ。


使えるのがこの能力だけだとわかった僕は、次にこの力に縛りのようなものがないかの確認を始めた。


まずはじめに調べたのが使用回数だった。

1秒単位で音のオンオフをしてみたが、1日中やっても使えなくなることはなかった。


だんだん疲れてきて1日でやめてしまったが、この力を1日中以上使うということもないだろうから十分だ。



魔法についてはこれぐらいにして、最後に、エルフの母さんについて分かったことをまとめよう。


まず、彼女はノアという名前らしい。

どこでこれを初めて知ったのかは忘れてしまったが、彼女が持っている物のほとんどにこの名前が刻まれていたり、一度この家を訪ねてきた人と彼女との会話からこの名前を聞いたりした。


訪ねてきた人、と言ったがその存在はかなり稀で、母さんはあまり家の外にも出ていないようなので、人付き合いがあまり得意ではないのかもしれない。


特に仕事もしていないのだろうか。あるいは子供ができて休みを取っているのか…。



そういえば彼女は母親というには少し幼すぎるように見えたが、これはおそらくエルフという種族が長寿だからなのだろう。


ゲームやアニメなど、ファンタジーの世界では、エルフは長寿であることが多い。

それがこの世界でも当てはまるのであれば、長寿である分成長が遅い、ということが考えられる。


そして次に、この家はかなり人気の少ない森の奥地に建てられているみたいだ。


周りでは鳥の鳴き声のようなものや、川の流れる音が日常的に聞こえる。

初めは自然豊かな場所が好きなのかな、と思っていたがどうやら彼女は人を避けているようだ。


買い物に行くと言って外へ出かけるときにはフードの付いた白いローブを着て、できるだけ体を隠す。


この家を人が訪ねてきた時には相手が知人だと分かるまでかなり相手を警戒していた。


人付き合いが得意ではないのかもしれないとも言ったが、そんなことよりももっと大きな原因があるように思える。


僕は…確信は持てないが、大方過去の人間関係なのではないかと考えている。


実は、この家には僕の父さんにあたる人間がいない。その父さんに逃げられてしまったことが彼女に精神的なダメージを与えたのではないだろうか。


なんにせよ、まだ僕は赤ん坊の体でできることが限られている。

これからもしばらくは情報収集を続けていきたいと思う。


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初心者で拙い部分はありますが、応援していただけると嬉しいです!!


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