SHALL WE DANCE?
武頼庵様主催「冬は〇〇〇!!」企画参加作品。
アメリカ合衆国・アリゾナ州・フェニックス――
ジャック・マクブルームはこの町に生まれて育つ。彼はある女子にアプローチし続けていた。
「俺と付き合ってくれ! このとおりだ!」
彼は大きな薔薇の花束を片手に彼女の家のまえで両手を広げた。
「何しに来た! この白人イ〇ポ野郎!」
「うわっ! お父さん! 暴力はやめてくださいよ!」
「お前にお父さんなんて言われる筋合いなんかない!」
窓越しにアヴァは溜息をつく。
彼女は別にジャックを嫌っている訳ではなかった。むしろ本当は興味を持っていたのだ。しかし裕福であっても町で珍しい黒人一家、しかも父子家庭で箱入り娘のアヴァへあからさまに言い寄ってくるジャックの事を彼女の父親は全くよく思ってなかった。
「ふぅ、おいだしてやったぞ。何だよ? アイツは? 元カレか?」
「付き合ったことはないわ。ただのお友達よ」
「ただのお友達が正装で薔薇の花束なんか持ってくるか!?」
「ちょっと変わった子なのよ。家に入ってこないし大丈夫よ」
「もう充分なストーカーだろ!? お前は嫌じゃないの!?」
「別に。相手にしてないだけで。パパがヒステリックなだけよ」
「白人っていう奴は薄情な奴だ! 厭らしい目的で近寄ってきているに違いないだろ! 俺なんか黒人であるだけで博物館職員なのに草むしりさせられているのだぞ! もしもアイツと近寄ったらどうなるか……」
「パパが差別を受けている事と彼が私にプロポーズをしにきているのはまったく関係ない事でしょ?」
「同じだ! 俺は白人たちのせいでロクな仕事をさせて貰えない!」
「はいはい。グチなら後で聞くわよ。宿題があるから話はここまでにして」
アヴァはまた溜息をつく。この地域まで親子でやってきたのは突然音信不通になった兄の都合の為でもあった――
またもや告白作戦に失敗したジャックは肩を落として親友のマイケルの家までやってきた。
「そう落ち込むなよ。それより! ほら! このチューリップ! 可愛いだろ!」
「はぁ……ああ……綺麗だなぁ……」
「お前、何であんなギャング風の女子に夢中になるのさ? 俺だったら、もっと可愛いお花に夢中になるぞ? この可愛いチューリップのようなさ!」
「お前にとってはそいつが恋人だな」
「褒め言葉かよぉ! 照れるなぁ!」
マイケルは学校で少ない黒人男子だ。姓はジャクソンだが肥満な体型のそれはとても某大物歌手とイメージが違う。彼にとってもコンプレックスだった。だが、ジャックは独りで寂しそうにしている彼をほっとくことができずに声をかけた。それがキッカケで深い友情を結ぶようになったのだ。
彼女ともまたそうであった。それは昨年のクリスマスが迫った12月中旬の事。社会奉仕活動に精をだす母の手伝いをする為に地域の小学校をいくつか訪れた。そこでクリスマスツリーの設置や会場の装飾を手伝っていた。そこでジャックはアヴァとその活動を共にするひとときがあった。
「君はボランティア?」
「う~ん、気まぐれかな? パパがPTAで張り切っているから」
「そう、でもこの辺、すごくオシャレだね。君がやったの?」
「何となくだけど? センスあると思う?」
「うん! ジャックっていうよ。ジャック・マクブルームさ」
「マクブルームってPTA会長の?」
「あぁ~そうだね。お母さんの事を知ってくれているなんて」
そこでアヴァの父が「こっちに来てくれ」と彼女を呼んだ。その瞬間に「君は?」と彼女の名前をジャックは尋ねたが「また会えたら教えるわ」と彼女が言って、その場を去っていった――
その晩、ジャックは母と食事をしながら告白をした。
「お母さん、俺、好きな人ができちゃった」
「え?」
「好きな人ができちゃった」
「そう、どんな子?」
「黒人の女の子だよ」
「名前は?」
「聞きそびれちゃって……」
「そう、でも誰かを好きになるって素敵な事じゃない。また会えたときにお話ができたらいいわね。教えてくれてありがとう。あなたたちの恋が実ることを私は神に祈るわ」
「うん、ありがとう。でも、いいのかな?」
「何が?」
「俺が黒人の女子を好きになってさ……」
「何も問題ないわよ。あなた自身が誠実に彼女の事を好きであればきっと伝わる。私はそう信じているわよ? 違う?」
「うん、ありがとう。お母さん」
「うんと食べなさい。今日は御馳走よ?」
そんな昨年のクリスマスを経て間もない時、彼は目にしてしまったのだ。
アヴァと彼女が住んでいる家。そして彼女が家に入るその瞬間――
「やぁ! 君! 俺だよ!」
「えっ?」
「また会えたね! 会いたかった!」
「小学校で会った人?」
「そうそう!」
「でもこんな所で会うなんて」
そこでアヴァの父親が彼らと出くわした。彼はその日、上司からの嫌がらせをいつも以上に受けていた。その彼が冷静でいる筈もなかった。
「おい! 貴様! ウチの娘に何するつもりだ!」
かくしてジャックの初恋は散ったかのように思えた。しかし――
「神に祈ってチャレンジあるのみよ」
母の労わる言葉。
「マジかよ? どんな女だよ? 応援するから今度教えてくれよ!」
「僕も応援するよ! ゲイだけど!」
友の尋常ならぬ興味と関心。
ジャックのアタックする心は駆け上がっていくばかりになった――
しかしこんな事を続けてはや半年、1年と経った。
プロポーズし続ける事が町の名物とまで揶揄されるようになった時、彼の背後から声がした。
「おい、そこで何をしている!」
「声をかけているだけですよ!」
「黒人差別の声か?」
そこに立っていたのは大柄の黒人男性だった。洒落たスーツを着こなしており、まるで売人もしくはギャングのボスそのものだ。
ジャックは息を呑んだ。下手したらもう命も終わる。
そう思った時、彼が目にしたのは男が懐から取り出した警察手帳だった。
「メンデス・ワシントン、新米だ。この家の長男でもある」
「えっ、デンゼルじゃなくて……じゃなくてお兄さん!? 警察!?」
「訓練を受けていて転々としてな。やっとこの家に帰ってきた。で、噂は聞いているよ? ジャック・マクブルーム君?」
「そうなのですね……俺は彼女の事が好きで」
「ああ、それも聞いた。親父がカンカンになっているのだってね。君さ、もっとうまくアプローチしたらどうなの?」
「もっとうまくって……」
「君が今ここでしていることはまごうことなきストーカーだ。俺たちに被害届が届いたら、君はこの通りを歩くことすらできなくなる」
「諦めろということですか?」
メンデスは苦笑いしながら首を横に振った。
「違うよ」
「違う?」
「君にとって天敵なのはウチの親父だろう?」
「はい、言うなれば……」
「俺に考えがある。君に本物の勇気があればのらない手はないぞ?」
彼の微笑みは少し寒く感じる冬を少し暖かくしてくれたようだった。
アヴァは兄が実家に帰ってきたその時、近所のハンバーガーショップで親友のヤンとジャックの事を話していた。ヤンはアヴァたちよりもっと珍しいアジア系の家系に生まれた女子だ。
「ジャックの事が嫌いなの?」
「違うわよ! 違うわよ……」
「好きなの?」
「それは……」
「あなたがハッキリしないと何も変わらないわよ?」
「だから相談しているのでしょ……」
「私がいくら相談にのっても同じよ。あなたがどうしたいかで未来は決まるのよ。彼の気持ちに応じるかどうか金輪際決めなさい。私はその気持ちを応援するわ。あ、そういえばアヴァに渡したい物があったの。コレ」
「えっ?」
それはパーティのチケットだった。26日にダンス行事が行われるらしい。
「私、こういうのは苦手かなぁ」
「え? 凄く好きそうなのに?」
「ヤンが行けばいいじゃない?」
「私はアフターセールの買いだしで行けないのよ。それにここだけのハ・ナ・シ、あのジャックがくるって噂よ?」
「ええっ!?」
アヴァは結局そのチケットを貰う事にした。
その足で自宅に帰り、一人前の警察となった兄と再会した彼女はさらに驚く事に――
その晩、ジャックは母親に相談した。
「あの、お母さん、教えて欲しい事がある」
「どうしたの?」
「その……教えて欲しい……」
「だから何を?」
「社交ダンスってやつを……」
彼の母親は微笑んで「ええ、わかったわ。今度ね」と返事した。彼女はかつてそうした大会に数多く臨んだ経歴のあるダンサーだった。
しかし母は仕事に忙しかった。結局その日まで練習をする機会はなかった。
そして社交ダンスに完全ウブなジャックとアヴァが来る事に――
ヤンとメンデスが招待してきたパーティは中高年層の参加者が多い地域行事だ。そこにはジャックの母とアヴァの父も来ていた。何の偶然なのか、ヤンの両親は学校教師で二人ともメンデスの恩師にもあたっていた。
「隣、失礼してもいいですか?」
「ええ、これは会長様ですね?」
「もうただのおばさんです。昔はステージで頑張っていましたけども」
「私はからきしダメで。経験もないし」
「娘さんはステージに?」
「え? ああ、これも何か良い経験になると思って。私が相手でもしようか提案しましたけども、嫌がられちゃいました。ははは」
「そう、残念ね。実は私も息子に振られましてね」
「息子さんが参加されているのですか?」
「ええ、何でも気になるコがいるらしく」
「ほお」
「今日はそのコに最後の告白をするそうです」
「はっはっは! そりゃあ頑張って欲しいものですなぁ!」
「ええ、今日は笑顔でみとどけましょうか? ルイスさん」
ルイスはステージをみた。そこにアヴァとバディを組むジャックをみた。
ルイスは苦笑いをしながらも乾杯を捧げた。
「こういうのは初めてでよくわからないな」
「ええ、私も恥ずかしいわ」
「あの、ずっと気になったことを聞いていい?」
「いいわよ」
「君の名前は?」
「アヴァ・ワシントンよ」
「そっか、アヴァ、よろしく」
「ええ、ずっと、ずっとあなたと話してみたかった……」
マーヴィン・ゲイのナンバーがホールに響き渡る。
マーヴィン・ゲイで踊ろう。
マーヴィン・ゲイで踊りましょう。
この先の未来はあなたの想像するとおり――
∀・)読了ありがとうございました!なろう恋トラベル「現地オンリーで書いてみた3部作」をやりきりました!「なろう恋五輪」の規定に沿って今回は4000字縛りで書きましたね(笑)難しかったです(笑)ですが楽しかったです(笑)アヴァは多分『碧-aoi-』で服部碧を演じた女優さんが演じておられるのでしょうね(どういう妄想)。かなりポップ寄りで「アメリカなめんな」とか言われそうですけど、自由にさせてくださいよ。自由に書いていい小説なんだから。本作を読んで何を想って貰ってもイイですけど、僕が伝えたい事が伝われば幸いです。アメリカ大好きです!いつか遊びにいくぜ!カモンベイベ!アメリカ!お気軽に感想お待ちしております☆☆☆彡