助手は猫の手も借りたい
「ねえ、聞いてる!?」
机の上の猫は大きなあくびをしたが、若葉はそれを無視して話を続ける。
「お母さんのしつこさといったら、……もう!
思い出しただけで腹が立ってきた!!」
若葉は立ち上がり、猫の絵が描かれたコップにインスタントコーヒーとポットのお湯を入れ、スプーンでかき混ぜた。
「『若葉もいい年なんだから、早く良い男見つけな』って、見つけられるなら見つけてるわ!」
机の上の猫はぴくりとも動かない。
「『お母さんは若葉の幸せを願って言ってるのよ』って台詞も、もう聞き飽きた!
なにより、『若葉の同級生の伊織ちゃん、結婚して子ども産んだんだって! あぁ~、私も早く孫が見たいわ~~』って、友達と比較してくるのが一番むかつく!」
大量の砂糖とミルクが、コップに吸い込まれていく。
「しかも、孫が見たいって言葉、私のためじゃなくて完全に私欲から生まれた言葉だよね!
私だって子どものことはまだ考えられないけど、結婚はしたいと思ってるよ!!」
コップの中のコーヒーは既に原型をとどめていない。
「でもね、出会いがないの!
こう、燃えるような。ビビッとくるような」
猫が机から下りた。
「昨日の夜なんか、美咲から彼氏と別れたってラインが来たから、慰めに行ったのよ!
そしたら何が起きたと思う!?」
猫が大きな鏡の前でピンッと背筋を伸ばす。
「私が着いた10分後に美咲の彼氏が来て『美咲、やり直そう!』だって。
美咲の彼氏、付き合った記念日にサプライズを用意したから記念日を忘れたふりしてたらしいの。
そんなこと、さっさとばらせば良かったのに美咲の彼氏は頑として言わなかった。
どうしてだと思う?
そのサプライズ内容がプロポーズだったんだって。
でも、そのせいで別れたら意味が無いってことで、謝りに来た」
猫の体がどんどん膨れ上がっていく。
「そして、最悪なことに……。
彼氏、私の前でプロポーズしたのよ……」
いつの間にか、猫がいた場所には1人の男が立っていた。
「あの時の美咲の顔、とっても幸せそうだったなぁ……」
男はネクタイを整える。
「だからライト! 一瞬で良いから私の彼氏役やってくれない?」
「いやだね。人間に関わるとろくなことが無い」
「えぇ~、いいじゃん!
ライト、顔だけは良いんだからさぁ!!」
男が振り返る。
「お客様がくる。準備しろ」
「……はぁ~い。
あちっ!」
「お客様の前でみっともない姿は見せるなよ」
扉が開き、鈴の音がなる。
「ようこそ、怪異専門探偵事務所へ」