第三話、化け物
次話投稿っす!
2人が歩みを進める先には、見た事もない光景が広がっていた。
「ギーコギコ、ブッツンブツン、バラバラバラバラ、ブーチブチ…」
不快なリズムを口ずさみ、ニチャニチャと音を立てる男。
榊は息を呑みつつ、自動式拳銃を屈んでいる男の背中に向けて、引き金に指を入れる。
「動くな!!」
榊が叫ぶと、屈んでいる男はピタリと動きを止めて、ゆっくりと振り返る。
立ち上がった男は、2メートルを超える大男。
左手には一際大きな鉈。
右手には血が零れ落ちている被害者の右脚だった。
「お前らぁ…カップルか?カップルかぁ?」
大男は、白い歯を見せるように、ニタァっと笑う。
被害者は、全員恋人同士。
大男からは、榊達がカップルに見えるのだろう。
「まさかこいつが…」
榊は照準を頭に向ける。
「バラバラ殺人の犯人…?」
キリスは息を呑み込む。
一連の事件の犯人で間違いないだろう。
「武器を捨て、両足を着き、手を頭の上に乗せろ」
榊がそう命じると、大男は血がこびり付いた鉈をペロペロと舐める。
狂気じみた行動に腰が引けそうになったが力強く叫ぶ。
「動くな! 撃つぞ!!」
榊がそう叫ぶと、大男は動きを止めた。
力強く叫んだ声に驚いたのか。
しかし、違った。
「俺ぇの名前は、解体屋ザッパー…カップルを八つ裂きにするのが生き甲斐なんだぁよ」
大男は自らザッパーと名乗った。
そう…名乗ったのだ。
銃口を向けられているこの状況で。
薬物でも乱用しているのではないか。
話が通じそうにない。
榊の頭を過ぎった。
恐怖のあまり、ザッパーから目を離してしまう。
「榊巡査ッ!!」
キリスの劈く声に反応する。
目を離さなかったキリスはザッパーの動きを捉えていた。
榊が視線をザッパーに向けると、懐に入り込まれていた。
体格の割に俊敏な動きだ。
反応すら出来なかった。
「あ…」
鉈を振り下ろす状態だ。
誰でも分かる。
死ぬと。
斜めに振り上げるだろう鉈は、榊の身体を両断するに違いない。
パンパンッ!!
2発の乾いた音が鳴り響く。
キリスが引き金を弾いた音であった。
銃弾はザッパーの左脚に命中する。
日頃から射撃訓練を欠かさなかった、努力の賜物だ。
ザッパーの動きが止まり、榊はすかさず距離を取りキリスの隣で銃を構えた。
「ふ、ふ、ふざけるなよぉ…こんな玩具で…お前らも玩具を使うのかよぉ…」
ザッパーは身体を震わせて鉈を担ぐ。
血管が浮き出る程の形相。
何をしたいのか、さっぱり分からない。
(榊巡査、冷静に行くわよ…)
(いや…こいつは…)
キリスが耳打ちしたにも関わらず、榊は判断し、照準をザッパーの頭へと付ける。
「殺してやるぅ……!!」
パンッ。
「ぐぅ…!?」
ザッパーは身体を仰け反らせて地面に倒れた。
榊の放った銃弾は眉間に命中。
逮捕ではなく射殺したのだ。
「榊巡査!! 逮捕しなければ何も分からないでしょ!?」
「分かってる…だが、逮捕は無理だ」
逮捕が先決。
しかし、手錠を掛けた程度で、大人しくなる訳がない。
武装していた警察官達の四肢を容易くバラバラにする奴だ。
それに、2人だけで何とかなる状況じゃない。
「免職でも何でも受けるさ」
榊は銃を納めて、死体となったザッパーに近付いた。
その瞬間、
いきなり起き上がり、鉈を振り下ろした。
「く…!!」
榊はかわし、左腰に装備している警棒に手を掛ける。
拳銃を抜いても間に合わない。
警棒を正規の持ち方で、抜いたところで間に合わない。
「死ねぇッ!! 」
榊はザッパーの繰り出して来た斬り上げを、警棒を逆手のまま引き抜いた状態で右腕で押し当て鉈を受け流した。
その衝撃で押し飛ばされ、壁に激突。
背中には激痛が走り、呼吸が詰まる。
「ごほッ!?」
更に左腕が折れていた。
折れる程の衝撃、動かすのは無理に等しい。
「榊巡査!!」
キリスは、2発の銃弾を撃ち込む。
だが、ザッパーは鉈の側面で銃弾を弾き返し、1発はキリスの頬を掠め、血が滴り落ちる。
人間業を凌駕する化け物だ。
「キリス…逃げろ…!!」
榊が精一杯の声量で叫ぶ。
「でも…それじゃ、あなたが…」
「いいから…逃げろ!!」
榊は自動式拳銃を抜き、ザッパーの顔面に5発撃ち込む。
「ふごっぉぉ!?」
ザッパーがよろめいたかと思えば、満面の笑みをこちらに向ける。
銃弾を歯で噛み取っていた。
「化け物が…ッ!!」
銃弾を歯で噛むなんて聞いた事も、見た事もない。
一体何者なのか、榊の思考が巡る。
意志を持った次元生命体なのか、思考を巡らせる程、訳が分からなくなる。
「こいつぉ殺したら次はお前だからなぁ!!」
ザッパーは鉈を振り上げる。
「榊ッ!!」
榊の視界は、ゆっくりと進んで行くような体感に見舞われる。
ここまで読んで頂き、感謝っす!




