第一六話、|戦闘型自立駆動兵器《アンドロイド》
「おかしいな…人影ひとつない」
「もしかして、あっちじゃないかな?」
リクが指を差した方向は、路地裏の反対方向。
何やら騒がしい。
全員が顔を見合わせ、慎重にその場所へと進んで行くと、暴動が起きていた。
「人類の裏切り者め!」
「死んじまえ!!」
ヘルメットを被る者、タオルを口に巻き付けた者、それぞれが、投石や火炎瓶を、大楯を構え武装した兵士達に投げ付けていた。
「あれがレジスタンスか?」
榊が攻撃している民衆達に目を向ける。
ざっと見ただけでも数百人はいた。
先程、知り得た情報の通りなら、レジスタンスで間違いはないのだろうが…。
大楯を構えた兵士達の後ろには、一際大きな高層ビル、|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》と刻まれている。
大盾を構えている兵士達は、警備隊らしい。
『直ちに攻撃を中止しなさい! さもなくば、こちらは武力行使に移行する』
拡声器を持った兵士が忠告するが、民衆達は聞く耳を持たず。
「うるせぇッ!! 引っ込め警備隊!」
「これでもくらえッ!!」
次の瞬間、警備隊の一角で大爆発が起こる。
民衆の誰かが爆弾を投擲したのだ。
警備隊の一部が宙を舞う程の威力に、他の警備隊が後ずさる。
あれが、自分に当たっていたのなら、確実に死んでいただろうと、恐怖したのだ。
『こんのぉ…ッ! 全員確保しろッ!!』
警備隊の一人が恐怖を還りみず、拡声器で怒鳴ると、他の警備隊達が我に返り大楯を構え、警棒を抜き、民衆達へと突撃して行く。
「「おおおおおおおおッッ!!」」
すると、民衆達は逃げるのかと思いきや、逆に立ち向かっていく。
「裏切り者を許すな!」
「押し返せ!!」
警備隊と揉み合いになる始末だ。
「思った以上に治安が悪いな」
榊達は、路地裏に身を潜める。
「戦ってるのは、人間同士だぜ? 戦闘型自立駆動兵器達は、何処にいるんだよ」
カインが率直な疑問を述べると、リクが|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》の入り口を指で示しながら、
「あれじゃない?」
と答える。
※※※※※
|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》入り口からは、分厚い装甲を纏い、二足歩行する人型が20体程姿を現し、横一列に隊列を組む。
身長は2メートルを優に超え、腰には両刃のブレードを携え、右手には機関銃を、左手には大楯を装備している。
動作は鈍く、単調であり、人間ではないと判断した。
「出て来たぞ! 鉄クズ共に味あわせてやれ!」
民衆の一人が叫ぶと、ランチャーを抱えた民衆達が膝を着いて構える。
「奴ら…あんなものまで…ッ! 退けッ退けェッ!!」
警備隊が驚いたのは、民衆達の武装にだ。
慌てて、戦闘型自立駆動兵器達の後方へと逃げ帰る。
民衆達も、勝算がないわけではない。
過去にも、この兵器で、戦闘型自立駆動兵器を撃退した事があるため、強気に出れるのだ。
「撃てッ!!」
民衆達がランチャーの引き金を引き、ロケット弾が発射されると戦闘型自立駆動兵器達の隊列に直撃。
爆風が吹き荒れる。
「ざまぁみやがれッ」
「人間様の力を思い知ったかッ!!」
民衆達は歓声を上げて、一人の民衆がライフルを掲げて叫ぶ。
「このまま、|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》を落とす! 俺に続けッ!」
雄叫びとともに、扇動された民衆達が|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》に向けて走り出すと、一人の市民が慌てた様子で叫ぶ。
「様子がおかしい! あれを見ろ!」
民衆達が足を止め、黒煙が上がる|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》の入り口に目を向けた。
すると、横一列に丸い光が点る。
それは、戦闘型自立駆動兵器達に内蔵された視覚センサーだった。
「馬鹿なッ!! 戦車を吹き飛ばす威力だぞ!?」
民衆達は、驚きを顕にし、恐怖さえ覚える。
戦車の装甲すら破壊するロケット弾を受けて、無傷だからだ。
『戦闘行為ヲ確認。対象ヲ認識。リスト照合』
機械音声を発し、視覚センサーで民衆達を内蔵されたデータと照らし合わせていく。
『違法武器所持並ビニ使用ヲ確認。敵意認識、285人。照合結果…』
戦闘型自立駆動兵器達は、大楯を構えながら、機関銃を民衆達へと向ける。
『コード・レッド。【レジスタンス】126名を確認、対象ト共二殲滅シマス』
戦闘型自立駆動兵器達は、容赦なく民衆達へと銃撃する。
「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
断末魔が響き渡り、血飛沫が飛び交う。
路面は雨で濡れており、血溜まりが辺りにあっという間に広がっていく。
立ち向かい応戦する者、逃げ惑う者も、関係なく銃撃しながら進む。
『排除、排除、排除…』
転がる死体を踏み潰しながら、民衆達を屍へと変えていく。
最早、虐殺だ。
「うわぁぁぁん…ママ…! パパ…!」
銃を握り締めた両親の亡骸の前で、小さな女の子が泣いていた。
戦闘型自立駆動兵器の1体が女の子の前で足を止める。
機関銃を女の子へと向けた。
「助けるぞ!」
榊が飛び出そうとした瞬間、カインが首に手を回して制止する。
「…離せッ!」
「落ち着け…このまま出ちまえば、俺らも殺されるぞ!」
すると、
『認識、コード・グリーン。対象二、アラズ。コチラ、14番機。少女ガ戦闘区域二侵入。至急、保護ノ必要アリ』
女の子を戦闘型自立駆動兵器が担ぎ、銃撃戦が繰り広げられているその場から離れていく。
「どうなってるんだ…?」
榊は困惑する。
明らかに殺されると思ったからだ。
「子供は殺さないって事か?」
榊がキリス達の方に振り向くと、身構えていた。
「榊!!」
キリスが自動式拳銃の銃口を榊へ向ける。
後ろへ視線を移すと、戦闘型自立駆動兵器の1体が機関銃を構えていた。
「ま、待て! キリスッ!!」
榊が叫ぶと、キリスは銃口を下ろした。
「武器も捨てろ」
「でも…」
「いいから!」
キリスは、自動式拳銃を地面に捨てる。
敵の目の前で武器を捨てるという事は、完全に自殺行為に見えるだろう。
しかし、榊は戦闘型自立駆動兵器達の動きを見て、咄嗟に判断を下した。
リク達は、念の為に身構えている。
『照合結果、市民リスト該当ナシ、対象リスト該当ナシ、戦闘ノ意思ナシ、コード・グリーン。コチラ、5番機、民間人ノ保護要請。戦闘区域ノ離脱許可請ウ』
戦闘型自立駆動兵器は、榊達に話し掛ける。
『ココハ、戦闘区域。安全地帯マデ、案内スル』
戦闘型自立駆動兵器は、ゆっくりと|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》へ向けて歩き出した。
榊達も後に続く。
「どうなってるんだよ」
カインは、榊に尋ねる。
「あいつら、女の子を保護しただろ? もしかして、攻撃対象以外は、保護するようにプログラムされてるんじゃないかって思ったんだ」
「って事はよ?」
「俺達は、この世界じゃ"来訪者"だ。奴らの言う【レジスタンス】でもない。武器を持ってたとしても…捨てた事によって敵じゃないって判断したんだ」
あくまで憶測ではあるが、榊の判断は的を得ていた。
「流石、榊ね」
キリスが肩を叩く。
「これで、|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》の内情が知れるだろ」
榊達は、戦闘型自立駆動兵器に連れられ、|ヴァリアブル・フロントライン《VF社》に足を踏み入れた。




