表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

存在しない廃駅

作者: ニビ

 10年ぶりに立ち入るその山は相変わらず荒れていた。かろうじて残されている道以外は何かしら植物が好き放題に生えている。ときおり視界のはしに壊れた電化製品がうつり、こんなところにゴミを捨てに来る人間がいるんだな、と他人事のように思った。

歩くうちに傾斜がきつくなってきた。汗をぬぐいつつ幼いころの記憶を頼りに道なき道を進む。獣道に覆いかぶさっているクマザサの緑と白が目に痛かった。

友人からいつもの探索レポートが送られてきたのは一週間前のことだった。思いついたように秘境駅や廃線などに行く彼は「お前の地元に行ってきた」と銘打ってそのレポートを送信してきた。そういったものに詳しくない私は彼からのレポートを興味深く読んで返信した。「レポート、面白かったよ。誰もいない民家がいくつも見える廃駅なんてあの山にあったんだな。知らなかった」

「地元のやつほどそういうのは知らないものだよな。朽ちかけていたけど、どれも山の中とは思えないほど立派な家だったよ。今週末また行こうと思ってる」という彼からのメールを最後に、連絡は途絶えた。

 ようやく坂道が終わり、視界が開けた。山の中腹あたりの空き地についたようだった。がくがくする膝に手を置いて息を整える。ふくらはぎの位置まで伸びる丈の高い草が鬱陶しい。ぬるい風が吹き抜けてさらに不快感が増した。


 廃駅、そんなものはこの山にはなかった。

この山で遊んでいたときも見た覚えはないし、図書館で郷土資料を漁っても線路が通っていた記録など出てこなかった。ましてや自分の記憶ではこの山には誰も住んでいない。民家などあるはずもない。

大きく息を吐いて軽く伸びをした。彼が見たものはなんだったのだろう、と考えてみる。連絡がとれない彼はどこに行ったのだろうか。

今来た道を下りようと振り返る。風がやんだ一瞬、遠くで汽笛が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ