ババ様とお散歩
精霊の姫なんて言われても中身はおっさんです。
「さあのぉ、なんじゃったかのぉ」ババ様は自分たちの名前は忘れてしまったという。そんなことあるのか・・・、って俺も名前分らないんだった。
「ここんところ、誰も名で呼んでこんからのぉ」だから忘れたのだそうだ。ここんところって何年なんだろ、疑問はあるけど横に置いておこう。
「そういえば、昔から名で呼ばれることなど無かったような気もするのぉ」
その時その時の役割で呼ばれていたから、名など無かったのかもといいだした。子供の時は姫と呼ばれ、嫁いでからは奥だの嫁御だのお方様だ。ゲイルにも母上としか呼ばれなかった。現在はババ様、竹取んとこのババ様って感じだそうだ。
あれ、ババ様っていいとこのお嬢様だったの?、目鼻立ちの整った美人だし、なんとなくおっとりと気品がある。
まつ毛長いなぁ。
ババ様を手をつないで歩きながらじっと見てしまう。
ババ様はほとんど白くなった髪を後ろに束ねている、腰くらいはあるのか長い髪だ、しかしババ様若いよな、しわもないし20代後半?お姉さん?、着物姿だからよくは判らないけど細身で余計な脂肪もついて無いようで、重力にもまだまだ負けてない。お尻もプリッとしてそうだ。うわぁ、いい女なんだなあと思うと手をつないでいるのが少してれくさくなった。
ババ様はたまにこちらに顔を向けては、嬉しそうに笑みを浮かべている。
かわいい。
俺もババ様と目が合うとにやけてしまう。子供の姿としてはまずい顔してんじゃないか?おっさんが若い子の手を握ってニヤニヤしてる、そんな顔になってないか?。でも止まらない、だってババ様可愛いし綺麗だしスタイルいいし、何ならちょっといいにおいするし。
「姫はかわいいのぉ、何やら婆は姫の顔を見るだけで幸せになるのぉ」
よかった、俺のニヤニヤは可愛く見えてる。それにババ様俺に惚れてる?やべぇ両思いだ。なんだかデート気分で隣家までの道を歩く。
隣家に行くにはまだまだかかりそうだ、デート気分で楽しく歩いていたが、少々飽きてきた。いや、ババ様には飽きてないよ、ただ歩くのにだ。喫茶店があるわけでも景色がいいわけでもない、デートには不向きな道のりだ。
とにかく何にもない、草がまばらに生えているくらいで辺りには何もない。道の先には家らしき建物も見えるのだけど、遠い。振り返れば山を背にしてババ様の家が見えるがこっちも遠い。結構歩いたのだな、どのくらいの時間がたっているのかはデート気分の俺にはわからない。特に疲れも感じないのは不思議だ。今は子供の体だ、子供なんてこんなに歩けるのか?、もう歩けないとか抱っこしろとか言い出す距離じゃないかな。そうだな、ここは子供らしくババ様に抱っこをせがむべきか、いや頑張って歩いて褒められるべきか。
ババ様に抱き着くという欲望に負け、抱っこしてくれと言いだすタイミングを伺っていたら、ババ様に先に声をかけられた。
「桃姫様よ、まだ歩けるかのぉ。昨日生まれたばかりの姫にはちと遠かったかのぉ」よし抱っこチャンスだ!。
「そうですね、ババ様と歩くのは楽しいので疲れた気はしませんけど」
しまった、大好きなババ様と言うべきだった。じゃなくって抱っこしてくれっていうの忘れた。このままではここで一休みってことになってしまう。
「婆が運んで進ぜようかのぉ、駆けていけばすぐじゃしのぉ」
おお、俺の思いが通じた。けど、え?、駆けてくの?。
ババ様は左手に持った大ナタを見て目をぱちくりさせている。抱っこするには邪魔だよね、ここまでは日傘でもさすみたいに肩に引っかけて歩いてきたけど、さすがに俺を抱っこしたら持ってられないだろう。かといってこの辺に置いていくのはまずいだろう、これを返すのも隣家に行く目的の一つだし。
しかしババ様軽々と持ってんな、大ナタって言ってるけど刃渡りは俺の伸長くらいある、ナタっていうより切っ先のないバスターソード?、それを片手でひらひらさせてる。
「ババ様、歩きますよ、あのお家ですよね」
ババ様に抱っこされたいのはやまやまだが甘えすぎてもいかんと思い、遠くに見える家を指して聞いてみる。
「そうじゃ、そうじゃあのお家じゃ。姫は賢いし優しいのぉ」
俺が気を使ったのが分かったのか嬉しそうに頭をなでてくる。
「なに、6ポ位じゃから駆けた方が早いし、これは投げればよかろう」
”ポ”って距離の単位かな?そういえばここの単位系が分からんな、またジジ様に聞いてみよう。
「姫様ちょっとこう持っててくれんか」
大ナタを立てて地面におろし柄のところを持って支える。やっぱりすごい重たいんじゃないかこれ、下手に斜めにすると体がもってかれるか潰れるぞ。
大ナタをまっすぐに支えるのに集中してたら、さっとババ様が大ナタを引き取ってくれた。
「さて、姫様よ。婆の後ろに回ってのぉ、合図で背に飛び乗ってくれんかのぉ」
ああ、抱っこじゃなくてオンブか・・・。てか、ババ様、着物の端をまくり上げてるよ、生足が!生腿が!・・・・。なんかよくわからん興奮のせいか俺は目を見開いてババ様の美脚を凝視した。ガン見だ。
「ちとはしたないが駆けるにはこうせんと足が動かんからのぉ、さあはよ後ろに」
俺の様子は特に気にしてないようだ。遠慮なくババ様の美脚をガン見したまま後ろにまわる。はあぁっ!ババ様の美尻が目の前に。今度はババ様のお尻にロックオンだ。端折った裾から生尻が見えるわけでもないのだがドキドキする。
「いいかの、これを今から投げるからのぉ、ホレと言ったら飛び乗ってくださいのぉ。飛び乗ったらしっかり婆に掴まってくだされのぉ」
俺はババ様の尻に集中してたが、ブン、ブンと音がし始めそちらに目が行く。
ババ様は大ナタをぐるぐるブンブン振り回してる。
「投げる?」
ババ様の美脚やら美尻に惑わされて、なんか聞き流していた言葉がよぎる。
「そろ、そろ、いくでのぉ、ほ~い!」
あ、ほんとに投げた。大丈夫か人とか落ちた先になんかあったら・・・。
「ホレ」
合図が来たので慌ててしゃがんだババ様の背に突っ込っで掴まるとババ様の手が俺の脚をもってを支えてくれた。背に乗った瞬間なんとなく目をつぶってしまったが、正解だったと思う。ふわっとしたり背に押し付けられるような感覚が数回繰り返し止まった。ジェットコースターのアップダウンみたい、こんな激しいのはないと思うが。
「おおちょうどよいのぉ」
ババ様の声に、何がちょうどいいのか目を開けると大ナタが飛んでくる。
「姫様降ろしますのぉ」
俺を背から降ろすと、ババ様は軽く飛び上がりブンブン言いながら飛んでる大ナタを簡単にキャッチした。
「ババ様すげぇ」
俺はババ様の凄さに軽く腰を抜かした。
「大丈夫かのぉ、姫様」
ババ様の手を借り立ってみる、少し脚が笑ってら。
「ちょっと婆が張り切りすぎて、驚かせたかのぉ」
ババ様も少し笑ってる。
「婆も歳じゃの、6歩じゃなくて7歩になったのぉ」
ああ、距離の単位じゃなくて歩数だったのね・・・すげえな。結構な距離を数歩で移動って、もう隣家の門の前にいる。さっき小さく見えてた家は結構大きな屋敷だぜ、ジジ様ババ様のお家の倍いや2倍?とにかくでっかい。
ババ様の凄さやお屋敷の大きさに口を開けて惚けているうちに、俺の浴衣をたたいて埃を落としたり捲った裾を直したりババ様は身支度を整え終えて。
「さて、ゴンザはおるかのぉ」
ババ様は門の中に声をかけていた。