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爺様の話-1

ジジ様視点で書いてみました。

わしは竹取として暮らしている。長年連れ添った婆様と田舎暮らしを満喫中じゃ。

朝飯の後はすぐに山に入り竹を取ったりタケノコを掘ったりキノコを取ったりして昼には家に戻る。家に戻れば山でとってきたものを加工したり、愛する婆様の畑を手伝ったり、洗濯もするの。愛しい婆様はいつ見てもわしの心を鷲掴みじゃから、何でもしてあげたくなってついつい婆様の仕事を横取りしてしまうから、よくしかられるの。怒った顔も愛らしいく愛おしいのじゃ。

しかし、あんまり婆様を構いすぎると、作ったものを売りに行けと家を出される。婆様のいる家を離れるのは寂しいし、作った物を売っても売らんでも何にも変わらん、隠居費用はまだまだ余裕があるのにの。ああ、部屋が片付くと言っておったか。

わしは案外器用での、竹細工で作れるもんは大体作れるし、売りに行けば即完売じゃの。一時期、笠を作るのにハマって山ほどこさえて持ってったが、町の連中はそんなに使わんだろうに完売したの、冬の雪が降る日じゃったのに、自分の笠まで売ってしまったわい。売れ残ったら村のはずれの六地蔵にでも掛けてやろうかと思っとたのにの。

今は大体こんな感じでのんびり暮らしておる。おかげで、周りはわしの名前なんぞ覚えておらん、竹取の爺で通じるからの。愛する婆様もわし同様に竹取んとこの婆で通じる。わしら同士も爺様、婆様ですませておる。


わしら夫婦には子供がおらん、子がおらんから孫がおらん。孫がおらんから子供から爺様とか呼ばれたことはないの、婆様もそうじゃ。

いや、子はおったか。縁者からもらって養子にしたのがゲイルじゃったの。

あやつは小さいころから利発で賢い子じゃったが、懐かんかったの。それでも婆様はあれやこれや世話をして楽しそうじゃった。楽しそうな婆様は見ていいるだけで幸せになる。じゃのにあやつは婆様にも歯向かうようになって、好きにさせろだの何のと言って婆様を泣かせおった。

そんなに言うなら全部自分でやってみいと、さっさとあやつに家督を譲って、あの頃いろいろあった面倒ごとも擦り付けてやった。そのままわしは婆様を連れてこの村に隠居したのじゃ。隠しておいた隠居資金はしっかり持ってこれたし、あやつには居場所はわからんようにした、探しもせんだろうけど一応じゃの。隠居してゲイルのことは忘れることにしたんじゃったが、ほんとに忘れておった、わしはの。


そうじゃ、わしらを爺様、婆様と呼ぶ子が急に昨日現れたのじゃった。現れたというか生まれたというか不思議なお子じゃ。その子に着せる浴衣を婆様が出してきて、わしはゲイルの名を久々に聞いたのじゃ。

婆様はゲイルが子供の時の浴衣を大事にしていたのじゃな。

ゲイルに会いたいか婆様に聞いてみなけりゃならんの。


そうじゃそうじゃ、その不思議なお子のことよ。昨日は竹取に山に行ったんじゃが、夏の盛りじゃろ、暑くての、早めに山を下りてきての、さて婆様の洗濯の手伝でもしようかと思案しながら家の裏手の川のとこまできたらの、渡しの板に丸っこいもんがガツガツ当たっておった。おっきな桃じゃった。

山の上から流れてきたにしては傷みもないきれいな桃じゃ、板に何度も当たっておったから多少潰れたりしておるだろうが、食いではたんとありそうでの、よだれが出たわい。

婆様も桃が好きじゃから、これは喜ぶじゃろうと井戸端で洗濯する婆様に見せに持って行ったんじゃが怒られた。

そんな重そうなもん一人で持つなと、腰いわしたらどうすんのかと。

わしはちょっと褒めてほしくなっての、ひと抱えある桃じゃがわしには軽いと、片手でぽんぽん投げ上げて見せての、どうじゃ若いもんにも負けんじゃろと言ってみたらの、食べ物で遊ぶなとまた怒られた。

落としたらもったいない、桃は傷みやすいからそっと持たねば、一人ではなく筵にでものせて4~5人で持たねば・・・。いろいろ言われたの。

どこにそんな桃が成っとったのかと聞かれたが、川に浮いとったから知らんというと、今度山に探しに行かねばと、川を上れば成っている場所が分かるじゃろうとウキウキし始めた。一通り叱り終わったからかの。

桃じゃ桃じゃ大桃じゃと浮かれる婆様はやっぱりかわいいの。数日中にでも川沿いに山に登って大桃の木を探してみることにしようかのと思案しとったが、いつまでも桃を持っているわけにもいかん。

踊りだしそうな婆様に、まずはこの桃が食えるのか試さねばのと、家の中に運んで桃を切ってみることにしたのじゃ。じゃがの、まな板には乗り切らんし、土間には置きたくないので板の間に延し板を敷いてそこで何とかしよう、という事になっての、桃を置いて包丁を入れようとしたんじゃが婆様の力では刃が入らん、わしがやっても無理じゃった。それなら竹細工なんかに使っておったナタでと試したがこれもダメじゃった。婆様が隣家で大ナタを借りてくると出かけて行った。意地でもこの桃を食う気じゃの、じゃがこれ桃なのかの、よく見るとどこにも傷がない。ガツガツ音を立てて渡し板にあたっていたんじゃぞ、ナタを振っても弾かれていおったし、わしが本気で大ナタを振るえば丸太でもスッパリ断ち切れるはずじゃが刃のほうが欠けるかもしれんの。

軽く拳でたたいてみたら、空気が漏れるような音と人の声が聞こえた。

『言語調整完了、羊水排出完了、開きます』

なんじゃ喋りおった。惚けておると、桃に縦に切れ目が途中まで入ったと思ったら今度は横に切れ目が入った。切れ目の通りに開いていきおった。

桃が開くと中に子供がいるのが分かったのじゃが、桃がしゃべったり割れたりで驚きすぎて、お子から声をかけられるまであまり覚えがない、婆様が帰ってきていたのも知らんかった。

”しゃわ”とかなんかいっておったが体についたネチョネチョを取りたいようだったので、わしは風呂の用意をすることにして板の間を出た、婆様はとりあえず体を拭ってやるようだったの。

風呂は、井戸守に水を用意させ、家守に湯を沸かすよう命令すれば済んでしまうからの、廊下をうろうろして気を落ち着かせていたら、婆様がゲイルの浴衣がどうとか言っているのが聞こえた。板の間に戻ったらお子はゲイルの子供の頃の浴衣を着て座っていた。見た感じとても可愛らしくも美しい顔立ちだの、髪の色はネチョネチョがついていてよくわからんが緑色なのかの、いくつ位なのじゃろ、5歳か6歳くらいかの、ゲイルがうちに来た頃より体が小さいくらいじゃからそんなところじゃろう。

お子の姿からヒトではないことが分かった、ヒトなら角があるはずじゃしの。

手はネチョネチョが付いたが、頭をなでて確認済みじゃ、小さな角もない。

そういえば、昔何かの本で精霊様が子供の姿でこの世にお運びになることがあると読んだことがあったの、このお子は精霊のお子じゃろう。

婆様はもう精霊のお子に夢中のようじゃが、わしは桃がちょっと気になっておった、やっぱり食えんのかの。お子には洗うと言って風呂場に持って行って端っこを噛んでみたが食えんかった、ネチョネチョの何とも言えない味が口の中に広がっただけだ。ふろの湯も沸いてきたので、桃に湯をかけネチョネチョを洗い流して端に置いておく、なんじゃろのこの桃。

お子に風呂に入ってもらっている間に婆様とお子は精霊のお子じゃなかろうかと話して、桃は齧って見たが食えんかったと言ったら怒られてしまったわい。精霊のお子の持ち物を壊したらどうするのかと。

風呂から上がったお子はどこかのお姫様のようじゃった、髪はやはり濃い緑色でさらさらじゃし、おかっぱ頭じゃが気品があってが笑うと愛らしいの。

飯を食った後、お子に名を聞いたら知らないらしいので、桃から生まれたのだから桃姫としたら少し戸惑っていたようじゃ、お子は自分が男の子だと思っていた節があるが、男の印がないのだから姫でよいじゃろ。それにこんなに綺麗な男はおらん。

一晩経って今朝は色々話した。桃姫はいい子じゃ、精霊のお子じゃろうがとってもいい子じゃ。どうしてあげたらいいか寺の坊主に相談しに行こうかの。

このまま、うちの子としていてもらえばいいのじゃが、精霊のお子となると何かお役目があるのやもしれんしの。

その時は精一杯、桃姫のお役に立ってやろうの。

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