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桃から生まれた

ゆっくりです

脱衣場には下着(だよな?)と浴衣が置いてあったので着てみる。

ひもパンというかふんどしというか、幅50センチ長さ80センチくらいの布の端に2本紐がついてるだけだからふんどしかな。布を前に充てて、紐をぐるっと体に回して結わえて、垂れた布を後ろの紐をくぐらせて引っ張って装着。

「まあ、こんな感じでいいだろう。肌着はこれ金太郎がしてるやつだな」

なんとか腹布?(なんて言うんだこれ)をつけたところで女の人が顔をのぞかせる。

「ほう、ほう、えらいのぅ、ご自分でつけられたか。」

そういいつつ、ちゃんと着れてるかチェックされる。

「腹掛けはいいが下履きは後ろ前じゃな。どれババが直して進ぜよう」

本人が自分をババと言ってるから、ババ様と呼ぼう、おばさんって歳にも見えないし、ましてやおばあさんでもない。ババさんよりババ様のほうがなんか響きがいい気がする、うん、そうしよう。

ババ様はニコニコしながらふんどしを直してくれる。

余った布は前に垂らすのか、なるほどこっちのほうが小便をしやすいのか・・・。ちんちん無いけど俺はどこからおしっこするんだ?。

ババ様浴衣も着せてくれる。

「さっぱりしたかの、よしよし、ええ子じゃの。さあ飯にしましょうのぉ」

ババ様に手を引かれ、さっきの板の間に行く。

お膳のようなものが三つ並べられそこに食事が並べられている。

一汁三菜かな、みそ汁(だと思う)とご飯(多分米)、おかずは野菜の何かと木の実の何かと魚かな。

「米はたんと炊いてあるからの、さあお食べなされ」

俺はお膳の前に座らされ、ババ様が箸をとってくれる。

おじさんとババ様は向かい合うように座り、その側面に俺が座っている。

実はずっと現実感がないままの俺は、箸を持ったまま、これって夢にしてははっきりしすぎだよなと思いながら二人をうかがっていると。

「どうなされた、どうぞ召し上がれませ」とおじさんが進めてくる。

「箸が使えませんのかの、匙でも持ってこようかの」おばさんは俺が箸が使えないのかと立ち上がりかけたので声をかける。

「いいえ、このままで。何から何までありがとうございます。遠慮なくごちそうになります」

とりあえず、食事をいただくことにした。

「いただきます」汁を飲んでみる。ん、やっぱりみそ汁?いやしょうゆ汁?。

俺にはよくわからないが、塩気と出汁がきいた茶色い汁としか言えない。

俺が汁の正体を探っている様子が気になったのか、

「口に合わんかったかの」とババ様が聞いてくる。

「いえ、おいしゅうございます」

どこかの料理評論家のおばさまのような受け答えをしてしまった。丁寧に話そうと思うとおかしな口調になってしまう。そんな俺を二人はよかったよかったとニコニコと優しい顔を向けてくれる。

「この汁は?」と聞いてみると

「それはのう、みそ汁と申しましてな、今日はだいこっ葉のじゃの」

おじさんはうまそうにみそ汁を口にする。やっぱりみそ汁なんだ、じゃあ日本なのかな。ここは日本の田舎って感じだろうか。

ごはんは少し茶色っぽいが白米っぽいし、野菜はニンジンとほうれん草の炒めたもののようだし、木の実っぽいのは梅干しのような味だった。ただ魚は魚じゃなかった。イワシとかの普通の焼き魚かと思って身をほぐしたら、骨はなく種が出てきた。身だけ食べてみたら触感や味は魚だった。

「あれ、種は苦手かの。実と一緒に食べたらうまいのじゃがの」

「わしは、種だけでも好きじゃから食べて進ぜようの」

おじさんはひょいと箸を伸ばして俺の膳から魚?の種を取って口に入れる。

「うん辛い、うまい」どうやら種は辛いらしい。

「身と一緒に食べてみます」俺も身と種を一緒に食べてみる。確かにうまい。

種は辛い大根おろしのような味だった。お膳のご飯は美味しくたいらげた。


「でな、お子よ。お子は名はあるのかの」

おじさんが食後のまったりした空間を切り裂くように聞いてきた。

俺は正直に名前を名乗ろうと思ったが、名乗る名前が出てこない。

「?。忘れた?」思わずつぶやくと。

「そうか、忘れたのかの。やはり精霊のお子かもしれんの」なんか納得している。俺って精霊なのか?、人間だったと思うんだけど。

これは転生ってやつなのか?。どうやら子供になってるみたいだし、夢というには現実味がすごいし、生まれ変わったのか?・・・。いつの間に死んだニートの俺、突然死ってことか、健全な生活とは言えなかったしな。

考え込んでいるとババ様が。

「名無しでは呼びづらいのぉ、桃から生まれてきおったから桃の精霊様なのかのぉ」

ん?桃から生まれた?出てきたんじゃなくて?。桃から生まれたら桃太郎じゃね。鬼退治すんのか俺。

「わしらのように角もないしの、人ではあるまいよ」

「そうじゃのぉ、角もないしこれだけ可愛らしく美しいお子は精霊様じゃろのぉ」

二人とも頭巾をかぶっているから、角なんて見えない。

「角あるの?」思わずこぼすと。二人は頭巾をとって見せてくれた。

二人の頭のてっぺんに角があった。ババ様はさっさと頭巾をかぶり直し膳を下げ始めた。

「触ってみてもいいですか?」部屋に残ったおじさんに聞いてみる。本当に生えてるのか作り物かどうなってるのか気になって角をまじまじと見ていたからか、おじさんは笑って、

「ええぞぉ、そっとじゃぞぉ」といって俺の手を取り自分の角に触らせてくれる。

「なんか温かいね」角だねこれ、生えてるは。

え、俺が桃太郎でおじさんたちが鬼って。ここで暴れたらこの夢終わるのかな。

だけど、風呂に入れてくれたり、おいしいご飯を頂いた家で暴れるなんてできんな。角の確認を終えた俺はおとなしくおじさんの話を聞くことにした。


「さてさて、お子を精霊様を何と呼ぶかじゃったの」おじさんは話を戻しつつ頭巾をかぶる。

「オレは何と呼ばれてもかまいませんよ。桃太郎でも金太郎でも」

「お子はオノコではないから桃姫かの、金はどこから出てきたのか?、名を思い出されたのかの?」

「いや、なんとなくです」

桃姫って、ひげのおじさん兄弟に助けられるのか俺。てか、やっぱ男じゃないんだな。自分の声が女の子ぽいなぁとも思っていた、可愛いとか美しいとか言われてたし・・・・。

ちんちん無いし・・・。

いや女の子でもないだろ、ツンツリンだったし。マネキン人形の股間のように見事に何もなかった。乳首もないしへそもない。

人でもないなこれ、精霊ってのが俺のような体なら精霊なんだろ。

「あの、おじさん」

「わしのことはジジとお呼びくだされ。しがない竹取の爺ですからの」

え、竹取の翁ですか・・・。えっと俺は桃太郎じゃなくて桃姫じゃなくてかぐや姫か?。でも竹から生まれてないし、なんだろ。やっぱ夢なんじゃないか?。まいいかとりあえず横に置いておこう。

「ジジ様は精霊を見たことがあるのですか?」音は同じだけど俺的には同年代のおじさんを爺とは呼びたくない、まあ頭の中の話だけど。


とにかく、俺が何なのか一応知っておきたいから精霊について聞いてみた。

「爺は見たことはありませんの。近所の寺の坊主が説法で精霊様のことを聞きかじっただけですの」

何やら悪いことをしたら地獄に落ちるって話と生まれ変わりの話らしい。

その話の中で精霊は天界に暮らすがたまに人界に生まれることがあるらしいと聞いたのだそうだ。だから精霊がどんな姿かたちをしているかは知らない、だけど俺の見てくれや生まれ方は精霊に違いないとジジ様は確信しているようだ。

「呼び方はきまったのかのぉ?」ババ様が片付けから戻ってきた。

「桃から生まれた桃姫様との、しようかと思うとる」

「桃姫様のぉ。良いお名じゃのぉ」

もともと俺は自分が大人になり切れていないと思っていて、中学生くらいから成長してないと思ってた。体が精神年齢に合わせて戻ったようなもんだ。よし、俺は子供だ。

「ジジ様、ババ様、これからは桃と名乗りまする」なんかしゃべり方がおかしいような気もするけど、成りきっていこう。

「おうおう、かわいらしいの、桃姫様」

「うんうん、ほんにかわらしいのぉ、こうなるときれいな着物を用意せにゃ」

二人は孫を見るような顔で嬉しそうにしている。

明日には着物を集めてくるそうだ、ついでに寺の坊主にも会ってくるとのこと。

あんまり俺のこと触れ回ってほしくはないけど、まあいいかそのうちこの夢も覚めて断片的な記憶になるんだろう。


ジジ様とババ様が風呂を上がるともう寝る時間らしい。いつもは取ってきた竹で細工をしたりするらしいが、俺があくびをかみ殺しているのを見て寝ることにしたようだ。

二人の布団に一緒に入って、横になるとすぐ眠気が押し寄せてきた。

眠りにつきながら、隣でジジ様が布団に入って手を二回たたいていたのを聞いたような気がする。



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