続編15 喧嘩
コカトリス討伐から王国の役者内でも有名になったオレ達月華の竜は、他の冒険者達からも話しかけられる事が多くなった。
この役所でも美人揃いの凄腕冒険者パーティーとして名の知れたミッキー。
ミッキーは女性冒険者達の憧れであり、常に羨望の眼差しを向けられている。
男性冒険者達からも人気が高く、ファンクラブのようなパーティーもあるそうだ。
そんな超有名パーティーが絶賛するパーティーとなったのだ。
噂が噂を呼んでいろいろとオレ達の知らない月華の冒険譚が語られているらしい。
ただフレデリカがオレを勇飛様って呼ぶうえに四人でオレを勧誘してくるからな。
なんとなくオレだけ悪い噂も流れてそうで怖い。
でもオレに話し掛けてくる冒険者も多いし大丈夫か…… ?
まあ何言われてもいいけどね。
それと結構多いのが回復を頼んでくる奴だ。
やっぱ怪我するんだったらヒーラーも冒険者としていた方がいいと思うけどな。
あ、でも守り切れないかもしれないってナスカも言ってたんだった。
今もナスカとエレナは他のパーティーと話してるし、カインはまた女性冒険者から告白されてる。
あいつは強いうえにあの物腰で優しいし、男のくせに顔まで綺麗ときたらモテるのも頷ける。
なんかズルくね?
「あの、勇飛さん。あちらの方々がお呼びです……」
役所の職員さんが四人組の冒険者を指して話し掛けてきた。
なんだろ、回復かな?
冒険者達に近付いて行って気付いたんだけど、めっちゃ敵視されてんなこれ。
「なんか用か?」
「ああ。ちょっと顔貸せや」
もしかして喧嘩売られてるのか?
すっげ睨んでくるけど面倒だなー。
オレ喧嘩とかした事ないしなー。
「テメーが来ねえんなら一人ずつ的にかけんぞ」
よし買った!
「出ろよ。役所内で揉めると厄介だしな」
四人に続いて役所を出る。
路地裏にまで来たら囲まれた。
「で? なんでオレは呼び出されたんだ?」
「しらばっくれるんじゃねーよ! テメーがどんな手を使ったかは知らねーがミッキーに取り入ってんじゃねーよ!」
「んん?」
「んん? じゃねーんだよ! フレデリカさんに様付けなんてさせやがって! ぶっ殺すぞ、ああ!?」
「む?」
「む? じゃねーわ! オレのキーファさんに気安く触ってんじゃねーよ!」
触ってないけどな。
でもなんでミッキーの事で文句言われてるんだ?
「オレ達ミッキー親衛隊が彼女達をお前の毒牙から守ってみせる!」
冒険者じゃなく親衛隊だったのか。
じゃあこいつら普段は何してるんだろ。
まさか無職なんてことはねーよな……
ああ、そんな事考えてる場合じゃなかった。
「オレは別にミッキーとはパーティーの応援要請で一緒しただけでそれ以上の関係はないが?」
「…… うるせー! 触ってただろうが!!」
うーん、面倒だなー。
もう殴っちまうか。
「で? 喧嘩売るなら買うけど?」
「上等だ! やっちまえ!!」
リーダーっぽい奴って啖呵を切るわりに他の奴にとりあえずやらせるよな。
不思議だ。
まずは自分から来いや。
喧嘩を買ってみたけど弱かった。
最初の奴に物理操作使って殴ったら顎砕けたし、強化だけでやらなきゃ殺しちまう。
まあ親衛隊とかいう無職の奴らじゃゴブリン以下かもしれない。
顎砕いたのは可哀想だしとりあえず治しといた。
「ひっ、ひいぃぃぃい!! たすっ、助けてくれ!? 命だけは勘弁してくれ!!」
めっちゃ怯えてるけど手加減はしたんだよ。
それこそ強化も無しで殴ったのに。
「おいお前ら」
「はっ、はいぃ!!」
「ちゃんと仕事しろ。いい大人が親の脛齧ってんじゃねーよ」
「ぼぼぼ冒険者やってます!!」
あれ、違った。
でもどうやってクエスト達成するんだろ。
「お前らの強さで魔獣討伐できんのか?」
「ももももう殴らないでください!!」
「一発しか殴ってねーだろ。いいから答えろよ」
「で、できますよ…… わ、罠を仕掛けて、掛かった魔獣を剣で刺さんです。これでもイエローランクの冒険者ですから」
「なるほど。魔獣討伐に罠仕掛けるとか初めて聞いたぞ。なかなか賢いな」
「ふ、普通ですよ。人間よりも力の強い魔獣を相手に正面から挑むのはバカのする事ですから」
とりあえずもう一発頭に拳を落としといた。
誰がバカか!
役所に戻ったらナスカとエレナにちょっと笑われた。
イエローランクと喧嘩したからか?
「勇飛は知らないでしょうけどあれが普通の冒険者のレベルよ。あなたは異常なのを理解しなさい」
エレナも充分強いと思うけどね。
オレが異常ならエレナも異常だろ。
「私も喧嘩を売られてみたかったな……」
残念そうなナスカだけど喧嘩なんて何も楽しくなかったぞ。
でも相手が強かったら…… ちょっと楽しそう!
それから二日おきくらいにクエストを受けては観光し、二十日程滞在したところでデンゼルから指名依頼があったので帰る事になった。
クイースト王国で受けたクエストは難易度の高い8と9を受け続けた事でポイントが貯まり、近々ゴールドランクの審査を受けれるだろうと所長さんからも話しをもらっている。
デンゼルでも指名依頼って事は結構な強敵だろうしまたポイントが貯まる。
あと二ヶ月以内にはゴールドランクに昇格できるかもしれないな。
つってもクエスト次第だけど。
デンゼルに帰る前にお土産を買って帰ろう。
「お土産はサーシャと役所の職員さん達にだろ。あとは宿のおっちゃん家族と弁当屋のおばちゃんにも買って行こう。いつも世話になってるしナッシュにもなんか買ってってやらねーとな」
「私は冒険者の知り合いにも買っていきたい」
「じゃあデンゼルの冒険者達にも菓子でも配るか」
とりあえずクイースト王国で売られている人気のお菓子屋巡りをした。
街の人達はそうそう王国には来れるもんじゃないしな。
デンゼルでは買えないお菓子を買ってったら喜んでくれるだろう。
とりあえず女性に人気っていうマシュマルォ店にも寄ったけど、これどう見てもマシュマロだよな。
サーシャに買ってってやろう。
あとは小分けされたお菓子を大量に買って知り合いに配る分を確保。
「あ、そうだ。ドロップもう一個買ってもいいか?」
「別にいいけど誰かにあげるの?」
「サーシャに買ってやろうと思ってな。アースガルドに来てからずっと世話になってるし」
「勇飛はナッシュにも世話になってるだろ」
「ナッシュはハゲじゃん!」
「じゃあサーシャに似合いそうな色を選びましょ!」
って事で緋咲宝石店でドロップを購入した。
めっちゃ悩んで髪色は少し濃いめの紫、眼の色には空色を選択。
サーシャにはこんな色も似合う気がする。
贈り物として綺麗に梱包してもらった。
「勇飛はサーシャのを選ぶのにすごい真剣だったね。もしかして勇飛の好みってサーシャみたいな女性?」
カインが問いかけてきた。
「ああ。今のところサーシャが一番オレ好みだな」
「んなっ!? サーシャを好きなのか!?」
「でもサーシャはマークと付き合っているわよ?」
「ああ。別に好みってだけだから問題ねーだろ。マークとはサーシャと一緒に飯食いに行った事もあるしあいついい奴だしな…… あ、そうだ! これをマークに頼まれたって事にすりゃサーシャも喜ぶんじゃね!?」
「う、うーん…… 勇飛がいいならそれで良いんじゃない?」
カインが微妙な顔をしてるけどオレは自分がしたいようにする。
マークにも口裏合わせてもらえばいいしな。
ナスカはなんかブツブツ言ってるけどまあ放っておこう。
また丸一日かけてデンゼルに帰るんだけど、もう昼過ぎだし明日帰る事にした。
夕方にはクエストから帰って来たミッキーに挨拶して王国最後の夜を迎える。
この日の夕食は酒場でミッキーと飲み交わした。
酒に酔ったフレデリカがオレの頰にキスしたところでナスカがブチ切れたけどオレは全然悪くないよ。
ちょっと嬉しいけどオレは悪くない。
なんもしてないからな。
もう一回して欲しいけどオレは悪くない。
翌朝、ミッキーと他の冒険者達十数名に見送られてデンゼルへと歩き出す。
前回クイーストに向かう時に襲って来たハーピーに出会すことはなかったので、特に問題もなくデンゼルまで帰る事が出来た。
途中ゴブリンやワーウルフなんかに襲われたけど、全員両手塞がってるしオレが全部蹴りで始末した。
まずはデンゼルの役所に行ってマークを呼び出した。
「なあマーク。サーシャにドロップ買って来たからお前がオレに頼んだ事にして渡してくれ」
「ええ!? そんな、せっかく買って来てくれたのに君に悪いよ!」
「うるせー。オレが世話になったお礼に買って来たんだ。お前は黙って合わせてくれればいいんだよ」
「勇飛君がいいならそうするけど……」
「おう。頼むわ」
マークが上手く話してくれたようで、サーシャもドロップに大喜びしてくれたしオレも満足だ。
あとはオレからのお土産って事でサーシャにはマシュマルォを渡した。
カラフルで可愛らしいお菓子だし女性のお土産にはいいだろ。
役所の職員さん達とデンゼルの役所を利用する冒険者達の分のお土産を渡して役所を後にする。
次は弁当屋のおばちゃん、ゴレンのナッシュ、宿屋のおっちゃんにお土産を配って回り、久々に帰って来たオレ達をみんな嬉しそうに迎えてくれた。
王国も楽しかったけど、やっぱデンゼルの皆んなを見ると安心する。
結構オレはこの街の人達を好きなんだろうな。
宿屋のおっちゃんはオレ達が久し振りに帰って来たって事で夕食はいつもより豪勢にしてくれた。
オレ達を歓迎してくれてるようで結構嬉しかった。