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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

S

作者: 宮原周一

 目の前に金属の塊が突き付けられている。黒く塗られたそれには柄が付いていて、握っているのは少女だった。記憶にある姿よりも大人になったと思う。でも彼女は俺の中ではまだ少女のままだった。

「それで、あなたが大和伸二で合ってるの?」

 ここまできて嘘を吐く必要もなかった。

「そうだ」

「じゃあ殺してもいい?そういう約束だったよね」

 だいたい5年ぐらい前の約束を覚えていてくれて少しうれしかった。特に、その約束を果たすために今まで生きていてくれたことに。

「俺を殺したらどうするんだ?」

「もちろんあたしも死ぬ。だってそういう話だったでしょ?」

「そうだったな」

 さぁやってくれと言わんばかりに両手を広げる。

 それを見た少女は、手にもったハンマーを振り上げて……。


 だいたい五年前、俺は山に住んでいた。買い物はふもとまで降りていたが、あまり長い時間家を離れることはなかった。とりあえずそうする事情があった。幸い金には困っていなかったけれど、とにかく退屈だった。最初の一年は何かと趣味のようなものを探していたが、山で出来ることは少なかった。川があったから釣りでもしようかと思ったときがあったけれど釣れるまで辛抱するのは俺の性分に合わなかった。森林浴も考えたが迷う以外のオチが見えなかったからやめた。結局部屋に籠っているばかりだった。電気とインターネットはあったから時間をつぶすことはできた。

 そのインターネットで面白いことを知った。同じ山のしばらく離れたところが自殺の名所だというのだ。自殺する場所に名所もクソもあるかと思ったが、そこに死にに来るやつがいるなら見てみたいと思った。暇でしょうがなかったのだ。

 最初は毎日その近くまで通っていた。森の中で迷わないように自分で目印をつけながら、誰か来ないかと待ち望んでいた。が、誰も来ることはなかった。あれは嘘だったのではないかとその時にやっと考えた。これならインターネットで時間をつぶしていた方がましだった。ただ、関心が捨てきれず近くに監視カメラを置くことにした。動くものに反応して録画が開始されるもので、ついでに録画が開始されたら画面に映像を出すように設定もしておいた。



 インターネットに溺れて時間を潰す日々が戻ってきた。最初の数日は映像が出るたび期待して画面を見た。だいたいは野生動物か何かで、たまに遠くを通り過ぎる車に反応したが人が来たりすることはなかった。そのうち画面を見ても期待はしなくなり、やがて興味も薄くなっていった。あの情報に踊らされた自分に少し腹が立った。

 とにかく無性に腹が立ってまた自殺の名所について調べ上げた。自殺の名所などといわれているのは昔実際に何人も自殺したからで、最近はあまり自殺死に来る人はいないという。その理由は単純で、電車に轢かれたほうが手っ取り早いなどと書かれていた。少し残念に思いながら眺めていると、以外にも自殺しに行くという書き込みがあった。どうせ嘘だろうと思いながらも期待せずにはいられなかった。

 日付は明日だった。これが嘘だったら監視カメラや目印などは回収して今後は忘れようと思った。でも、もし本当だったらという気持ちは抑えきれず念入りに準備をしていた。日付が変わってすぐに監視カメラが起動した。


 俺より少し年上に見える男だった。道路を歩いてきてそのまま森へ入っていった。心臓が高鳴った。これは本物だという直観があった。俺は荷物をもってすぐさま家を飛び出した。この家に住み始めて以来こんなにも興奮したのは初めてだった。

 俺が男に追いついたころ男は木にヒモをぶら下げているところだった。あれで首を吊るつもりらしい。人が死ぬ瞬間が見られる。その予感に興奮が高まるばかりだった。男は木に登り首に縄をかけ、そして飛び降りた。首が吊られ苦しそうに悶えた。それを見て俺はいてもたってもいられなかった。

 思わずその男の前に姿をさらした。男は驚いたような顔をしたが、首が閉まって苦しんでいるだけかもしれなかった。そんなことはどうでもよかった。目の前の男はこれから死ぬ。自分で死のうとしている。なら、俺が今何をしようと勝手ではないか?そんなことを思っていた。手にはハンマーを持っていた。それで男の腹を殴った。快感だった。理由もなくふるう暴力は俺の脳を揺さぶりもう何も考えられなくなった。気が付けば男を吊っていた枝は落ち男の死体が俺の足元に転がっていた。あっけなかった。録画したビデオはたったの五分だった。


 俺は監視カメラを外すのをやめた。一回でも経験してしまったあの興奮が忘れられなかった。それからしばらくは録画したビデオと妄想だけで時間が過ぎた。溺れるように眺めていたインターネットももはや暇つぶしにはならなかった。

 それから月に一度は人が来た。多い時は週に一度は来たし四月五月は連日人が来るときもあった。どうやら自殺スポットとして再燃したらしかった。ただ、ある程度年が過ぎると警察や自殺目的ではない輩が来たりもするようになった。そういったときは面倒ではあったけれど俺は自殺しに来る人間を待つのをやめなかった。


 久しぶりに来たのは少女だった。夜だったからよくわからなかったが制服のようなものを着てふらふらと森へ入っていった。最近は自殺願望ではなく度胸試しや面白半分で来る輩が多かったが、そういう時は大抵複数人だった。だから今回は少し期待していた。それに少女だというのが俺の興奮を誘った。

 少女は首をつって死のうとしているらしかった。ここで初めて自殺した男と同じ死に方だった。ただ、手が震えているのかなかなか作業が進まず俺はその間ずっと隠れて待たなければならなかった。そして最終的に少女は死ぬのをあきらめたらしくそのまま帰ろうとした。

 それは許せなかった。高まった興奮はそのまま怒りに置き換わり俺は後ろから少女を押し倒した。仰向けにした少女の顔は恐怖で歪み泣いているようだった。それを見て俺はさらに興奮した。

「死にに来たんじゃなかったのか?」

少女は答えなかった。

「おい!死にに来たんじゃなかったのかよ」

少女はただ「死にたくない」と小声でつぶやくだけだった。

 俺は怒りに任せて少女を犯した。死にたくないのなら死にたくなるようにしてやろうと思った。夜が明けるまで少女を嬲り、夜が明けてからは家に連れ帰って監禁した。一週間ほどすると少女が死なせてと懇願してきたが俺はそれを許さなかった。俺にとって少女はもはや愛玩動物だった。簡単に死なせては惜しかった。それに、生きた女を犯すのは楽しかった。

 一日数回飯を与え、数日に一回は少女を犯した。やがて少女は死なせてとは言わなくなり、俺を殺すと宣言し始めた。やれるものならやってみろと俺は少女に言いながらその体を弄んだ。どれぐらいたったか忘れたが最終的に少女は何も言わなくなってしまった。ただの言いなり人形だった。

 つまらなかった。もう少し楽しめるものだと思っていただけに残念だった。処分しようと考えたが、もっと面白そうなことが頭に浮かんだ。

「おい、死にたいか」

 少女は目だけこちらに向けた。死んだ目をしていた。

「俺を殺したいか」

 少女の目が光ったような気がした。まだ生きてはいたようだ。

「俺を殺してもいいぞ」

 ただし条件があると俺は続けた。俺を殺したら死んでもいいという条件を俺は伝えた。その話を伝えると少女は暴れだした。俺への殺意が眠りを覚ましたのだろう。その姿に心臓が高鳴った。

 家を出なければならない時が近づいていた。この家を出ればあまり長くは生きられないだろうという事情もあった。残りの人生短いのなら楽しく生きていたかった。この少女は俺の今後を楽しくさせてくれそうだった。俺は少女の拘束を一切解かず檻の鍵を閉めたまま家を後にした。


 一ヶ月ぐらいは少女がいつあの家を出て俺を殺しに来るだろうかと期待して待っていた。ただ、たまたま見た新聞で少女があの家から救出されていたらしいことを知ってしまった。親が見つかりそこに引き渡されたそうだ。多分少女は俺を殺しに来れないだろうと思っていた。

 それからさらにしばらくしたら俺を探し回っている人間がいることを知った。それは高校生ぐらいの少女だという。それを聞いたときおれはたまらない気持ちになった。少女が俺を殺しに来るその日が待ち遠しかった。

 俺は居場所を転々とした。簡単には殺されたくなかった。いつか殺されるかもしれないというこのスリルを味わっていたかった。しかし思っていた以上に少女は俺を追いつめ、ある時出会ってしまった。あまり顔を覚えていなかったのと、制服を着ていなかったから気が付かなかった。すれ違いざまにのどを切られそうになった。俺の先は短かいと予感した。


 それから数日後、俺はついに少女に追いつめられてしまった。目の前にハンマーを突き付けられ逃げる気もなくなっていた。ここが俺の死に場所だなと納得していた。

「それで、あなたが大和伸二で合ってるの?」

 ここまできて嘘を吐く必要もなかった。

「そうだ」

「じゃあ殺してもいい?そういう約束だったよね」

 だいたい5年ぐらい前の約束を覚えていてくれて少しうれしかった。特に、その約束を果たすために今まで生きていてくれたことに。

「俺を殺したらどうするんだ?」

「もちろんあたしも死ぬ。だってそういう話だったでしょ?」

「そうだったな」

 さぁやってくれと言わんばかりに両手を広げる。

 それを見た少女は、手にもったハンマーを振り上げた。



 ついに追いつめたと思った。五年前交わした妙な約束を果たす時が来た。自殺しに森へ行った私を引き止める変な男と交わした約束だ。

「死ぬなら俺を殺してからにしてほしい」

男は私にそういってきた。自分一人で死にたかったのに邪魔されて私はとても腹が立っていた。

「勝手に死ねばいいじゃない。私を巻き込まないで」

場所を変えようと思った私は男を無視しようとしたけれど男はしつこかった。

「まぁまぁそういわずに、どうせ死ぬんだし人一人殺したってたいして変わんないからさ」

そういう男を私は殺す理由がないからと突っぱねた。

「なら理由を作ってあげよう」

そう言うと男は私を襲ってきた。自殺しようとしたら見知らぬ男に犯されたのは屈辱的だった。

「これで俺を殺す理由ができたろう?じゃあ俺は山とかに籠ってるからしばらくは生きてね」

 そのまま死んでしまいたかった。この汚された体で生きていくのは苦痛だった。死にたくなる理由が増えた。ただ、それ以上に男を殺したいという感情が勝った。

 まだ高校生だった私にできることは少なかったけれどそれでもできる限り男の行方を探ろうとした。しかし手掛かりは全く見つからず、本当に山に籠っているならしばらくは何をしても無駄だろうと思った。ひとまずお金を貯めることにした。

 お金を貯める手段は択ばなかった。生きる目的は死ぬための目的だったし、それ以外のことに対して興味はなかった。お金は順調にたまったけれど体はボロボロになっていった。気が付けば4年経っていた。早く死にたいがために男の捜索を再開した。

 一年経ってやっと男の所在を掴んだ。もう逃がさないと思った。焦らず確実に、そして素早く男を追いつめた。やっと待ち望んだ瞬間がやってきた。


 腕に怒りを込めた。しかし、私が腕を振り下ろす前に男が倒れた。その向こうには制服を着た少女が立っていた。

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