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「…この、近く…に、人は、住んで、ない……」
彼らは屋敷を出ようとしたが、りのの一言で思いとどまった。
何にも持っていなく、情報もない状況で人もいない場所を彷徨うのはさすがにまずい。
まぁ、志狼だけなら、すぐに人のいるところに着けるのだが、りのと光輝を連れては無理である。
「ってなわけで、近くの村とか街まで送って。」
遠慮の欠片もなく光輝はウィリアムに言う。
光輝たち3人は結局また最初にお茶した部屋に戻ってきた。
今回はお茶ではなく、食事をしている。
その食事を作ったのが屋敷の使用人である魔物たちだと知ると、魔物が料理を作れることにまたまた光輝のテンションが上がったようだが、今は落ち着いて食事をとっている。
「構いませんよ。ですが、これからどうするおつもりで?」
ウィリアムはナイフとフォークを優雅に使いこなしながら言う。
食事マナーなんて微塵も気にしていない様子で3人は食べ続ける。
りのはただ食事にマナーなんてものがあるとは知らないだけであるが。
残念ながら、ここにそんな3人に食事のマナーを教える者はいない。
ウィリアムはニコニコと見守っているだけである。
「まぁ、適当にやればなんとかなるだろう。」
「街に着いたら、まずはやっぱりギルドでしょ!まぁ、ギルドがあるかもわかんないけど。」
「……まずは、お金……」
「このままじゃ確かに住むとこもないもんなぁー。ギルドがあればいいんだけど、なかったらどうしよっかー。」
「なんとかなるだろう。」
「まぁ、このメンツなら大丈夫か!」
割と能天気な会話であるが、実際彼ら3人なら身体を使う仕事でも頭を使う仕事でも余裕でこなせるだろう。
「何かあれば、いつでもお呼びください。私にできることなら何だって致します。」
ウィリアムはニコニコと笑いながらそう言った。
「いいのー?あんた魔王直属なんだろー?」
「魔族は強き者に従う習性があります。だから、魔族を統べる魔王は最も強き者であります。」
その言葉に光輝は悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、うちの志狼くんと魔王様のどっちが強いと思う?」
この質問にはさすがのウィリアムも苦笑いである。
「その質問には黙秘権を行使させていただきたいのですが……」
「あははは!!」
光輝は楽しそうに笑う。
食べ終わった志狼はウィリアムを見て口を開く。
「へぇー、そりゃーおもしろそうだな。魔王か。」
その瞳は一瞬鈍く光る。
それこそウィリアムの背筋に緊張が走るほどのものだ。
だが、その空気はすぐに霧散した。
「…志狼、これ、あげる……」
「ん?ああ。」
りのの一言で志狼はすぐさまその眼光の鋭さを引っ込めた。
そして、志狼はりのの残したものを食べながら、「そういえばこいつ小さいな。」と今更思った。
そうして、3人はウィリアムの屋敷で食事を済ませ、ウィリアムに街まで送ってもらえることになった。
「着きました。この先に人間の街があります。」
如何にも魔族のお偉いさんが乗る馬車でウィリアムと彼らは街の近くの人気のない場所に着いた。
「うっひょー!異世界初の人里だー!」
「……あ、りが、と。」
ウィリアムは紳士らしく胸に手を当てて礼をした。
「またお会いできる日を心待ちにしております。」
ウィリアムは丁寧にそう言うと、スっと消えた。
パラミシアの街にて。
3人は街の中を見物しながら、歩いていた。
「結構でかいんだな。」
「そうだねー。大都市ってほどじゃないけど、それなりに活気溢れてるって感じだね〜。」
「…に、ぎや、か。」
果物や野菜、アクセサリーなどを売っている様々な出店のような店をりのは珍しそうに見ていた。
「門番のおっちゃんが言ってたんだけど、やっぱギルドあるって〜。行こうぜー!」
街の名前もギルドの場所も街の城門の門番の人に聞いたのだ。
明らかに不審者、制服を着た年頃の子供3人がこの街に入れたのは、光輝の会話術のおかげが大きい。
人懐っこい性格はもちろん、ゲームで培った知識を用いて作った設定をさも事実のように述べた。
制服に関してはこの世界は何でもありなため、他の場所から来た者が見たこともない服を着ているのは極々当たり前のことらしい。
「到着!やっぱ『ギルド!』って感じがする建物だね!」
ギルドでも光輝の対人能力は遺憾なく発揮され、スムーズに仕事がもらえた。
そして、その仕事の内容は……
「金持ちお嬢様のお出かけの護衛だぁ?何でそんな仕事…」
光輝が持ってきた仕事に志狼はあまり乗り気でない様子である。
「うん。平たく言えばそんな感じなんだけどさぁー。この仕事、なんか裏がありそうなんだよねぇ。」
依頼書を自分の顔の前でヒラヒラさせて光輝は言った。
「……かん、たん、すぎる……。護衛……の、仕事、なのに……何の、指定、もない……」
そうポッと出の彼らでさえ受けれるほど、採用条件が甘いのだ。
領主の一人娘にして次期領主になる予定のお嬢様の護衛であるにもかかわらずだ。
「ふーん。」