表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

3


「では、始めましょう。」


開始の合図とともに、ウィリアムはにっこりと笑う。

すると、ウィリアムの周りには混沌とした色の球体がいくつも浮かび上がった。

まるで小さな宇宙のような球体がウィリアムの周りを覆うようにして浮かぶ。

魔法を知らないものにはさぞかし異様な光景に見えるだろうが、3人はそれぞれの表情で冷静にその光景を眺めていた。


そこでウィリアムは少し眉をひそめた。光輝にしか気づけないほどほんの少しだけだけだが。


「……どうして攻撃して来ないのですか?あなたの速さなら私が魔法を使う前に仕掛けるべきでした。そうすれば、少しは勝機が生まれたでしょう。」


負けるつもりなんて微塵もないという態度である。

それに対して志狼は平然と答える。


「あぁ?あいつが次はもっとゆっくりっつったからな。それに……」


さも当たり前のように言う。

そして、一度言葉を区切り、無表情だった志狼はゆっくりと口の端を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべた。



「おまえとは楽しめそうだ。」



楽しそうだ。

光輝みたいなわかりやすさはないが、まるで戦いに飢えた獣のようなギラギラとした目で志狼は楽しそうに笑う。


そんな表情のまま志狼はただ立っていた。

動く素振りは全くない。


ウィリアムは志狼のその表情と言動に思うところがあるようだが、何も言わずに戦闘を続行する。


ウィリアムが優雅に手を前に出した。

すると、彼を囲む球体から黒いレーザーのようなものが現れ、真っ直ぐ志狼に向かって放たれた。


「ひゅー!魔法出たー!!魔法vs.生身!」


光輝はまだ興奮がさめない様子である。

ウィリアムのこの魔法は先ほどの志狼ほどではないが、かなり速い。

それにもかかわらず、ものすごい早口で言い切る光輝はある意味すごい。


そして、ウィリアムはこの微かな時間の間に志狼の動きの予測を立てる。

志狼の速さならこの攻撃を避けて攻撃に移ることも可能なはずだ。

しかし、志狼はまだ動こうとしない。


「……まさか!受け止める気ですか!」


流石のウィリアムも驚きが隠せないようだ。


「はっ、当然。避けたら、つまんねーだろう?」


余裕の笑みで志狼はそこに立っている。



バッキーン!!!



あまりの出来事に一瞬何か起こったのかウィリアムは理解できなかった。


「うはははっ、魔法を素手で砕くとか!」


広間には光輝は心底おもしろそうな笑い声が響き渡る。


光輝の言う通り、志狼はその拳で向かってくるレーザーのような魔法を全て砕いたのだ。

ウィリアムはやっとの思いで口を開く。


「……あ、あり得ません……生身で魔法を……」


目を見開いたまま呆然と呟く。

そして、ハッとしたように一気にまくしたてる。


「あなたは人間なんですよ!人間の肉体が魔法を受けて、いえ、殴り飛ばして平気なはずがありません!しかも、魔法による防御もなくして!」


そう捲したてるウィリアムに志狼はつまらなさそうに口を開く。


「この世界の常識とか知るかよ。そんなことより手加減とかしてんじゃねーよ。」


ウィリアムは志狼の言葉に更にムキになりかけたが、一度目を閉じて、血の登った頭をゆっくりと冷やした。

次に目を開けた時にはその表情は無であった。


「……わかりました。」


ウィリアムがそう言うと、ウィリアムの頭上にさっきのとは比べ物にならないほど大きく恐ろしい球体が現れ、グルグルと渦を巻きながらその体積を増やしていっていた。


光輝は先ほどの志狼のセリフに呆れたように、そして、嬉しそうに反論する。


「世界の常識とか以前の問題だと思うよー。なー、りの?」


ボーッと2人の戦いを見ていたりのが口を開く。


「………ん。……でも、志狼、が……勝、つ……100、パー…セント……の確率…で……」


りのの表情は無表情ではあるが、どこか嬉しそうな様子であった。

ウィリアムは2人の会話を聞いてまた一瞬眉をひそめた。


「どうしてあなたたちは……」


ウィリアムは何度も口にした疑問をまた彼らにぶつけたくなったが、そんなことをしても返ってくる答えは変わらないのだろうと容易に想像できた。

彼らはきっと「信じているから」と迷いもなく答えるだろうと。


「……わかりました。ならば、私の力の全てをぶつけるのが私なりのあなたたちに対する最大の敬意です。」


ここで殺すには惜しいという考えは変わっていない。

しかし、それでも彼には全力で相手をしたいとウィリアムは心から思うようになってしまったのだ。


黒い塊はウィリアムの元を離れ、ものすごい勢いで志狼に向かっていった。

しかし、志狼はまたしても避けたりはしなかった。


「やはり避けませんか。」


黒い塊が志狼にぶつかった瞬間、まるで世界が闇に包まれたかのような錯覚を覚えるほど恐ろしい闇、そして激しい爆音と衝撃が辺りに広がった。



「殺すには惜しい方でした……」



ウィリアムが少し感傷に浸り、残りの2人に視線を向けると……。



「殺す?何バカなこと言ってんの!」



「100、パー、セント……って、言った…」



そう、彼らは笑っていた。

ほんの少し口の端を上げ、余裕な笑みを浮かべていたのだ。


ウィリアムは驚きの表情を浮かべる。


「まさか……!」


いや、有り得ない。

有り得るはずがない。

だが、光輝とりのの表情にウィリアムは有り得るはずのない可能性を見出してしまった。



バキッ



何かにヒビが入るような音が僅かに聞こえてくる。

すると、 たちまちに黒い塊にヒビが入り、それはガラスが割れるように派手に割れたのだ。



「……なかなかおもしれーな、異世界ってやつは!」



その構えから見るに、志狼は魔族の四天王であるウィリアムの全力の魔法を生身で蹴り飛ばしたようだ。


ウィリアムは呆然としていることしかできなかった。

そのため、志狼が消えたことに咄嗟に反応できなかったようだ。


気がついた頃にはウィリアムの周りを覆っていた球体は全て志狼に砕かれていた。


これは敗北だ。死だ。


ウィリアムは生まれて初めて"死"をこんなに身近に感じた。

ウィリアムはゆっくりと目を閉じた。




「俺の勝ちだ。いや、俺たちの勝ちだ。」




ウィリアムが目を開けると、志狼はウィリアムの目の前で拳を寸止めしていた。


「……とどめを刺さないのですか。……いや、刺せないのですか。あなたたちは異世界の……」


ウィリアムは淡々と、どこかやるせなくそう語りかけた。

しかし、志狼は面倒くさそうにその言葉を遮る。


「はぁ?必要ねーからに決まってんだろ。」


「必要ない…?」


ウィリアムがその言葉の真意を問う前に、りのがそれに答える。


「……その、気が……あれば、いつ、でも……殺、せる……。……必要、ない……」


りのの発言とは思えないほど物騒なことをりのは淡々と言う。


「…………私は殺す価値もない、ということですか……?」


ウィリアムは呆然とそう尋ねる。


ウィリアムは自分と志狼との力の差くらいわかっていた。

志狼がその気になれば、赤子の手を捻るほど簡単にウィリアムを殺せる。

それでも……


「誰もそんなこと言ってないだろー?なぁ、ウィリアム、楽しかったぜ、このゲーム!またやろうな!」


光輝は笑顔でウィリアムに手を差し伸べる。


「殺したら、胸糞悪いし、つまんねーだろ。」


志狼はぶっきら棒に言い捨てる。


「……ん……次、は……もっ、と……楽、しい…ゲーム、を……しよ?」


りのはしゃがんでウィリアムと視線を合わせて言う。

ウィリアムは呆然とりのを見つめながら、なんとか言葉を捻り出す。


「……私は確かに志狼様には勝てません。しかし、光輝様やりの様を殺すのは簡単です。私がこの2人を人質に取るとは思わないのですか。」


これは今回だけではなく、これから先のことも含めての話である。

その問いに対して志狼は相変わらずの態度で答える。


「んなことおまえはしねーよ。それに、そいつらは弱くねー。」


ウィリアムを見下ろして志狼は当然の如くそう言い切る。


「あはははっ!次に会うときにはスッゲー魔法の一つや二つ使えるようになってるよ!たぶん!」


「……ん、頑張る……」


志狼の信頼に楽しそうに笑う光輝も、何を考えているのかわからない可愛らしい顔で頷くりのもウィリアムにはどこか眩しく見えた。


ウィリアムは再び目を閉じる。


「いいえ、あなた方は今でも十分お強いです。りの様の、私の作り出した迷宮をいとも簡単に攻略できる頭脳、光輝様の、少ない情報で的確に相手を分析できる経験と知識、そして、お二人の、いえ、あなた方お三方のこの私を微塵も恐れないほどの強さ……」


ウィリアムは笑う。

今以上に穏やかに、心から笑う。



「あなた方は3人は本当の意味での強者なのですね。私が敵うはずもなかった。そして、あのお方があなた方を選んだ理由もなんとなくわかる気がします。」



彼らには能力がある。

しかし、そういう強さではない真の強さを彼らは持っている。

ウィリアムは自分が彼ら3人の足元にも及ばないことを悟った。

しかし、気分はどこか晴れ晴れとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ