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「あー、なんかあるとは思ってたけど、こう来るか〜。」


光輝はその空間の巨大な岩、いや、石を見ていた。


「……ゴー、レム…?」


文献で見覚えのある姿にりのはそう呟いて首を傾げた。


そう、その空間の壁には5メートル以上あると思われるその大きな石が埋め込まれていた。

頭や手足のあるソレはどう見てもただの石ではない。


「ストーンゴーレム、か〜。」


いつもそういうものを見つけるとバカみたいにテンションが高くなる光輝なのだが、なぜか今回はちょっと残念そうなのだ。

そんな光輝を横目に見て、志狼は口を開く。


「こいつなんか問題あるのか。」


志狼の問いに光輝は残念そうに答える。


「いや、問題あるっていうか……この世界のゴーレムって動けないんだよねぇ……」


「は?」


光輝の言葉に志狼は意味わからないと言わんばかりに眉を顰める。


「は?じゃあ、アレただの飾りかよ。」


ひどくつまらなさそうに志狼はそう吐き捨てる。


「んー、この世界の住人にはそう思われてるみたいなんだけどねぇ。ただ俺の推測だと、生き物ではあると思うんだけどなぁ。」


この世界エーデルシュタインでは、ゴーレムはただの巨大な天然の石像かなんかだと思われている。

それどころか、早々見かけるものでもないため、その存在さえほとんど知られていない。


「…命、ある…?」


りのが知る限りゴーレムはただの石像で、動いただの、魔力があるだのといった話は聞いたことない。


「なんというか、設定ミスのような気がするんだよねぇ。ノエルがゴーレムをただの飾りとして作ったわけないだろうし。」


光輝は少し困ったような顔で笑う。


「じゃあ、生きてるのに動けないってことか?」


志狼はゴーレムを見上げながら、光輝にそう尋ねた。


「たぶん動力源がないんだろうね〜。」


「……何でだ?」


志狼の問いかけに光輝は呆れたような困ったような顔をする。


「だって、石だから。」


「…………」


古代遺跡の地下深くの広い空間に沈黙が広がった。


そして、志狼は真顔で口を開く。


「ノエルはバカなのか?」


志狼は呆れた様子もなく、本当に真顔でそう尋ねた。

だが、無理もない。

「石だから、動けない」なんて馬鹿でもわかることをよりによって神様が見落としていただなんて、冗談にしか聞こえない。


「いやー、たぶんさぁ、魔法が使えない設定でゴーレムを作ったのはいいけど、石であるゴーレムが魔力もなしで動けるはずないって根本を見落としてたんだよ……」


光輝がここまで困り顔をするのも、呆れ顔をするのも珍しい。


「バカなのか?」


志狼はもう一度繰り返した。


「あははー……もし本物のバカならここまで上手く世界を成り立たせてないよ。まぁ、たぶんうっかりしてたんだよ……」


光輝はノエルを擁護しつつも、あまりのうっかりぶりにため息が出そうになった。


ゴーレムが動けないただの天然石像扱いされているのは本を読んで知っていた。

その時も呆れたものだが、実物を見て更に呆れた。

なぜなら、こんな遺跡の地下深くに巨大ゴーレムを置くということはゴーレムを神秘的な守護神にでもするつもりだったということだ。

なのに、この始末だ。呆れないはずがない。


「どうにかして動かせねぇのかよ?動力源を付けるとかして。」


別に志狼自身はゴーレムにそれほどの興味はないのだが、光輝がひどく残念そうなのを見てそう提案した。


「うーん、動力源かー……」


光輝は少し考えを巡らせる。


「…………りの、確かこの世界の魔力って血液で循環してるって言ってたよね?」


光輝は真剣な顔で考えを巡らせながら、りのにそう問いかけた。

その問いにりのは頷く。


「そう。おそらくこの世界の人間やエルフ、魔獣といったほとんどの生物は大気中の魔力を血液を通して循環させている。」


りのはスラスラと答えた。


以前、光輝はクリスにこの世界の人間と光輝たちの身体構造は全く同じであり、魔法を使うための特別な器官が存在しているわけでないと話していた。

それなのに、この世界の人間が魔法を使える理由は、りのが割とすぐに解明した。

要は、人は大気中の魔力を体内に取り込み、血液を通してそれを循環させているのだと。


「うん、でも、血液で運ばれている酸素などの物質と違って魔力は純然たるエネルギーだから、体積もほとんどなくて、流血なんてしなくても魔力を外に出せる……って言ってたよね?」


光輝は考え込みながら、りのにそう確認した。


魔力は酸素などよりも更に小さくて軽いエネルギー物質であり、皮膚を通して吸収することも放出することも可能なのであると、りのは分析していた。


光輝はそのことをりのから聞いていた。

だからこそ、光輝は高度な魔法も使えたのだ。

原理を知っていたから、魔力を己の体内に取り込み、様々な魔法を使いこなした。

だが、異世界から来た光輝が魔力という未知のエネルギーを体内に取り込んで放出するなんて言葉で言うのは簡単だが、途轍もなく困難なことなのだ。

それでも、光輝は持ち前の器用さで易々とこなした。


「うん、魔力量が人それぞれ異なるのも、種族によって異なるのも、それぞれの体の魔力許容量と魔力を放出し、操る能力の差によるもの。」


「うん、だから、魔石は魔力増強アイテムとされているんだよね。」


そう、それぞれ体に魔力を溜め込むには限界がある。

だから、魔力の貯蓄に特化した魔石に魔力を溜め込むことで、魔力を補うことができる。

そして、光輝が考案したように、魔石を使って大気中の魔力を魔石に溜め込んで、その魔力をきちんと魔法という形で放出させれば、誰でも魔法は使えるのだ。


「つまり、血液や臓器に魔力を器用に溜めれれば溜められるほど、魔力量が多いとみなされて、放出する技術が高ければ高いほど、高度な魔法が使える…………って今はそこじゃない……」


光輝は話が脱線したため、頭を振って切り替える。


「ゴーレムには血液も臓器もないから、大気中の魔力は使えないし、かといって生まれ持った魔力もないから、動くためのエネルギーが一切ない。」


黙々と考える光輝を志狼とりのは見つめる。


「でも、いくらノエルがうっかりしてたからって、エネルギーを溜めるための、動くための核は作ってるはず……!それなら、もしかして……!」


光輝はそう言って壁に埋め込まれているゴーレムに近づいていった。

そして、ゴーレムに手を当てて魔力を流し込む。


「いや、これじゃダメだ……ゴーレムの核まで魔力を届けないと……」


光輝は珍しく眉間に皺を寄せてそう呟いた。

そして、光輝は魔力をゴーレムの体内で循環させ、その核を探す。


ちなみに、光輝はぶっつけ本番でそんなことをやっているが、他の生物の体に魔力を流し込んでその体内で循環させながら探し物をするなど普通に魔法を使うより数倍難しいことである。


「見つけた…!」


光輝は静かにそこにありったけの魔力を流す。


そして、5メートル以上ある灰色の石像は周りの壁を揺らしながら、かすかに動き出した。


「おぉ!動いた!」


光輝はいつものように楽しそうな声を上げる。

その様子に志狼とりのはほんのり口角を上げる。


しばらくすると、ゴーレムの目らしきものが銀色に淡く光り始めた。


「おぉ!やっぱゴーレムは動かないとね!」


光輝はいつものテンションで楽しそうにそう言った。


「こいつ強ぇのか?」


志狼の疑問に光輝はキョトンとした。


「え?どうだろ?戦闘力あるかなー?」


「……ん……わからない……」


何せゴーレムは今の今までただの石像だと思われていたのだから、無理もない。


3人がそんな会話をしていたら、どこからとなく声が聞こえてきた。


「……う……ごけ、る……」


その声に光輝は思わず目を見開く。


「……は?」


光輝はしばしば呆然としていた。

だが、すぐにハッとする。


「は、はぁ!?ゴーレムに言葉を話せるだけの知能があるの!?というか、そんな知能は付けたのに、動力源は付けなかったの!?」


驚く光輝に志狼は「こいつ今日は表情豊かだな。」なんて今の状況と全く関係ないことを考えていた。


「はぁ!?じゃあ、このゴーレムは何千年、何万年もの間ずっと意識はあるのに、動けなかったってこと!?」


あり得ないと言わんばかりにそう叫ぶ光輝にりのはこくりと頷く。


「たぶん、そう。」


りのはゴーレムを見上げながら、そう答えた。

そんなりのの言葉に光輝は呆れた様子に戻った。


「まじかよ〜。えげつないなー。」


光輝はゴーレムに同情的なようである。


「うーん、自由に動けるようにしてあげたいんだけど……」


光輝は眉を下げてりのを横目で見た。


「うん、ゴーレムには魔力を生成するすべも魔力を取り込む術もない。今光輝が入れた魔力が尽きたら、また元の石に戻る。」


「だよねぇ〜。」


りのの説明に光輝は困ったように笑う。


「……そ、れで、も、うれしい……」


そんな中ゴーレムの声が響く。

話し慣れていないのだろう、りののような話し方でゴーレムはそう呟く。

石ゆえにその表情はわからない。


「一つだけ、お願い、が、ある。」


長い、長い年月を遺跡の奥深くで過ごしたゴーレムはその長い静寂を破った人間たちに告げる。


「一度で、いいから、空を、見てみたい。」


ゴーレムの表情はわからない。

だが、その言葉に嘘偽うそいつわりなどはないのだろう。


ゴーレムのその様子を見て、光輝は真顔になった。

その顔は何を考えているのか全く表情が読み取れない。


「…………りの、この世界には使い魔契約が存在するって言ってたよね?」


光輝はゴーレム、壁に埋まっているストーンゴーレムから視線を逸らすことなく、りのにそう尋ねる。


「ん、ある…あまり、使われない、けど。」


りのは光輝の言葉に頷く。


実際この世界に使い魔契約というものは存在するのだが、それはあまり主流ではない。

使い魔契約はそこそこ高度な魔法なのにもかかわらず、使い魔の力は契約者の魔力によるものになるため、さほどの戦力増加にはならないのだ。


そこで、りのは笑う。

口角を上げて笑う。

それは愛らしい顔に不釣り合いなほど鋭く楽しげだ。


「大丈夫、光輝なら、大丈夫。」


口角を上げて、目を細めて、そう笑う。

そんなりのを見て光輝は真剣な顔にほんのわずかに失笑を浮かべた。

そして、すぐさま真顔に戻ってストーンゴーレムを見上げる。


「…………俺はさ、この世界では自由に生きるつもり。それはノエルにその許可をもらったからでも、前の世界の全てを捨てたからでもない。」


光輝の言葉をおそらくそのストーンゴーレムは理解していない。

当たり前だ。いくら知性が高くとも、いきなりそんな話をされてもついていけない。

それでも、光輝は続ける。


「俺がそうしたいから。俺が、志狼とりのとクリスと、そうしたいから。だからさ、変な同情心とかで人助けなんてしたくないし、足でまといもいらない。」


光輝はずっとそう考えていたし、これからもその主義は変わらないのだろう。


「でも、ちょっとこだわりすぎてたのかもしれないや。自由であることに。」


光輝は笑みを浮かべて目を瞑る。


「本物の“自由”は自分の好きなこと全部やってこそじゃん?それに、きっと俺が何しても志狼もりのもそれを全部受け入れちゃうと思うんだ。思えるんだ。もちろん、クリスも。」


そう、光輝は知っている。

志狼はどこまでも自由で、どこまでも束縛と退屈を嫌う。

りのはどこまでもマイペースで、誰も彼女の思考なんて読めない。

本来誰にも何にも縛れない2人。

光輝は自由になりたかった。自由を知りたかった。

だが、本当の意味の自由を知るのは難しい。

だから、光輝は自由を作り出した。自由という概念に定義をつけた。

何にも縛られない。世界の全てを楽しむ。足でまといはいらない。他人に同情しない。人助けなんてしない。


ああ、でも、気づいてしまった。

絶対的な自由を持っている2人は光輝が何をしても受け入れてしまうことに。

そんな2人がその絶対的な自由を手放してでも光輝といることを、3人、いや、4人でいることを選んだことに。

そして、本当の自由に決まりなんてないことに。


「あったり前だろーが。好きにしろ。」


志狼は本当に当たり前の顔で言う。


「ん、光輝の好きにすればいいよ。」


りのもまた頷く。


「あーあ、俺ってマジで愛されちゃってんなー。」


口ではそんなことを生意気そうに言っているが、顔はどこか照れくさそうだ。


そして、光輝は切り替えて再びストーンゴーレムを見上げる。


「ってことで、使い魔にするから。」


あっさりとそう言い放つ。


「つ、かい、ま?」


ストーンゴーレムはそう呟く。

そのストーンゴーレムが何を思ってそう呟いているのかはその声音ではわからない。


「そうそう、まぁ、完全なる自由は流石に無理かもしれないけどさ、空を一目見て終わるほど短い自由よりはマシだと思うよ?別に特に何かをさせたいわけじゃないし。」


人助けなんてしないと光輝は言った。

そんなのやったら、キリがない。倫理や道徳なんて気にしてたら、自由なんて得られない。

でも、やりたいなら、やればいいんだ。

それが本当の自由だ。

そして、2人は今更そんなことで光輝に失望なんてしない。


「人助けなんてする趣味はないけど、せっかくのゴーレムが飾り扱いはもったいないしね!」


光輝はそう言って笑う。

そこにはもう迷いなんてない。


「さーて、りの、俺が使い魔契約に成功する確率は?」


光輝は笑ってりのに問いかける。

そして、りのは笑って答える。


「もちろん、100パーセント。」


その言葉に光輝は笑って使い魔契約を始める。

繊細な魔法と膨大な魔力を必要とするその魔法を光輝は一つずつ編んでいく。


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