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そうこうしている間にサンクテュエール遺跡の入り口まで戻ってきた。
「さーて、じゃあ、行きますかっ!」
光輝はそう言って楽しそうに3人で中に入っていった。
中はだだっ広い空洞や廊下、そして、地下への階段などがあり、壁には様々な紋様や文字が描かれていた。
もちろん壁の紋様や文字は光輝や志狼には全く読み解けないし、興味もない。
だが、りのはその頭脳でそこに描かれている以上の情報を導き出していく。
しかし、そんなことおくびにも出さずに、りのは無言であたりを見渡しながら進む。
そんなりのを横目で見ながら、志狼は光輝に話しかける。
「別にこんなの目当てに来たんじゃねーんだろ?」
志狼には光輝がいくら頭がよかろうと壁画の解読なんてできないことがわかっていた。
そういうのは、りのの分野だとわかり切っているのだ。
「まぁね〜、大丈夫、大丈夫。あの人も言ってたでしょ?ここにはノエルの手が加えられてるって。俺のお目当てのモノはちゃんとあるはずだよ〜。ついでに、なんかオマケで出てくると楽しいんだけどね?」
光輝はイタズラっぽく笑う。
すると、志狼が急に立ち止まった。
光輝もりのも志狼に合わせてほぼ同時に立ち止まる。
「どうやら、お出ましのようだ。」
志狼はほんのり口角を上げる。
別に元から疑っちゃいねーよ。
こいつが俺たちをつまんねぇ場所なんかに連れてくるはずねぇんだから。
ああ、そうだ。
志狼はわかっている。光輝が選んだ場所にハズレなんかあるはずない。
ただの遺跡調査なら、光輝はわざわざ3人で行こうとはしない。
俺たちは3人揃えば最強だ。4人いれば無敵だろう。
だが、俺はもちろん、光輝もりのも1人だって最強だ。
本来なら群れる必要さえない。
それでも一緒にいるのは、その方が楽しいからだ。
俺たちは1人で生きるのも1人で冒険するのも平気だが、3人揃った方が楽しいだろ?
そんで、クリスがいれば、最高だ。んで、無敵だ。
「わーお、レヴォルトウルフの大群だ!」
光輝は楽しそうに声を弾ませていた。
光輝がレヴォルトウルフと称したその魔獣は通常の狼より2回り大きく、真っ黒な狼のような見た目をした魔獣である。
狼のようなと言っても、狼とは違い、額に黒い渦状の角が1本生えており、赤く光っている。
「うーん、やっぱり全部が元の世界の空想上の生物ってわけでもないんだよなぁ。レヴォルトウルフなんて初めて聞くし。見た目はわかりやすく狼系の魔獣なんだけどねぇ。」
前方に何十、下手をすると何百もいる魔獣の大群が広がっているのに、光輝は全く動揺する様子もなく、ブツブツと独り言を言っている。
そんな中、一匹のレヴォルトウルフが先頭の光輝に突っ込んできた。
だが、光輝は微動だにしないで、レヴォルトウルフを見つめていた。
「やっぱりちゃんと独自の進化もしてるんだよね〜。」
飛びかかってくるレヴォルトウルフを見上げながら、光輝はそう呟いていた。
「ウガァァァ!ッ!グァァ…!!」
だが、その攻撃はもちろん光輝に届くことはない。
「なんだ。やる気ねーなら、全部俺がやっちまうぜ。」
狼の魔獣を蹴り飛ばした志狼は頭だけで光輝を振り返って流し目でそう言った。
その表情はわかりにくいが、楽しそうに殺気立っている。
「うん、よろしく〜。」
光輝もまた楽しそうにそう言う。
志狼はすぐさま単身でレヴォルトウルフの群れに突っ込んでいった。
レヴォルトウルフは唸り声を上げながら、次々と志狼に襲いかかるが、志狼によってちぎっては投げちぎっては投げの状態で吹き飛ばされていく。
「あはははー!楽しそうにやってるなぁ!」
光輝は魔獣の大群の中で戦闘中の志狼を見て楽しそうに笑っている。
「りのはどう思う?」
そして、突拍子もなくりのにそう問いかける。
りのもまた志狼を見つめながら、返答する。
「わからない。私にはノエルの考えていることはわからない。でも、現時点の情報を元に推測する限り、たぶん結論は光輝と同じ。でも、断言するには情報が足りない。」
りのの淡々とした回答に光輝は口角を上げて笑う。
「そっかー、俺はぶっちゃけもう断言しちゃってもいいと思うけどね〜。まぁ、どっちにしろ……」
光輝は、志狼ではなく、りのと自分の方に向かってくる魔獣たちを見て一度言葉を区切る。
「グァァァァァ!!!」
光輝は風魔法で狼型の魔獣を吹き飛ばす。
「ノエルが何を考えてたって、世界の根源が何だって、俺たちには関係ないんだけどね〜。」
いつの間にか魔法の詠唱破棄を完全に修得した光輝は易々と魔獣を退ける。
「うん。」
りのは変わらずレヴォルトウルフの群れと志狼を見ていた。
参戦するつもりはなさそうである。
「でもまぁ、せっかくだし、世界の謎とやらも解き明かしちゃいますか〜!その方が楽しそうだし!」
「うん。」
りのの口角もほんのり上がっている。
全てを解き明かしてしまった後の退屈も、世界の全てを解き明かせるかどうかなどといった疑問も、今の彼らにはない。
それほどまでに彼らの世界は今輝いているのだ。
「さーて!志狼―!楽しそうなところ悪いんだけどー!!」
光輝は伸びをして切り替えると、狼の群れと戦闘中の志狼に向かって叫ぶ。
「あ?」
志狼は戦いながらも、余裕そうに光輝に視線を向ける。
「その魔獣全部倒しちゃったら、せっかくの古代遺跡のレア魔獣がいなくなっちゃうからー!そろそろ突っ切って先に進まないー?」
この世界はゲームの中ではないのだから、魔獣は倒しても再生しない。
ちゃんと生態系として成り立っているのだ。
「ふーん、そういうことか。全然暴れたりねーが、多少の運動にはなったしな、いつまでも犬と遊んでても仕方ねーか。」
志狼にとってレヴォルトウルフなんてその実力の1割もも出し切れないような相手だが、大群なだけあって運動程度にはなったらしい。
何より人間より数倍強いレヴォルトウルフの群れなんだから、人間よりはよっぽどマシである。
ちなみに、犬ではなく狼だ。
「んじゃ、行こっか!」
光輝がそう言うと、りのは頷いた。
「うん。」
すると、光輝はすぐさま風魔法で目の前のレヴォルトウルフたちを吹き飛ばし、道を作る。
同時に、りのはあり得ないスピードで魔法陣を描いてグリフォンを召喚した。
光輝とりのの2人がグリフォンに乗って空を駆けて進むと、光輝の風魔法を悠々と避けた志狼があり得ないジャンプ力で空駆けるグリフォンに乗り上げる。
何の合図もないのに、3人とも息ぴったりである。
そして、そのまま3人は遺跡の奥深く、地下深くにまで潜り込んでいく。
「お、見えてきた、見えてきた〜。」
一番奥には広めの空間が広がっていた。
「ここ、が、ノエルの……?」
グリフォンは天を駆けてまっすぐその空間に向かっている。
「そそそ、たぶんここがノエルの手が加えられた場所だよ〜。」
3人はその空間にたどり着くと、すぐさまグリフォンから飛び降りた。
志狼はもちろん光輝も慣れたものである。まぁ、光輝は着地に風魔法を使っているが。
もちろんりのは志狼が抱えて飛び降りる。りのだって魔法陣で着地くらいどうにかなるのだろうけど、志狼は毎回りのを抱えて飛び降りている。




