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「んで、用事は終わったんだろ?次は俺の番のはずだ。」
志狼はダルそうに、しかし、目はどこか楽しそうにそう呟く。
「おっ、そうそう!次はやっぱり!恐竜の国だと思うんだ!」
光輝は楽しそうにそう提案した。
それには流石の志狼も少し驚いたように怪訝な顔をした。
「は?恐竜?いるのか?」
「それがいたんだよ!まぁ、国って言っても、人は住んでなくて恐竜だらけのまさに太古のジャングル!」
そう、国とも言えないが、その場所はあらゆる危険が内包され、植物が鬱蒼と茂り、何メートル何十メートルもの恐竜たちが闊歩している。
もちろん、そこに人間なんていない。
「そりゃ、いいな。」
志狼は黒目の奥をギラギラと光らせてほんのり口角を上げた。
「ん……楽しそう……」
りのもなんてことないように、ちょっと楽しげに頷く。
そうして、彼らの次の目的地は決まった。
その後2、3日の内に彼らは準備を整えてすぐに出発した。
もちろんその日の1面記事は3人が恐竜の国へ向かうことだ。
街は大賑わいで、彼らの帰りを楽しそうに待っていた。
いつも通り彼らが旅に出た後の執務室にて。
レオンハルトは彼らの次の目的地が決まってから思考を放棄したような顔をしていた。
この世界も誰も近づかない危険区域に何をしに行くのかなんて絶対に聞かないとレオンハルトは心の中で思った。
そんなレオンハルトにクリスティーナは翡翠色の瞳を少し細めて穏やかに微笑みながら、問いかける。
「ねぇ、レオン、あなたはこの国をどう思いますか?」
クリスティーナの唐突な問いにレオンハルトは怪訝な顔をするしかできなかった。
「どう、とは……?」
「そうですわね、行く末などかしら。」
クリスティーナは静かにそう言う。
クリスの問いにレオンハルトは目線を下げ、少し気まずそうに答える。
「その……」
しかし、気まずそうなレオンハルトに対してクリスは余裕のある笑みを浮かべている。
クリスにはレオンの言いたいことが初めからわかっていたのだ。
「遠慮はいりませんわ。」
クリスティーナもレオンハルトも貴族の出身だ。だからこそわかっていた。
レオンハルトは目を伏したまま答える。
「…………この国は、長くは続きません……」
こんなことを国主に言うなんて本来なら許されることではない。
だが、レオンハルトはわかっていた。
クリスティーナもそのことには気がついているということを。
そして、わかった上で彼女はパラミシアを独立させ、光輝たち3人を野放しにしているのだと。
「ええ、わかっていましたわ。この国はもはや彼ら3人なくしては国として成り立たない。そもそも彼ら3人こそがこの国をこの国たらしめる。」
そうこのパラミシア独立の元凶である彼らこそがパラミシアを国として成立させている。
その圧倒的な力と頭脳がパラミシアの独立に繋がり、それこそがパラミシア独立の要である。
そして、3人だけでなく、政と商才に長け、常識に囚われずに大胆な政策を行うクリスがいるからこそこの国は成り立っている。
「この国はたとえ彼らが世界中を敵に回したとしても、彼らがいる限り何にも屈することはありませんわ。」
クリスティーナは微笑みながら、レオンハルトを真っ直ぐ見つめてそう断言する。
そこに一点の迷いもない。
レオンハルトも顔を上げて、己が主を見つめる。
「はい。りの様、光輝様、志狼様、そして、クリスティーナ様がいらっしゃれば、武力、経済力、政治力、ひいては、医療、教育など全てにおいてこの国はどこよりも優れましょう。ですが……逆を言えば、誰か一人でも欠ければこの国は成り立ちません。彼らは……無敵ではありますが、不老不死ではありません……」
初めは真っ直ぐクリスティーナを見つめていたレオンハルトだったが、言葉の途中でだんだんと眉をひそめ、視線を下げざるを得なかった。
レオンハルトのその言葉にクリスティーナは更に笑みを深める。
それを見て、レオンハルトはクリスティーナの言葉を待つ。
レオンハルトが懸念していたことなど自分が進言しなくともクリスティーナはとっくに気づいているはずだと確信していた。
いや、そもそもその辺も全て考慮した上で独立を宣言し、あまつさえ国家機密とさえ言える彼ら3人の行ないを公にしたはずなのだ。
「私はこの国を長らえようとは思っておりません。」
クリスティーナは穏やかながらも、はっきりとした口調でそう断言した。
それにレオンハルトは目を見開いた。
クリスティーナ様のことだから、この国の行く末をきちんと考えていらっしゃると思っていた。
だが、まさかパラミシアを誰よりも愛している主人がそのようなことを考えていたとは。
「もちろん、私の一存で決められるものではありません。民たちの意志が第一ですわ。……でも、きっと皆私と同じ結論に辿り着くと思いますの。」
クリスティーナは穏やかに笑う。
その笑顔は何の含みもなく、ただただ穏やかに彼女は笑っている。
そして、彼女は窓からパラミシアの国を見渡す。
風がサラリと彼女の髪を撫でる。
「だって、もう彼ら3人がいないパラミシアなどそれはパラミシアではないのですから。」
穏やかに、仕方なさそうに、楽しそうに笑う主人にレオンハルトは目を見開いた。
ああ、そうか、考えるまでもなくわかっていたことなのだ。
自分は難しく考えすぎていたのだ。
貴族として治世を学んできたが故に見えなくなっていたのだ。
「そうですね。そうなりますね……本当に恐ろしい方々だ。魅入られたら一溜りもない。」
この国はおそらくそういう結末を選ぶ。これは予感だ。
この国は彼らの存在を知ってまだ日が浅い。
この先どうなるかはまだ誰にもわからない。
だが、きっとこの国は、この国の民たちは、クリスティーナと同じ結末を選ぶのだろう。
だって、この国はもう彼らに魅入られてしまったのだから。
そんな2人の会話をガレスとエルシリアは黙って聞いていた。
実はエルフ2人も護衛のため、その執務室にいたのだ。
ガレスはこの話を聞いて驚いたなんてものではない。
元々クリスティーナについては大胆不敵で有能な人物だとは思っていた。
だが、それほどの覚悟を持っているとは思っていなかった。
彼女の行動と決意にそれほどの意味があるとは思っていなかった。
彼女はこの国を、代々彼女の祖先たちが守り慈しんできたこの国を、自らの代で終わらせる決断をしたのだ。
いずれ力を、象徴を、あの3人を失うこの国の行く末を彼女は誰よりも的確に見通し、決断した。
自分がもし族長となっていたら、自分はそれほどの決断をできただろうか。彼女のように遥か未来を見越して決断できたのだろうか。
いや、無理だ。
クリスティーナは自分とは格が違う。
本当に流石はあの3人に認められた人物だと感心した。いや、驚愕したという方が正しいのかもしれない。
一方、エルシリアはただただクリスティーナ様がりの様のために動いてくれるのが嬉しかった。
この国はりの様たちのためだけに作られた。
そして、りの様、光輝様、志狼様、クリスティーナ様だけがこの国をこの国たらしめ、この国を存続させられる。
ああ、クリスティーナ様は本当に素晴らしい方です。
もし私が同じ立場に立っていたとしても、決してクリスティーナ様のような決断はできなかった。
私ではりの様を輝かせることはできない。私ではりの様の才能を遺憾無く発揮していただけるこの状況は決して作れなかった。
ああ、クリスティーナ様、命にかえてもお守りします。
あなたがいなければ、我が最愛の主たるりの様が遺憾無くその素晴らしすぎる才能を発揮することができないのですから。
それに、クリスティーナ様を失ったりの様を見たくはないですから。
きっとりの様はとても悲しみますし、なによりクリスティーナ様の代わりができる存在なんてきっとこの世界のどこにもいませんから。
命にかえてもと言っても、もちろん、死んでしまったら、りの様の作り出す様々な魔法陣や技術、そして、その偉大なる頭脳が導く真実、などがお傍で見れなくなってしまうので、極力避けたいですが。
ですがまぁ、どの道クリスティーナ様を守れなければ、光輝様あたりに殺されますし。
2人のエルフはそんなことを考えていた。




