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「おっ、いたいた!りーのー!あ、やっぱり志狼もいる。」
どうやら、光輝たちがりのたちに合流するより早く志狼がりのたちと合流してたようである。
「まぁ、心配なんてしてないけど、そっちでも幽鬼、あ、幽霊みたいなの出たよね?どうだった?」
「ぶっ飛ばした。」
志狼の即答に幽鬼をどうやってとエルフ2人は思ったが、とりあえず黙った。
そして、りのの代わりにガレスが答える。
「……りの様が神聖魔法で倒した。」
「神聖魔法!?まさか魔法陣でですか!?」
神聖魔法についてテンションが上がりまくったエルシリアはまたマシンガントークを始めた。
だが、エルシリアのマシンガントークはひとまずスルーされた。
「んで、どこのどいつだ。俺たち喧嘩売ってんのは。」
志狼はそう光輝に聞いた。
「ん、まぁ、なんとなーくわかってる。」
光輝は目を瞑り、わざとらしくそう言う。
「そもそも、こんなところにトラップなんか仕掛けて何がしたかったのか?」
その問いかけに答えるのも光輝自身だ。
「そりゃー、獲物が引っかかるのを待ってたんだよ。じゃあ、獲物はエルフ?いーや、それはない。世界広しと言えど、エルフの隠れ里を特定できるのなんてりのくらいだ。たぶんね。じゃあ、獲物は……誰かな?」
楽しそうな光輝の問いに答えたのは志狼だ。
「俺たちか。」
「せーかーい!そして、この世界で俺たちを知っている存在はまだそれほど多くない。これほどの事をできる存在なんて更に限られる。つまり、答えは……」
楽しそうに、司会のように、謎解きをしていた光輝は、指から小さな矢を放った。
本当に小さな、人差し指ほどの大きさしかない光の矢である。
「あんただ。ウィリアム。」
光輝は放った矢は何もない1本の木の枝に刺さるかと思われたが、その前に止まった。
いきなり光の矢を指先で折り、優雅に登場人物したのは、ウィリアム・マーキュレー、数ヶ月前に志狼と戦った魔族の四天王の1人である。
「お久しぶりです。光輝様、志狼様、りの様。またお会いできて光栄です。」
優雅に木から降りたウィリアムは、以前と同じく貴族の紳士らしい服を着て、手袋をした手を胸に添えて礼をする。
「光輝様におかれましては、この短期間に魔術も習得なされたのですね。しかも、あれほど高度な探知魔術に、戦闘魔術までも。」
紳士然とした笑顔を浮かべながら、どこか楽しそうにウィリアムはそう言った。
ウィリアムは光輝の言葉を思い出していた。「次会う時にはスゲー魔法の一つや二つ使えるようになってるよ!」と無邪気に笑っていた彼の表情と共に。
「ひっさしぶりー!元気してた?」
ガレスは光輝のこの元気な挨拶に正気に戻った。
「いやいや、なに友達みたいに挨拶してんの!?魔族だぞ!?四天王だぞ!?」
実際もっと自分も警戒すべきなのだろうが、どうしても3人が緩いため、油断してしまう。
「心配なさらなくとも本日は本当にただの挨拶に参った次第ですよ。」
「あっれー?挨拶だけ?」
慌てるガレスに対して紳士然として振る舞うウィリアムであったが、光輝は少し挑発的であった。
光輝はウィリアムがこのタイミングでちょっかいをかけてきた理由を正しく理解しつつ、おちょくっているのである。
「どうせなら、遊んでけよ。」
志狼が笑っている。
楽しくて楽しく仕方のない猛獣が、それでも獲物を見定め、理性を抑えるかのようなそんな笑みだ。
ガレスやエルシリアでさえわかる。今、志狼に話しかけてはいけない。志狼の視界、いや、意識のほんの片隅にでも入れば、狩られる。それほどの威圧だ。
それにはウィリアムも眉を潜めて笑った。
「私では相手にならないことは既に証明されておりますよ。」
今や、光輝やりのもウィリアムの手に負えるか疑問である。
前回彼らに負けた後、光輝やりのを人質に取ったらどうするかと志狼に尋ねた。
その問いに志狼はさも当然のように「あいつらは強い」と言い切った。
そして、その言葉の通り2人はたった数ヶ月会っていなかっただけで人間の域などとうに超えていた。
光輝はニヤついてウィリアムを見ていた。
「あん時のが全力ってわけじゃないんだろー?」
そうである。
ウィリアムはあの時決して手を抜いていたわけではない。事実あの時彼は本気で死を覚悟していた。
だが、志狼を完全に格下だと思っていた分攻撃はかなり単調なものであったし、魔力も全力ではなかった。
「まぁ、それはまたのお楽しみにということで。」
ウィリアムもどこか楽しそうである。
「んじゃ、用件はー?」
「光輝様はもうわかっていらっしゃるようですが…」
まぁ、予想はしていた。
ウィリアムの方から来るとは思っていなかったが、さっきのワープトラップの犯人がウィリアムだと気付いた時点でそれは確信へと変わった。
「あなた方のお目当てのものは我らが魔王様がお持ちです。」
ウィリアムは穏やかに微笑みながら、そう告げる。
「あー、やっぱり?」
光輝は予想していたのだ。
別に獣人の国へ行った時のように何か根拠があったわけではない。
だが、そうではないかと思っていた。
そして、今回ウィリアムの存在を認知した途端それを確信した。
2人の会話で察した志狼は口角を上げて笑う。
「へぇ、んじゃ、楽しくなりそうだな。」
「魔王の相手は志狼かなー?いや、案外……」
光輝は楽しそうに思案している。
その表情はいつもの底抜けの笑顔でも貼り付けた笑顔でもない。
強敵と出会うのを楽しみにしているような、何かを抑えるような笑みだ。
「まぁ、どの道、魔王と四天王相手取るのは楽しそうだ!な、りの!」
「……ん…」
3人は楽しそうに笑う。
その表情にはまだ闘志はない。ただまるで祭りを楽しみにするように笑うのだ。
ウィリアムもまたどこか楽しげに笑みを浮かべる。
「しかし、まだ、ですね。」
ウィリアムのこの言葉の意味をエルシリアとガレスは理解できなかった。
しかし、3人は理解していた。
「わかってるよー。まぁ、でも、“すぐ”だよ。」
光輝は自信たっぷりに笑う。
「それそれはすごい自信ですね。でも、そうですね。あなた方なら本当にそうなのでしょうね。」
ウィリアムの用件はそれだけだったようで「それでは、またお会いできる日を楽しみにしております」と言って去っていった。
「あの、まだとはどういうことなのですか?」
エルシリアが先ほどの疑問を光輝に尋ねた。
それに対して光輝はあっけらかんと答える。
「あー、俺とりのはまだ魔王を相手取れるほどじゃないってこと。」
光輝は何でもないことのように言ったが、これに「しまった」と思ったのはエルシリアとガレスの2人だ。余計なことを聞いてしまったと。
それに気が付いた光輝が片方の口角を上げて笑う。
「んな顔しなくても、すぐって言ったろ?大丈夫だよ!な、りの!」
「…ん…」
2人とも全然気にしてないようなので、ガレスとエルシリアは胸を撫で下ろした。
何せ光輝とりのが“まだ”ということは、つまり、現時点では2人が志狼より弱いということになってしまう。出会ったばかりのエルシリアとガレスにもそれはマズいとわかる。
3人は対等なのだ。それは絶対なのだ。
そんなエルフ2人を志狼は呆れたように見ている。
「はぁ……てめーら、りのについて行くなら、覚えとけ、俺たちは強ぇ。俺たちが最強だ。りのと光輝が俺より弱いわけねーだろ。余計な心配するな。胸くそ悪リィ。」
志狼は別に怒っているわけではない。だが、2人のエルフの頭にすり込むにはその言葉だけで充分だった。
そもそもエルシリアは光輝から先ほど似たようなことを聞いたばかりである。
最強は3人だ。そして、4人揃えば無敵なのだ。まだクリスティーナには会ったこともないが、それがエルシリアとガレスの常識にそのことが刻み込まれた瞬間であった。
とりあえず、2人のエルフは悟った。
少しでもその”常識”を疑ったり、心配したりすれば、志狼に殺される、と。
そうして、3人とエルフ2人はパラミシアへ帰ってきた。
「そうですか。今回はそのようなことが。」
クリスの執務室ではいつも通り光輝による報告が行われた。
エルフ2人の紹介も既に済んでいる。
「エルフですか。確かにエルフならこの屋敷の防衛戦力として文句ありませんね。クリスティーナ様。」
優雅に紅茶を飲んでいたクリスはレオンのその言葉に失笑した。
「ふふふ、何を言っているのですか。敵がこの屋敷に侵入などできるはずがないでしょう?それどころかこのパラミシアにさえ不可能ですわ。そうでしょう?りの。」
「……ん…」
さも当然のように言うクリスに驚いたのは他の誰でもないエルだった。決して驚きの表情は表さないが。
そう、クリスはまだりのが新しい結界を創り出したわけではないのに、当然のようにそう確信しているのだ。
「あぁ、そういえば、エルフの里の結界を破ってしまってよろしかったのですか?」
実はりのがあっさり破ってしまったあの結界は古代エルフの知恵の結晶であり、流石のエルフでもそれを復元するとこは不可能である。
逆に言うと、それだけ長い間誰にも破られなかったとも言えるが。
「………復元、した……」
そのりのの言葉に目を輝かせたのはエルだ。
「はい!そうなんです!あの見事な復元!エルフなんて足元にも及ばないうっとりしたくなるほどの手際でした。」
その恍惚とした表情にレオンはドン引きした。
また屋敷に変なのが増えたと、そう思った彼であった。それは暗に己の主と光輝たち3人のことも変人扱いしていることになるが、そのことには誰も気がつく由はない。
「では、改めまして、エルシリア、ガレス、ようこそパラミシアへ。これからよろしくお願いいたしますね。」




