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光輝、志狼、りのの3人は気がつくと、白い空間ではなく、どこともわからない川辺に立っていた。


「うわー、まじで一瞬なんだなー。さっすが神様!おぉ!異世界だー!」


光輝に慌てた様子はなく、大きく伸びをして楽しそうにそう叫ぶ。


「まぁ、と言ってもまだどこにも異世界要素ないけど。」


「………か……わ………」


りのは辺りを見回して何か考えているようである。


「うーん、まずは自己紹介!って言いたいところだけど……なんかまとまりないメンバーな気が……」


光輝は他の2人を見て率直な感想を述べる。


そして、志狼はなぜか森の方に視線を向けて口を開く。


「誰だ。」


誰もいない森に向かって志狼がそう言うと、森の中から1人の男性が彼らの前に現れた。


「おやおや、よく私に気がつきましたね。あなたたちこそこんなところで何をしているのですか?」


その男性は昔のヨーロッパ貴族の礼装のような格好をしていた。

そして、顔つきも気品があり、輝く銀の長い髪を束ねているのも様になっている。

また、物腰も柔らかく、紳士然としていた。


「迷ってしまったのですか?それなら、1度私の屋敷に来るといい。お疲れでしょう。」


男性はとても穏やかにそう提案した。

それに対して、光輝も笑顔を"張り付けて"男にお礼を言う。


「助かります。俺たち実は異世界の住人で、いきなりこの世界に放り出されて困っていたんですよ。」


志狼はそんな光輝を見てノエルの言葉を思い出した。

ノエルが光輝のことを「言葉を偽って生きてきた」と言っていたことを。


男性は少し驚いた様子を見せた後、先ほどと同じ穏やかな笑顔で口を開く。


「それは大変でしたね。私の屋敷でゆっくりお休みください。大したおもてなしもできませんが。」


そう言う男性に続いて3人は歩き出した。


しばらくすると、男性の屋敷に着いた。


その屋敷はとても立派で、貴族の屋敷のイメージそのものであった。

そして、3人は客室らしき場所に案内された。

既にそこには上品な飲み物とお菓子が用意されていた。

光輝は貴族紳士風なその男性に促されてソファに腰掛けると、すぐに紅茶を一気に飲み干した。


「ぶっはー、生き返るー!」


男性は穏やかな笑みをずっと浮かべている。

紅茶を飲み終え、カップを置いた光輝はそんな男性ににやりと笑う。


「あははっ、今チョロいって思っただろー?」


光輝が楽しそうに笑いながらも目は笑ってないことに気づける人間がいったいどれだけいるのか。


「何のことでしょう?」


その言葉に男性の表情は変わらず、穏やかな笑みで首を傾げる。

光輝は挑発的な笑みを浮かべたまま話を続ける。


「あんたは"まだ"俺たちを殺せない。本当に殺すつもりがあるんなら、わざわざこんなところに連れてきたりしないだろ?」


光輝がそう言った後、男性の雰囲気がほんの少し変化したことを光輝は決して見逃さなかった。


「……だから、躊躇せずに飲んだのですか。能天気な方だと思っていましたが、これは評価を改めなくてはいけませんね。」


男性は今までと打って変わって抑揚のない声でそう呟く。


「それだけじゃないよー。あんたは俺たちに興味がある。なのに、簡単に殺すわけないでしょ?」


光輝はとてもとても楽しそうだ。

ニヒルに笑った顔は普段の底抜けな笑顔とは全然違うが、それでも、とても楽しそうなのだ。


「ほぉ、そこまでわかっていて何でついてきたんですか?あなたの言う通り私は"まだ"あなたたちを殺さないだけなんですよ。ああ、あと、どうして私がただの善人でないとお気づきに?」


志狼は興味なさげにクッキーを食べながら答える。


「はっ、そんだけ胡散臭い笑顔振りまいておいて何言ってやがる。」


志狼はいわゆる野生の勘でウィリアムを胡散臭いと認識したようである。

りのも無表情なまま口を開く。


「……こ、の……世界、に……異、世界…からの、訪問者……なんて、いない。」


つまり、異世界からやって来たという言葉に驚きつつも信じたこの男は怪しいと、りのは言いたいようである。

りのは初めて会った時に全て見抜いていた。

光輝のように相手の出方や表情、背景などを考慮したわけではないし、志狼のように野生の勘が働くわけでもない。

りのはただただ当然のようにその頭脳でその結論を導き出した。


3人の言葉を受けて、男性は優雅な動きで紅茶を一口飲んだ。


「さすがあのお方が選んだ方たちだ。」


その笑みは変わらないが、どこか不敵さを帯びたようにも見える。

そんな彼に志狼は割とどうでも良さそうに口を開く。


「つーか、あんた人間じゃねーんだろ。」


志狼の言葉に光輝は興奮したように目を輝かせて言う。


「やっぱり!?うっひょー!初の人外!」


光輝はとても楽しそうだ。

男性はそのやり取りに怪訝な表情を浮かべた。


「あなたたちの世界には人間以外はいなかったのですか?そうだとしたら、もっと解せませんね。なぜわかっていながら付いてきたのですか?」


その言葉に志狼は呆れたような表情をする。


「はぁ?そんなの……」


志狼は1度言葉を区切った。


光輝も、りのも、志狼も同じような表情を浮かべた。

楽しくて楽しくて仕方がないと心から思い、口が自然と笑みを浮かべる。

その瞳はどこかギラギラと光り輝いているような錯覚さえ覚える。




「おもしろそうだからに決まってんだろ。」




その表情と雰囲気に、まるで飲み込まれたように男性は呆然としてしまった。

彼らのその表情は、百戦錬磨の武人が強敵と出会ったときに浮かべるような、そんな表情だと感じてしまったのだ。


戦いを楽しむ圧倒的強者の笑み、それを浮かべるこの3人から感じる異様な圧力……その笑みに魅入られずにはいられなかった。


そして、彼は不思議で堪らなくなった。

なぜなら、1人を除けば戦いなどとは無縁そうな2人、しかもその1人も命をかけた戦いなんてしたことがないであろうことは容易に想像できた。

異世界のことなんて知らないが、人間しかいない世界、そんなところから来た人間がなぜ……と無表情の下で思考を巡らせた。


そこまで考えてハッとした。

それから、ごちゃごちゃとした思考を飲み込んで用意していた言葉を紡いだ。


「………では、ゲームをしましょう。そうすれば、あのお方があなたたちを選んだ理由がわかる。あのお方からどんな能力を授かったか知りませんが…」


その言葉にりのは首を傾げた。


「…う……ん……?」


りのは心底不思議な顔をした。

そして、志狼は「何言ってるんだ。」という顔をし、光輝はおかしそうに笑った。


「あははっ!そんなもんもらってないよ。ノエルがそんなつまんないことするわけないだろー。」


男性は再び驚愕の表情を浮かべた。

彼はこんなにも表情を崩されたのは生まれて初めての出来事だった。


「ノ、ノエル、さ、ま……を呼び捨てですか……。それに、何ももらっていない?あなたたちには魔力がないのですよ。そんな人間をそのままこの世界に放り出すなんて……」


戸惑っている彼に志狼は面倒くさそうに口を開く。


「そんなの決まってんだろ。必要ねーからだ。そいつらがどうかは知らねーが、俺はそんなもんもらわなくたって負けねーよ。」


志狼はアホらしそうにそう言う。

そして、光輝は笑う。


「ふはははっ!自信満々だねぇー!あ、俺見ての通りか弱いオタクだから、そっちは期待しないでね。」


りのは何を考えているのかわからない無表情で見当違いのことを言う。


「……ノエルは……呼、び、捨て……怒ら、なかった、よ?」


彼らはいたってマイペースに話している。


マイペース過ぎる彼らを見て、男性も少しずつ冷静さを取り戻したようだ。

男性は彼らの異常さの根源を見てみたいと、そう思う気持ちがますます強くなっていくのを自覚していた。

彼らの言うことが本当なら、あの神さえ認めたほどの何かが彼らにはあるということだ。


「それなら、なおさら私のゲームに乗ってくれますね?ああ、自己紹介がまだでしたね。私はウィリアム・マーキュレーと申します。魔王様直属の四天王が1人です。」


「うおっ!まさかの展開!異世界で初接触した相手が魔族で四天王!大物キターー!!!」


光輝はすでに楽しそうである。


「んで、そのゲームとやらの内容は?つまんなかったらやらねーぞ。」


だが、志狼はあまり乗り気ではなさそうだ。


「簡単なゲームですよ。あなたたちがこの屋敷から脱出できたらあなたたちの勝ち、できなかったら私の勝ちです。」


ウィリアムがそう言うと、屋敷の雰囲気が一変した。

先ほどの貴族風の屋敷が薄暗く黒を基調とした如何にも魔族の屋敷になったのだ。


そして、人ならざる者の叫びや動きが微かに響く。


「さて、魔法が使えない人間がどうやって魔族に立ち向かうか、そして、この迷宮を脱出するか、見ものですね。」


ウィリアムはやはり穏やかな笑みを張り付ける。


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