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そして、クリスが言っていた6日後のパーティーがクリスの屋敷で開かれた。
本来なら一新米領主が主催したパーティーに来る者などたかが知れているが、今回は例外だった。
先日世界を揺るがすほどの大きな発表をしたクリスティーナ・レーウィンが主催するパーティーなのだ。国内外からあらゆる者が来ている。
もちろん全員が貴族である。
王族は流石に来ていないものの、王室からの使者はいる。
人間に限らずありとあらゆる国から権力者、もしくはその使いが来ている。
クリスは舞台裏にてそれらの来賓を眺めていた。
その表情は真剣そのもので何を考えているのかわからない。
「クリス様…」
何か励ましの言葉をかけねばと考えたレオンハルトの言葉をクリスは遮る。
「レオン、心臓の音がうるさいわ。」
クリスはレオンハルトを振り返りもせずそう言った。
レオンハルトの「クリス様なら大丈夫ですよ。」というありきたりな台詞はクリスの表情を見た途端引っ込んだ。
「これが私の戦場。私はこれから彼らと共に世界を相手取るのですわ。」
そう言って不敵な笑みを浮かべてレオンハルトを一瞥したクリスは振り返ることなく舞台上に出て行く。
「これほど胸踊ることがありましょうか。」とクリスは言外に述べているのである。
緊張や不安なんてものは端からなく、その心臓は興奮と喜びに満ちているのだ。
「……敵いませんね。本当に。」
レオンハルトは呆れと期待を胸に彼女の、いや、彼女たちの新たなる一歩を見届けようとしていた。
そして、クリスは壇上に立って挨拶の言葉を述べる。
もちろんその表情から浮き足立った心情なんて微塵も伺えない。
それくらい完璧にこなしてみせる。
「さて、ここからが本題ですわ。今日皆様にお集まりいただいたのはーーー」
集まった者たちは待ってましたと言わんばかりの表情である。
「先日私が発表した魔法陣の絨毯を創り出した"者たち"を紹介するためですわ。」
そう言ってクリスティーナは万人受けする笑顔を浮かべた。
クリスのその言葉を聞いた者たちの反応は様々であった。
大発明をした者を引き抜こうと画策する者、尊敬の念を強める者、好奇心を浮かべる者、嫉妬する者、政治的疑念を浮かべる者、「者たち」という言葉で研究室ではなく一個人の発明だと気がついて驚く者……
「ふふふ、皆様興味津々のようですわね。」とクリスは心の中で計画が順調に進んでいることを喜んだ。
しかし、彼らが何も仕出かさずにことを終わらせてくれるとは思わない。
その時、窓ガラスが割れる音とともに凄まじい音が会場を包み込んだ。
会場の中は混乱状態に陥ったが、護衛がすぐ動いた。
そこにクリスの冷静な声が響く。
「皆様、落ち着いてください。」
クリスはいたって落ち着いている。
なぜなら、そんなことをする犯人なんてわかりきっているからだ。
「あー、わり。遅れた。」
悪びれることなくりのと光輝を抱えた志狼がクリスに言った。
「遅刻よりも私の屋敷を壊すのをやめてほしかったですわ。」
クリスは呆れたように笑った。
そもそもクリスの屋敷にはりのの結界がある。
あれを破れる者なんてそうそういるはずがない。
たとえ破れたとしてもこの3人に気づかれずにクリスのもとに辿り着ける存在なんてこの世界にはいないだろうとクリスは確信を持っている。
「彼らこそ私が紹介しようとした者たちですわ。」
そう言われて3人に目を向けた人々の反応は様々である。
もちろん当の本人たちはまったく気にしてない。
「あ、クリス、これお土産。」
そう言って光輝は抱えてた箱を開くと、そこには金銀財宝や貴重な魔法具がぎっしり詰め込まれていた。
どうやら早めに着替えを済ませた彼らは退屈を持て余し、どこかで宝探しをしていたようである。
「ふふふ、今度はどこに行ってらしたのですか?」
「んー?テーレの遺跡!」
その言葉を聞いて、人々はさらに騒めきを大きくする。
テーレの遺跡とは、多くの者が研究や宝探しのためにそこへ向かったが、あまりに危険でほとんどの者が途中で断念するか命を落とすかその二択しか存在しなかった場所だ。
もし彼らの言うことが本当なら、彼らはどの国の兵団よりもどの冒険者よりも力を持っているということになる。
招待客の中で彼らの言葉を疑う者は多い。
あまりにあり得ないからである。
しかし、彼らの手には見たこともない財宝が確かにそこにある。
「ずいぶん派手な演出ですわね。」とクリスは心の中で笑う。
志狼とりのはおそらく本当に暇つぶしで遺跡探索をしたのだろうが、光輝にとってはお披露目のための演出の一つであるのだろう。
「先ほどガラスを蹴破ったのが先日レオーネ王国のハイエナを潰した志狼ですわ。」
ハイエナが潰されたことは近隣諸国ではそれなりの話題を呼んだ。
その当人にこんなところで出会うだなんて人々は想像だにしてなかっただろう。
「その隣の彼は魔法陣の絨毯を発案した張本人である光輝ですわ。」
騒めきが大きくなればなるほど、クリスの計画がうまく進んでいる証拠である。
「そして、そこの可憐な少女こそこの世界で魔法陣を一から描ける唯一の存在、りのですわ。」
もはや人々の騒めきは街の喧騒のようである。
叫びたいことや聞きたいことは山ほどあるだろうが、貴族としての矜持がそれを思いとどまらせている。
「今日皆様にお集まりいただいたのは彼らを紹介したかったためだけではありません。」
つまり、ここからが本当の本題だと気がついた招待客たちは一瞬にして静まった。そして、招待客たちは一領主であるクリスの思惑を図る。
クリスの瞳に迷いなどない。
その笑顔の奥にはまっすぐと前だけを見つめる強い眼差しが隠されていた。
「本日この時を持ってパラミシア領はカルディアー王国から独立し、自治を行なうこととします。」
夢にも思っていなかった発言を聞いた招待客たちは一瞬クリスの言葉を理解できなかった。
それもそうである。
たかが小さな領地の一領主が独立を宣言するなど誰が思いつこうか。
光輝はいたずらに成功した子供のように笑って口を開く。
「言っとくけど、人間だろうが、他の種族だろうが、クリスの邪魔をするなら容赦しないから。」
光輝はこの言葉に重みを持たせるために今までの演出を行なったのである。
しかし、もともとはクリスが言い出したことである。
クリスはこのパラミシアの独立を決心した。
そのために、りのと光輝が創り出した絨毯と先日のハイエナ潰しの件を切り札としたのである。
そこに光輝はさらにテーレの遺跡という切り札を追加したのである。
「私は彼らと同じ道を歩んでいきます。ですから、枷は今のうちに取り除かなくてはなりませんの。」
国というものが、クリスの領主という身分が、いつか彼らの枷となるとクリスは考えていた。
しかし、クリスはパラミシアを愛していたし、領主であるからこそ彼らのバックアップができる。
ならば、国の方を捨てようとクリスは考えた。
国の庇護などなくとも、彼らとならやれる。
この4人が揃ってパラミシアを守れないはずない。たとえ相手がどんな大国であろうと、獣人であろうと、魔族であろうと。
これがクリスの選んだ道である。彼らとともに歩む道である。




