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「てめぇらいい加減にしろよぉ!!!!全員まとめてぶっ殺してやんよぉ!!!」
ハイエナのボスのその一言で下っ端たちが一斉に襲って来た。
ちなみに、アホそうな下っ端が「あの女はどうします?」と聞くと、ボスは「聞いてなかったのかぁ!!皆殺しつったろうがぁ!!」と一喝した。
そして、ボスはフッとゲス顏のまま余裕の笑みを浮かべた。
しかし、光輝もまた余裕そうに笑っている。
「さーて、どういう筋書きにしようかね。どう思う?りの、志狼。」
光輝が楽しそうに2人に聞く。
「あ?要は二度と立ち直れないくらいぶっ潰せばいいんだろ?」
「…光輝か…志狼…の方が、派手……?」
「あはははっ、りのも十分派手だと思うけど、まぁ、今回は俺がやろっか!」
「ちょ、もう来てるわよ!?どうするのよ!?」
敵が一斉に襲いかかってもあまりに能天気に会話している3人に、リズは一抹の不安が……過るよりも、血管が切れそうである。
「あははははっ!リズの血管が切れないうちにやっちゃうか!」
光輝は相変わらず楽しそうである。
そして、次の瞬間には落ち着いた笑みを浮かべていた。
「【大地の怒りよ、炎となりて、爆ぜよ】」
光輝がそう口にした瞬間爆発音と共にあたりが炎に包まれた。
屋敷は木造なので、炎はあっという間に広がる。
「チッ!小賢しいやつらだなぁ!!」
ボスはなんともない振りをしたが、内心はかなり焦っていた。
見たところただの子供であったため、警戒はしていてもここまでとは思っていなかったのだ。
「チッ、中級の炎系の魔法か。厄介だな。」とボスは考えていた。
しかし、実は光輝が使ったこの魔法はどちらかというと闇系の魔法である。
その場にいた獣人には魔法を齧っている者などいなかったため、誰もが光輝の魔法を炎系の魔法だと勘違いしたのだが。
この世界の魔法には難易度や威力を表す階級はあるが、系統のようなものは定まっていない。
種族によって使う魔法が違いすぎることや魔法の種類があまりに豊富なことが原因である。
まぁ、でも、炎や水といった魔法は認識しやすく、知識のない者はそういう大枠で捉えている。
光輝の魔法は炎を出したため、一見炎系だと思われるが、そのエネルギー源は"怒り"であるため、どちらかというと闇系に分類される。
ちなみに、上級魔法だ。
「よく…燃え、る…ね……」
炎の中でもりのはまったりとしている。
「よっぽど、恨まれるようだねぇ。」
「ふーん、怒りってそういうことか。」
光輝がしみじみとそういうと、志狼は何気なくそう言った。
そして、リズもまた彼らの会話にピンッと来たようだ。
始めて会った時光輝が使っていた魔法がこれだと。
「その魔法は怒りを源にしているの?じゃあ、あの時は無詠唱でこれを使ったってこと…?」
そろそろリズも冷静になってきたようだ。
というよりも、ただ単に3人の破天荒ぶりに慣れて……いや、驚くのが流石に面倒になっただけである。
獣人である彼女だって知っている。無詠唱で魔法を使うなどそんなの相当高度な技術だということは。
「違うよ。あの時は…」
光輝が話しかけている時に下っ端が1人炎を潜り抜けて襲ってきた。
「【爆ぜろ】」
しかし、光輝のその一言と共に下っ端は吹き飛んだ。
「って小声で言ってただけだよ。まだ無詠唱で魔法は使えないからね。」
まだなのねとリズは思った。
きっとこの3人に不可能がないのは本当なのだろう。
「あ、そういえば、これもらって行くから!」
光輝の手にあるものを見てボスは顔色を変えた。
「こんっっっっのコソ泥がぁぁぁぁ!!!!!てめぇら!!何が何でもあれを取り戻せぇぇ!!!!」
ボスはそう叫んだが、下っ端たちはなかなか光輝に近くこともできない。
ボスは下っ端が魔法相手に手も足も出せないのを見て、自ら光輝に襲いかかってきた。
獣人の中でもかなり優れた身体能力である。
今の光輝では反応もできない次元である。
だけど、既にボスの出陣を予想していた光輝はニヤリと笑ってボスを一瞥した。
そう、一瞥しただけなのである。
リズは一瞬叫びそうになったが、その必要は全くなかった。
「あはははっ、やっぱ獣人相手なら志狼だよね!」
そう、志狼が獣人以上の身体能力で既に光輝の前に立っていたのだ。そして、もちろん光輝は志狼がそうするとわかっていた。
「てんめぇぇぇ!!!」
ボスは志狼の身体能力に一瞬驚いたが、もはや引くことはできない。
光輝に向けた拳を志狼にそのまま向けた。
「へぇ、獣人の身体能力は並外れてるとは光輝から聞いていたが…」
志狼は少しだけ口角を上げた。
その後の出来事を、リズは獣人の端くれであるため、その動体視力でなんとかとられるとこができた。
獣人であるボスの拳をいとも簡単に掴み、そのまま押し込んだ。
そう、"人間"が"獣人"の身体能力を遥かに上回っている。
そんなあり得ない事実をその目にしっかりととらえたのである。
リズはその光景にただただ目を見開いていることしかできなかった。
志狼に吹き飛ばされたハイエナのボスを見て光輝のちょっと残念そうな声になった。
「あーらら、思いの外チョロいんだ〜。志狼の身体能力が異常なのは知ってるけど、ハイエナのボスもなかなかのもんって聞いてたんだけどなぁ。」
「ち、から…任せ、すぎ…た」
「あー、なるほど。単細胞でその身体能力を生かせなかったわけね。」
りのの言葉を光輝は納得したように頷いた。
志狼は口角が上がったままの表情で振り返る。
「でも、悪くない。ノエルの言う通りだな。」
いつも通りの声音だが、その表情はまだ見ぬ強敵との戦いにギラギラと目を光らせていた。
そんな志狼を見て光輝とりのも口角を上げる。
3人の冒険はまだまだ始まったばかりである。
「あははははっ!なんだ、そういうことだったのね。」
リズはおかしそうに、呆れたように、笑った。
ああ、そうだったのだ。そういうことだったのだ。
彼らは生きている世界が違うんだ。見ている景色が違うんだ。次元が違う。何もかもが狂ってる。
そう、彼らとリズは全てにおいて違いすぎる。
いや、おそらくこの世界の誰一人とて彼らと同じ世界を生きることなんてできないのだろう。
そして、きっと彼らは己と他2人のことしか信じない。
力も、心も。
でも、リズはそれでいいと思えた。
たとえ彼らと同じ世界を見れなくても、その隣に立てなくても。それでいいと。
だって、きっと世界を揺るがす存在となる彼らをこんなに近くで知ることができたのだから。
その異常さを、その破天荒さを、その信頼の強さを、その力の一端を、その世界の一欠片を……
「私はあんたたちに比べたらひどくちっぽけな存在だけど……あんたたちが背中を押してくれたから、勇気をくれたから、そばにいてくれたから、私は前に進めるわ。」
炎の中、光輝、りの、志狼の背中を見つめるリズはどこか晴れ晴れとした、スッキリとした雰囲気で、今まで見たことがないほど穏やかに笑っていた。
獣人、しかもハイエナのボスを吹き飛ばした人間を見ながら、下っ端の獣人たちは呆然としていたが、ようやくボスが倒されたことに気づき、大慌てで逃げていった。
その状況で光輝は感心したように頷いていた。
「ふむふむ、ボスは吹き飛ばされ、アジトは全焼……派手にやったねぇ。」
そんな光輝に志狼は呆れている。
「ほぼお前がやったんだろ。」
「いやー、俺魔法の練習とかしてないから、威力がどんなもんかわからなくて〜。」
光輝はおどけて笑うだけである。
「……レオ、ン…が、倒れ、そう……」
「あははははっ!まぁ、クリスがなんとかするだろう!」
彼らの会話を聞いていたリズはそこで首を傾げた。
「クリス?」
そんなリズに光輝は楽しそうに答える。
「ん?俺たちの家主かな!」
「ふーん。この世界の人間?」
「ああ。」
志狼が頷いたのを見てリズは少し感心した。
どこの世界にも変わった人はいるものだとリズは思ったのだ。
そして、彼らが信頼するほどの人間がこの世界にもう1人いるのかと感心した。
その後、4人は再びグリフォンでリズの村まで戻った。
別れの時である。
普通にあっさりした別れだったが、別れ際に光輝がふとリズを振り返って言った。
「あんたに悲劇のヒロインは似合わないよ。」
朝焼けの中リズはただ笑って手を振った。
彼らに感謝の言葉なんて無意味だと思ったから。
そうして、見えなくなるまで彼らの背をリズは眺めていた。




